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虫塚

先日6月4日の「虫の日」、神奈川県鎌倉市の建長寺で、昆虫好きで知られる解剖学者の養老孟司によって、人に殺生された虫の供養のための「虫塚」(http://mainichi.jp/select/news/20150605k0000m040015000c.html)が建立された。
記念碑とモニュメントは、地元の私立栄光学園中学・高校、更には東大で養老の後輩にあたる建築家隈研吾が設計した。環境を意識し、周囲の竹林と調和させたデザインは隈研吾お得意の手法だ。養老孟司は少年時代から昆虫標本に興じ、そこから解剖学や自然観などさまざまな研究や思索の幅を広げてきたそうだ。これまでに自身が採集してきた虫の供養をするとともに、一人でも多くの人に虫について考えてもらおうと思ったことが「虫塚」建立のきっかけだという。
最近、虫の能力を学んで人間の生活に生かす研究も盛んだ。シャープのエアコンや空気清浄機のファンは、薄い板をギザギザに折り曲げたトンボの羽の形を応用することで徹底的にその効率を突き詰めている。またカタツムリの防汚メカニズムを生かしたタイルや、蛾の複眼のしくみをヒントにした無反射フィルムなども作り出されている。虫が持つ機能や能力は、大いに人間生活の参考になるというわけだ。
来月公開の3D昆虫ドキュメンタリー映画、『アリのままでいたい』も話題だ。製作期間3年をかけ、昆虫写真家・栗林慧氏が世界で唯一の特殊カメラ「アリの目カメラ」で撮影した3D昆虫ドキュメンタリーだ。日本に生息する50種類以上の昆虫が登場し、超クローズアップで、カブトムシ、クワガタムシ、スズメバチなどの生態や樹液を巡る戦いなど熾烈な生存競争が迫力満点に描かれているという。
養老孟司は、人間が虫や自然に触れずに意識の中だけでそれらを想像して生きるようになった世界のことを、「脳化社会」と言っている。スマホやパソコンを通して脳みそのイメージの中だけで歩き回っていると外部がなくなり、感性や感覚がやられてしまうと警告する。脳化社会に生きる感性や生の感覚を失った人間…。
子供の虫捕りは残酷だと言われがちだが、虫を殺して残酷さを学んでいるとも言える。その残酷さを知れば、簡単には人の頭を切り落としたりできないだろう。

| 15.06.26

コモン・センス

選挙権年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げる改正公職選挙法が成立した。来年夏の参院選で18、19歳の約240万人が新有権者となる。来年の参議院選挙が楽しみだ。思わぬ結果になるかもしれない。そして当然、最高裁で違憲判決が出ている一票の格差はそれ迄に是正されると期待している。
米国から押し付けられた憲法を日本国民が自主的に制定し直すことによって、初めて戦後レジームから脱却できるのだという安倍総理の論理は、今回の安全保障関連法案を巡って憲法解釈を曲げてでも成立させようという自らの発言と矛盾する。憲法学者から総スカンを食らっても正当化しようとしている、憲法を形骸化させてまで暴走する権力が、新たな憲法を作ると言っても、国民は合意出来ないだろう。アメリカから早期成立を命令され、憲法を改正して臨む時間がないので、無理やり成立させざるを得ないのですと素直に認めれば同情する人も出てくるだろう。
かつてそのアメリカも、イギリス植民地からの独立戦争を戦った。そして戦争開始翌年の1776年に、トマス・ペインによって『Common Sense (pamphlet)』が発表されベストセラーとなったことは有名だ。アメリカがイギリスから分離・独立することが正当であることを簡潔に力強く訴える内容はたちまち民意を得て、7年間にわたるイギリスとの戦争を完遂、勝利に導く大きな力となった。日本では『Common Sense』を常識」と訳しているが、むしろこの場合は「民意」が相応しい。巨大帝国イギリスと戦ってでも独立を勝ち取ることが、当時アメリカのコモン・センス(民意)だったのだ。
昨年出版された『コモン・センス完全版』(http://www.amazon.co.jp/dp/4569820301)によると、ペインは当時のアメリカとイギリスの関係を、「イギリスはすごい国に決まっていると思い込み、イギリスの保護がなければ何もできないとアメリカ人は錯覚している」。「イギリスに守ってもらわなければどうしようもないという固定観念にとらわれ、安全保障でイギリスに依存しているばかりに、経済面で不利な条件を押しつけられている」などと論じている。文中の「イギリス」を「アメリカ」に置きかえ、「アメリカ」を「日本」に置きかえると、聞き覚えのある、現在の日本の状況とよく似た状態だったことがわかる。
しかし、安倍首相の国会での言葉にはトマス・ペインのような説得力は無い。コモン・センスが形成できていないことを知るべきだろう。

| 15.06.19

仏ライフ

寺社フェス、寺カフェ、尼僧(にそう)バー・・・今、若い世代を中心に、従来とは違う形で仏教や僧侶が関心を集めている。テレビ朝日で放映中の『お坊さんバラエティ ぶっちゃけ寺』も仏教をテーマにした番組だが、ゴールデンに進出し宗教番組としては異例の高視聴率を上げている。
港区の増上寺で開催された「向源」(http://kohgen.org/)は、ここ数年ゴールデンウィーク中の5月2日と3日に開催されている寺社フェス、宗派を超えた仏教と音楽を軸としたイベントとしてはじまった。今年は坐禅入門、仏教×神道トークショー、能楽体験などなど、およそ40種類の体験が行われ、当初の目標である5000人を超える6000人の来場者で大盛況だったそうだ。これまでの仏教ブームの中心は30~40代の女性だったが、「向源」の参加者は年々幅が広がり、20代の若者や男性も多くなってきているという。また9.11や3.11以降、テロや大震災を経験して、いつどんなことが起きるかわからない『諸行無常』を肌感覚として実感する人が多くなったことが、こうしたイベントの増加につながっているのではないかと思われる。
寺に行かなくても気軽に仏教体験ができる「寺カフェ代官山」(東京・渋谷)も人気だ。川崎市にある信行寺が運営するカフェで、精進料理を食べるもよし、3人の僧侶がローテーションで常駐しているので、悩み相談もできれば写経や念珠(数珠)作りも体験できる。
ロウソクの炎がゆれ、線香がくゆる中、カウンターには本物の尼僧と尼さんの格好をしたスタッフが立つ「高円寺・尼僧バー」(東京・杉並区)や、お坊さんがバーテンダーを務め、客の様々な悩みと向き合う「中野・坊主バー」(東京・中野区)も人気だ。
信仰ということではなく、お釈迦様が仏教を開いてから今日まで約2500年の歴史の中で培われてきたアジア的価値観への関心が高まっているのではないだろうか?
4月からdot.でスタートした「仏像さんのつぶやき」(http://dot.asahi.com/butsuzo)は、アジアや日本の仏像やお地蔵さんが日替わりでなにかを呟くというものだ。仏像のユニークな表情とともに、その言葉から安らぎが伝わってくる。
一神教の価値観がもたらす、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の負の連鎖とテロへの無情感が、仏教人気の背景か?

| 15.06.12

個室トイレ男子

最近高速道路のサービスエリアの男性トイレで、個室トイレを増やす工事が進められている。
NEXCOのサービスエリアにあるトイレは2015年年頭に、近畿・中四国・九州に計304か所あり、男性の個室トイレは33%を占めるまでになってきているそうだ。理由として、個室トイレの使われ方の多様化があげられている。子供連れの父親が利用したり、男の子が洋式トイレで座って小用を足したりと、家庭で洋式トイレが一般化したことも大きいようだ。並行して個室トイレの利用時間も伸びているらしい。NEXCOが新名神道の男性トイレの使い方を調査したところ、1回の平均利用時間は個室トイレで3分15秒と、5年ほど前よりも1~2割長くなっているという。「洋式トイレでは座って楽な姿勢をとれる。個室でスマホをさわるなど、一息つく人もいる」とみられている。
時代の移り変わりとともに、トイレ様式も少しずつ変化を遂げている。特に洋式便器やウォシュレットの一般化などが男性の小便スタイルに与えた影響は大きい、TOTOの昨年の調査によると、洋式便器に座って小便をする人は36%に及び、さらにその割合は年々増加傾向にあるという。トイレ空間へのこだわりは女性のほうが強いが、 “座る派”男子がさらに増えることで、男性の“トイレ=リラックススペース”という意識はさらに高まっていくのだろうか?
そうした中、4月に成田国際空港の第2旅客ターミナルに体感型トイレ「ギャラリーTOTO」(http://www.toto.co.jp/gallerytoto/)がオープンした。「L字」「T字」など様々な個室形状で、最先端のTOTO製品が記憶に残る演出で設置されている。除菌しながら汚れを落とし脱臭する清潔で汚れないトイレや、スマートフォンで水も流せて、トイレ本体に内臓したスピーカから音楽も楽しめる多機能トイレも登場し、 “トイレ先進国”日本が世界に発信されている。
一方、「友達がいないのかな」と思われることを恐れるあまりトイレで食事をする「便所飯」が話題になるなど、SNSの発達等により人とつながることが簡単になった反面、人とつながっていないことをマイナスに捉えるようにもなっている。トイレが快適になればなるほど、ついついトイレで食事をしてしまうなど長居をする人がますます増えそうだ。
通信ネットワーク時代が快適な個室を求める人を増やすとはなんとも皮肉な社会現象だ!

| 15.06.05

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