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超国家

中国の傀儡政権への抗議活動が続く香港で、24日に区議会議員選挙の投票が行われ即日開票された。
結果は投票率71.2%、民主派は18選挙区の定数452議席中85%以上を占めるという驚くべき躍進を果たした。中国政府がこの結果をすんなり受入れて発表したことで更に驚いた人も多い。
中国共産党政府は大人の対応をしたという評価がある一方で、翌々日にアリババの香港上場を控え合理的かつ必要な対応をしただけだとの冷めた見方もある。
そのおかげか26日のアリババ香港上場は大成功。売り出し価格を一時8%近く上回り、終値は187.6香港ドル。創業者ジャック・マー自身が中国共産党員であることをカミングアウトしているアリババは今やほぼ中国国営企業と言ってもいいのだが、自由主義陣営であるNY上場に次いで、民主派圧勝の香港市場からも1兆2千億円以上の膨大な資金をまんまと調達しきったのだ。
米国の巨大IT企業群GAFA (Google/Amazon/Facebook/Apple)が世界を席巻する中、中国のIT企業も自国の膨大な人口に支えられて独自の発展を遂げている。いわゆるBAT(百度/アリババ/テンセント)だ。
アリババの暴力的とすら言える販売力も凄まじいが、テンセントが提供するSNSメッセンジャーアプリ「WeChat(微信)」(https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-43312223 )も今や11.3億人のユーザーを得て、単なるコミュニケーションツールを超える存在となっている。
朝起きてから寝るまで「WeChat」はユーザーの行動の全てをトレース、記録(監視)し、時には小口融資、更には離婚手続きまでをも手伝うようだ。もはや「WeChat」は中国14億人にとって、国家を超え人生を完全にコントロールするツールになっている。
国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)によると、2018年、全世界での携帯電話の普及率は107%(契約数/人口)、先進国128%、新興国102.8%。地球上75億人の民は、すでに多かれ少なかれ国境を越えた巨大SNSに日常を支配され始めている。
これらAIインテリジェンスが創り出す「超国家」 という概念は、そこに集まるビッグデータを巡ってGAFAやBAT各社が一見凌ぎを削るその一方で、マイクロソフトやIBMを含め中国のシリコンバレー「中関村」では隣り合わせに巨大な研究所を持っている。
中国では通じないと言われるGoogleも、中国共産党員も含まれるであろうエンジニア2000人を「中関村」で雇用しているのだが、このことはあまり知られていない。
中国共産党に楯突くことは出来ても、人類がビッグデータを握った「超国家」AIインテリジェンスから自立することはもはや不可能か?
トランプがアリババの香港上場成功を見届けた後、やにわに香港人権法案にサインしたのは偶然ではないだろう。

| 19.11.29

世界の平和

天皇陛下は10月22日の即位礼正殿の儀のお言葉で「国民の幸せと世界の平和を願われるお気持ち」を強く示されたが、特に「世界の平和」については特別の思いを寄せておられる。
先に行われた5月1日の「即位後朝見の儀」でも、「自己の研鑽に励むとともに、常に国民を思い、国民に寄り添いながら、憲法にのっとり、日本国及び日本国民統合の象徴としての責務を果たすことを誓い、国民の幸せと国の一層の発展、そして世界の平和を切に希望します」と世界平和への強い思いを示されていた。
しかし、天皇がお言葉の中で「世界の平和」を強調されればされるほど、現在の日本政府の姿勢はお気持ちと乖離していると感じる。
即位関連の行事については海外のメディアでも数多く報道され、日本の天皇のお言葉への関心の高さがうかがわれる。中でも現在微妙な関係にある韓国では、ニュース専門チャンネルYTN(Yes! Top News)、聯合テレビともに日本専門家を交えて儀式を生中継し、天皇陛下の「世界平和を願う」という部分に戦争への反省の意味がにじむ、という視点で番組が編成されていたのが印象に残る。
平和学の最高権威、ヨハン・ガルトゥング博士(ノルウェー出身https://www.galtung-institut.de/en/home/johan-galtung/ )が来日、日本政府の平和への取り組みについての矛盾を分かりやすく指摘したのは4年前の2015年8月だ。
横浜市の大さん橋ホールで行われた講演には、学生をはじめ約500人が集った。被爆国である日本が今後どうやって世界の平和に貢献していくべきなのかについて、2組の若者代表が真摯な思いをスピーチした後、ガルトゥング博士が穏やかな口調で語り始めた。「残念ながら、現在の日本は、世界平和に貢献することはできません」と…
理由は、「外交・軍事政策がアメリカの意向で決まり、日本が自分で決定できていないから」というものだった。「米国が日本の憲法9条の廃止と軍拡を期待するのは、北大西洋条約機構(NATO)の国々と日本が軍事政策で一致していないためだ。そこで、米国はイエスマンの日本を使って、テロ対策でも日本とスクラムを組もうとしている」と博士は続けた。
要するに、「米国のいう世界平和は自国の勝利であって、日本人が漠然と考えている世界平和ではない。日本が本当の世界平和を希求するのならば、米国の支配から脱して自立した決定をしなくてはならない」と明確に指摘したのだ。
今月、あらゆる政治勢力から自立して「世界の平和」をうたうローマ教皇が38年ぶりに来日する。韓国とのGSOMIAの協定失効が決定的になる日に、教皇は何を日本国民に訴えるのであろうか?

| 19.11.22

うどん睡眠

約10分で眠らせる頭ほぐしで、その快感から現在約49万人が予約待ちという無水ヘッドスパ専門店「悟空のきもち」を運営するゴールデンフィールドが、“眠れるうどん” をキャッチコピーに、寝具の新製品「睡眠用うどん」を発売して話題になっている。
値段は1万6,800円と決して安くはないが月商2億円を売るヒットとなり、現在購入は約1カ月待ちだそうだ。
現代日本人の睡眠への欲求はハンパなく強いものがある。成人の20%が慢性的な不眠、15%が日中に過剰な眠気を感じる睡眠難民だ。
一方、睡眠不足が国の経済にどのような影響を与えるのか。この疑問に2016年に米ランド研究所が興味深い推計を示している。
( https://www.rand.org/pubs/research_reports/RR1791.html )
睡眠不足によって、労働者の健康状態が悪化するだけでなく生産性が大幅に低下し、国の経済に大きな損失をもたらすというのだ。
その損失額は、調査対象となった国の中では米国が最大で4110億ドル(約44兆円)が失われている。米国に次いで大きな損失を生み出しているのが日本で、こちらも1380億ドル(約15兆円)と決して低くない。
近年「働き方改革」や「健康経営」の観点から従業員の睡眠の質に関心を持つ企業も増えており、睡眠ビジネスは国内の潜在市場が数兆円あるといわれている。
さらにはビッグデータやIoTを活用した「スリープテック(Sleep Tech)」の進化により、寝具業界だけでなく、医療、スポーツ、美容など周辺業界への波及効果も期待されている。
ところで「睡眠用うどん」は見た目はまさに巨大なうどん麺が幾本も連なったもので、布団のイメージを完全に覆すものだ。同社によると “ふとん” と呼ぶのはNGで、あくまで “うどん” なのだそうだ。
ざるうどんを食べながら「この中で寝たい」と言ったスタッフの声から「悟空のきもち」が企画、伊勢丹新宿本店の助言協力のもと深部体温と睡眠の深さを追求し、約1年の研究開発期間を経て世界初の睡眠に特化した「睡眠用うどん」の完成に至ったそうだ。
使い方は、縦数本のうどんの隙間に上から入りうどんを自分に絡める。さらに横に渡るうどんを枕にすると安全バーのように肩がうどんでしっかり守られる。しかもうどんの中綿は人工羽毛が使われているため温かい空気保持層に変化して、上掛けをかけると保温性も高まり、これだけで防寒布団より温かくなるという。
疲れをとるための「安眠」から、明日のための始まりとしての「快眠」へ。睡眠が楽しくなる眠りに対する意識改革も必要だ。饂飩でほっとするという感じか?

| 19.11.15

山火事停電

ブラジルのアマゾン森林火災が落ち着いたと思ったら、先月はカリフォルニア州各地で山火事が相次いだ。
中でも最大規模はカリフォルニア・ワインの産地として知られるソノマから州北部で起こった「キンケイド・ファイヤー」で、炎がブドウ畑を覆い一時30万人という住人が自宅から避難したそうだ。
ロサンゼルス、ブレントウッド地区の「ゲティー・ファイアー」は、ビバリーヒルズ近郊の高級住宅地を襲った。有名人の豪邸も数多く被害に遭い、今週来日した元カリフォルニア州知事で俳優のアーノルド・シュワルツェネッガーも、深夜避難に追い込まれたと語っていた。
これら山火事の原因はこの季節乾燥するカルフォルニアの気候に加え、昨今の温暖化の影響で海水温が下がらないことで、小さな自然発火でも温かく乾燥した風に煽られ瞬く間に大きな山火事へと発展してしまうらしい。
一方、昨年のサンフランシスコの山火事は米電力大手PG&Eの送電線トランスのショートが原因、とされたことも大きな問題を招いた。同社は先月、森林火災予防対策として過去最大規模の計画停電を実施し、80万世帯が停電したのだ。
なぜ計画停電が山火事防止に有効なのか?民営化されたPG&Eのインフラは古いまま放置され変電設備がショートする。使わなければショートしない!?という信じられない理論だ。
世界有数の富裕層が集まるカリフォルニアのワイン地帯が、気候変動の影響とインフラの劣化で現代文明の象徴である電力を失うことになったのだ。
戦後のベビーブーミングで大いに繁栄したカリフォルニアはアメリカの富の象徴だった。しかし70年間無策でいた結果、電力供給網は劣化し末期的な状態であることが露見した。
PG&Eは電力事業を効率化するために民営化されたが、森林火災の火元が古い変電施設のショートだと特定されたことで、損害賠償や罰金に備え計140億ドルの費用を引き当てた。これが災いして今年1月に米連邦破産法11条を申請し、経営破綻に追い込まれていた。
ところで、去年のギャラップの調査を分析すると、アメリカ社会の若者に新たな現象が起きている。18〜29歳の若者世代では「社会主義に好意的」と答えた人が51%にのぼり、資本主義の45%を上回ったのだ。( https://news.gallup.com/poll/240725/democrats-positive-socialism-capitalism.aspx )
民主党左派系のカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、PG&Eの失敗を「資本主義の貪欲さが気候変動と組み合わさった結果だ」と非難している。
来年は米国の大統領選挙だが、カリフォルニア州の山火事は思わぬ方向に飛び火している。

| 19.11.08

ネトフリ

映像ストリーミング配信サイトのNetflix(略称ネトフリ)の勢いが凄い。世界190カ国で1億3,000万人以上の会員を持ち、ライバルに差をつけて世界最大規模だ。既存の映画のみならずオリジナル作品を多数配信し、Amazonプライムビデオ(8,500万人)、 Hulu(2,800万人)やU- NEXT(非公開)との差別化に成功している。
中でもオリジナルのドラマシリーズ「ザ・クラウン」が最近話題になっている。現役の英国女王エリザベス2世の人生を描いているのだが、フィリップ殿下との結婚生活のギクシャクから妹・マーガレット王女との確執、チャーチル首相との政治的やりとりなど、ここまで描いていいのかと思うほど生々しい場面が続き、観る人を飽きさせない。
テレビのアカデミー賞といわれるエミー賞を2018年に受賞、90歳を超えてなお現役のエリザベス女王自身もこのドラマのファンなのだそうだ。
先に行われた天皇陛下の「即位礼正殿の儀」には、日本が国と認めた195カ国のうち191カ国が参列した。世界で最も長く続く日本のロイヤルファミリーへの世界の関心も高い。
人々が本来覗くことのできないロイヤルファミリーの儀式。英国からチャールズ皇太子、スペインの国王フェリペ六世夫妻、オランダのウィレム・アレクサンダー国王夫妻、ベルギーのフィリップ国王夫妻、ブータンのワンチュク国王夫妻等、世界の主な王室がほぼ勢揃いし、王妃たちの麗しいドレススタイルも垣間見ることができた。ネトフリはこうした世界を外から見るだけでなく、あたかもロイヤルファミリーの一員であるかのような体験コンテンツを作り出すことも可能であるといえるのかもしれない。
これが音楽配信と映像配信の大きな違いといえる。ネトフリの持つ映像力は、仮想現実の世界を作り出し、8Kサービスが始まれば現実との境目を無くすことさえできると考えられている。
今年6月、ネトフリは世界中のゲーム開発会社とつながり自社のオリジナルドラマなどを原作としたゲーム制作を本格的に進めていくと発表している( https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190618-00010000-magmix-game )。
未知なるものを居ながらにして体験し、ゲームの手法で自らのアバターが仮想現実の中に入り込んでいくことを想定しているのだ。
豪華客船に乗ったまま世界中を見て回るのが現代だとしたら、自宅のリビングルームでSF世界や世界中の都市、あるいは宇宙空間までもゲーム感覚で体験する時代を目指すということなのだろう。
ネトフリがゲーム業界に参入するニュースは、別に驚くにはあたらず自然の成り行きだ。映像の世界は、観るものから参加体験するものへと大きく舵を切り始めているようだ。

| 19.11.01

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