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黄昏ヨーロッパ

2019年4月15日の大火災で焼け落ちたパリのノートルダム大聖堂は、約5年の修復を経て2024年12月にやっと一般公開を果たした。ところがその翌年の秋、今度はルーブル美術館から「ナポレオン時代の国宝9点」が工事業者を装った窃盗団によってあっけなく盗まれてしまった。検察は実行犯4人全員の身柄を確保したというが、総額160億円を超える宝飾品は1点を除いて今も行方知れずだ。
ルーブル美術館は来館者数が年間1千万人を超える世界一の美術館だ。文化芸術大国フランスを体現するが故に、マクロン大統領は事件後「私たちの歴史への攻撃だ」と非難声明を出している。しかしその管理の実態は情けなく、警備の不備や人員不足などが次々と露呈している。ソルボンヌ大学ルーブル美術館研究所のモリニエアンドロエ研究員は「フランスのソフトパワーの象徴であるルーブル内で今起きていることは、フランス社会の構造的不安そのものを示している」と指摘する。
昨今ヨーロッパでもエリート層の出生率急落で、2千年以上にわたってヨーロッパ文明を支配してきたキリスト教文化圏は老齢化し、イスラム教徒を中心とした周辺諸国からの移民流入無しには経済は立ち行かないのが現状だ。そこにはルーツを同じくするユダヤ教とイスラム教の間で苦悶するキリスト教の黄昏が現れている。
ヨーロッパ連合(EU)として政治も経済も統合されつつある6億人の民からは「故郷」や「家庭」といった求心力が奪われつつあり、経済的に分断された人々は安易に国家の福祉制度に依存する。また社会をリードしてきた政治的・文化的エリートや富裕層たちは自らの文明を守ろうという関心を失い、より税金の安いヘブンを目指して安易に出国していく。
ユダヤ教原理主義者が牛耳るイスラエルとその脅しに乗ったアメリカが起こした今回のイランとの戦いでは、ヨーロッパ連合は毅然とした対応ができずただの口先介入に終始した。これはヨーロッパ民主主義のレジームが完全に崩れたことを示唆している。
ヨーロッパの凋落を前に世界の警察を自認してきたアメリカは建国僅か250年の若い国である。そして良きにつけ悪しきにつけトランプという独裁者を産み出し、黄昏たヨーロッパ文明を独自の価値観で上書き処理している。
振り返ると日本も160年前の明治維新でそれまでの武家社会の価値観から西欧的価値基準にいち早く乗り換え、近代化を進めてアジアの雄となり、更に太平洋戦争の敗戦を機にアメリカとの同盟を結び文化産業両面で独自の価値観を築き上げてきた。
黄昏るヨーロッパを尻目に、日米両国5億人の民が太平洋同盟を築きあげ、新たな世界基準の文明の創造を始めてもそれは歴史の必然なのかもしれない。

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