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Origami

米国のNASAでは、日本に古くから伝わる「折り紙」を宇宙開発に応用する研究が進められているという。「折り紙」と最先端技術の宝庫である宇宙開発にいったいどういうつながりがあるというのだろうか。
“Origami”ははさみやのりを一切使わずに1枚の紙を折るだけで動物や花など色々な物の形を作る日本の技として、広く海外で紹介されている。江戸時代に広く庶民に普及したため伝統的なアートのイメージが強いが、最近、数学的なアプローチにより新しいものに生まれ変わろうとしている。海外でも“Origami”は本格的な数学的解析の材料となり、すでに車のエアバッグから変形するロボット、人体組織工学に至るまで、さまざまなテクノロジーの分野において応用されているそうだ。
NASAでの“Origami”技法の主な用途は太陽電池パネルへの応用だ。直径25メートルの巨大な太陽電池パネルをいかにコンパクトに収納するか。宇宙へ運搬できる荷物の量が極めて限られている中で、部品に分解せずに渦を巻くようにして直径2.7メートルにまで折り畳み、1回のロケット発射で打ち上げることを狙っている。宇宙空間ではただ広げるだけですぐに機能し、宇宙飛行士の作業も軽減されるということだ。
一方地上では、カヤック好きの建築家アントン・ウィルスが“Origami”からヒントを得て考案した、折り畳みカヤック「Oru Kayak」(http://www.orukayak.com/、US$800)が注目されている。折り目のついた一枚の平面軽量プラスチックがわずか5分でカヤックにトランスフォーム、コンパクトに折りたためて、重さは約11kgと肩にかけて持ち運び可能。安全性や機能性はプロも認めるほどで、初回生産モデルはすぐに売り切れるほど人気を集めた。
将来的には、山折り谷折りが基本の“Origami”の技術が、医療(体内に投入するインプラントなど)や開くと飛び出す電話機、さらには必要なときにパッと開くテントなど、様々なものに応用されると見込まれ、その発想や用途はますます広がる勢いだ。
鎖国をした江戸期に究極まで昇華した江戸町民文化は、明治以降、開国して150年近くたちながらいまだ文化的位置づけが定まらない現在より、はるかに文化度が高く成熟した独自のものであったことを思い知らされる。

| 14.09.26

だんぼっち

バンダイナムコグループの株式会社VIBEが昨年10月から59,800円で発売している、段ボール製の「歌も演奏もおまかせ!」防音個室「だんぼっち」(http://www.danbocchi.com/)だが、次第にその評価が高まってきている。「だんぼっち」は、オンラインゲーム時のボイスチャットやカラオケの練習、自主制作動画のレコーディング、一人用ホームシアターをイメージして開発された“箱”だ。一人で入って、完全に一人だけの空間を作ってしまう。見た目にはシュールだが、性能と手軽さ、安さ、防音性能が評価されており、“箱男(女)”になって自分の世界に没入できる魅力がある。
最近、外で人と交わる代わりに「だんぼっち」に入って映画を観たり、1人でファミレスやディズニーランドに行き写真を撮ってSNSにあげるなど、ひとりぼっちを充実させて過ごす現象が注目され「ぼっち充」なる新語が生まれている。ちなみに「だんぼっち」のユーザーも、中で映像や音楽を視聴する時のプライベートシアターのような没入感を吹聴したり、独自にカスタマイズを施す様子をTwitterやブログに投稿したりして、「だんぼっち」の楽しみ方を広く紹介している。さらに798,000円出すと、有限会社フレスコが発売する、カプセル型で画面や音響がすぐれた “大人の秘密基地” 「KAKUREYA」(http://kagu-cozy.co.jp/SHOP/gno-001.html)もある。
博報堂ブランドデザイン若者研究所は、「友人と一緒より、1人でいたい」という若者が増えているのではないかと分析している。「1人で過ごす時間を増やしたい」と考えている若者が1996年は28.8%だったのに対し、2012年には36.5%と着実に増加しているという。
つまり、自由気ままに過ごすことができる「ぼっち充」は、あくまで本人は一人を楽しんでいるので本人的には「ぼっち」ではない。そして実はSNS上でつながっているので、「ぼっち」だけど「ぼっち」じゃないということのようだ。
人間だれしも好きな事に没頭し、一人悦に入るということはあるが、積極的に“箱”に入って楽しむとは…安倍公房の『箱男』のシュールな生活は時代を見越していたのかと今更ながら感心する。たしか『箱男』には看護婦の娘に5万円で箱を売ってくれと言われて箱男が困惑するというシーンがある。「だんぼっち」が59,800円なのは偶然なのか?

| 14.09.19

クニエダシンゴ

今年のUSオープンテニスの男子シングルス、錦織圭が驚異的な成長を見せ、4大大会の決勝にアジア人として初めて進出した。結果は惜しくも準優勝に終わったが、テレビ各局もすごいフィーバーぶりで、国政選挙並みの対応を見せた。錦織の活躍は実に素晴らしかった。しかしテニス界の頂点までには、まだ4大大会の制覇(グランドスラム)とオリンピックの金メダル獲得を同時に成し遂げるゴールデンスラムが待ち構えている。テニス界でトップに上り詰めるにはまだまだ険しい道が待っているのだ。
しかし、ニュースではほとんど語られなかったが、日本には既に偉大なテニス選手がいる。錦織が準優勝になる中、同じUSオープン車椅子部門で男子シングルス、ダブルス共に世界一に輝いたクニエダシンゴだ。
30歳の国枝慎吾(http://www.tennis-navi.jp/blog/shingo_kunieda/)は、同大会の車椅子部門で3年ぶり4度目の優勝をし、今季全豪、全英、全仏、全米の四大大会全てのシングルス優勝(グランドスラム)を果たした。それにより何と4度目の年間グランドスラムを達成したことになるという。これは世界でもクニエダシンゴだけだそうだ。彼は、2006年に初めて世界ランク1位となって以降、2008年の北京パラリンピックのシングルスで金メダルを獲得するなど、車椅子テニス界の第一人者として現役で活躍し、世界のテニスプレーヤーに最も尊敬されている選手だ。なのに日本のメディアは、何故か彼を取り上げない。今回のUSオープンでも解説者の松岡修造は遂に一度も取り上げなかった。なぜなのだろう。
ここに面白い逸話がある。数年前に日本のスポーツ記者が元男子シングルス世界ランク1位のロジャー・フェデラーにインタビューした時に、「なぜ日本から世界的なテニス選手が出ないのか?」と聞いたそうだ。するとフェデラーは即座に「何を言っているんだ君は? 日本にはクニエダシンゴがいるじゃないか!」と言い、さらに、自身のグランドスラムについても、「グランドスラムは自分よりもクニエダの方が先だろう」と答えたという。
日本のマスコミは、事実よりシナリオを大切にする。もちろん松岡修造も国枝慎吾を知っているだろう。しかし、国枝のスゴサを取り上げたら錦織がしぼんでしまうのだ。錦織はグッドルッキングでもあるし、ここは国枝を無視して視聴率の為にどういうシナリオが大事かと判断してしまう。事実の報道よりも、受けるストーリー性が大切になってしまうのだ。スポーツマスコミにおける松岡修造(テニス)や松木安太郎(サッカー)は、既に解説者ではなく自らがパフォーマーだ。
大手マスコミのこの報道の姿勢は、朝日新聞を笑えないのではないか!

| 14.09.12

QMONOS(クモノス)

芥川龍之介の小説『蜘蛛の糸』でカンダタが蓮の池から地獄へ垂れてきたクモの糸につかまってよじ登るシーンは、非現実的だと誰もが考えていた。
ところが、クモの糸には実際に人間をもぶら下げてしまう強靭さが備わっていたようだ。日本のバイオベンチャーが開発した人工のクモの糸が、鋼鉄よりも強くナイロン以上の柔軟さを兼ね備える「夢の繊維」として、今、世界中で注目されている。
クモ糸の主成分はフィブロインと呼ばれるタンパク質。クモ糸最大の特徴はその強度で、直径1センチのクモ糸で巣を張れば、ジャンボジェットを捕えることもできるほどだという。また、クモにとって「命綱」として使われている牽引糸は、防弾チョッキに使用されている「アラミド繊維」に匹敵する強度と、ナイロンを上回る伸縮性を持ち、既存の化学繊維をはるかに上回る強さがあるそうだ。耐熱性にもすぐれ、300度超の熱にも耐える上にカーボンファイバーより4割も軽量だという。
そんな優れもののクモの糸だが、クモ自体をまとめて飼うのが難しい上にコストなどの問題もあって微量しか生産できなかった。しかし、脱石油による高性能繊維の開発と生産を目指すバイオベンチャー企業「スパイバー株式会社」(山形県鶴岡市、関山和秀社長 http://www.spiber.jp/)は、このクモの糸の遺伝子配列をすべて調べ上げ、遺伝子を組み換えた微生物を利用して、クモの糸成分の繊維を量産できる技術開発に世界で初めて成功した。開発された新素材を「蜘蛛の巣」を語源にした「QMONOS(クモノス)」と命名、自動車車体などへの応用も想定しているそうだ。
一方アメリカでも、米国ミシガン州に本拠を置く「Kraig Biocraft Laboratories, Inc. 」(http://www.kraiglabs.com/)が、蚕にクモの遺伝子を組み込み、クモの糸とほぼ同じ性質を持った絹糸「モンスターシルク」を量産できる技術を開発している。
今世紀に入ってから遺伝子組み換え技術は長足の進歩を遂げ、生物のメカニズムを産業に生かす生物模倣技術の画期的な研究成果が相次いで報告されている。17世紀後半から18世紀の産業革命は物理学を土台とした機械技術の時代を切り開き、21世紀には生物学を土台にしたバイオ技術の産業革命が起きつつある。しかし、これは化石燃料に代わる新たな原料供給を必要とするだろう。原料のアミノ酸を求めて、また新たな植民地を作り出すことになるのだろうか?

| 14.09.05

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