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QMONOS(クモノス)

芥川龍之介の小説『蜘蛛の糸』でカンダタが蓮の池から地獄へ垂れてきたクモの糸につかまってよじ登るシーンは、非現実的だと誰もが考えていた。
ところが、クモの糸には実際に人間をもぶら下げてしまう強靭さが備わっていたようだ。日本のバイオベンチャーが開発した人工のクモの糸が、鋼鉄よりも強くナイロン以上の柔軟さを兼ね備える「夢の繊維」として、今、世界中で注目されている。
クモ糸の主成分はフィブロインと呼ばれるタンパク質。クモ糸最大の特徴はその強度で、直径1センチのクモ糸で巣を張れば、ジャンボジェットを捕えることもできるほどだという。また、クモにとって「命綱」として使われている牽引糸は、防弾チョッキに使用されている「アラミド繊維」に匹敵する強度と、ナイロンを上回る伸縮性を持ち、既存の化学繊維をはるかに上回る強さがあるそうだ。耐熱性にもすぐれ、300度超の熱にも耐える上にカーボンファイバーより4割も軽量だという。
そんな優れもののクモの糸だが、クモ自体をまとめて飼うのが難しい上にコストなどの問題もあって微量しか生産できなかった。しかし、脱石油による高性能繊維の開発と生産を目指すバイオベンチャー企業「スパイバー株式会社」(山形県鶴岡市、関山和秀社長 http://www.spiber.jp/)は、このクモの糸の遺伝子配列をすべて調べ上げ、遺伝子を組み換えた微生物を利用して、クモの糸成分の繊維を量産できる技術開発に世界で初めて成功した。開発された新素材を「蜘蛛の巣」を語源にした「QMONOS(クモノス)」と命名、自動車車体などへの応用も想定しているそうだ。
一方アメリカでも、米国ミシガン州に本拠を置く「Kraig Biocraft Laboratories, Inc. 」(http://www.kraiglabs.com/)が、蚕にクモの遺伝子を組み込み、クモの糸とほぼ同じ性質を持った絹糸「モンスターシルク」を量産できる技術を開発している。
今世紀に入ってから遺伝子組み換え技術は長足の進歩を遂げ、生物のメカニズムを産業に生かす生物模倣技術の画期的な研究成果が相次いで報告されている。17世紀後半から18世紀の産業革命は物理学を土台とした機械技術の時代を切り開き、21世紀には生物学を土台にしたバイオ技術の産業革命が起きつつある。しかし、これは化石燃料に代わる新たな原料供給を必要とするだろう。原料のアミノ酸を求めて、また新たな植民地を作り出すことになるのだろうか?

| 14.09.05

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