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トルストイレシピ

ソチ冬季オリンピック開会式の「ロシアの夢」にも登場した、ロシアの偉大な作家レフ・トルストイ。トルストイは帝政ロシア時代の1828年、トゥ-ラ郊外の広大で豊かな自然に恵まれたヤースナヤ・ポリャーナの伯爵家の四男に生まれた。彼の生誕185年にあたる昨年から全作品90巻の電子化(www.tolstoy.ru)が着々と進んでいる。そうした中、トルストイ家のレシピ本がiOS向けのアプリとして登場して注目を集めている。
ぜいたくで派手な料理ではなく、一般的なヴァレーニキ(水餃子のようなスイーツ)、目玉焼き、ポテト・プディング、きのこ汁、プリャーニク(はちみつパン)など、ソフィヤ夫人によるこのレシピ本は、家庭のレシピそのものだ。トルストイ家は広大な農地を相続したが、同じ水準のロシア貴族の家庭に比べ素朴で質素だ。その生活には素朴さと誠実さがあふれ、帝政ロシア末期の貴族社会との葛藤や反発の精神が垣間見られる。のちに非暴力主義を展開する当時の背景を理解することができるとも評されている。19世紀後半のフランス料理の影響が大きく及んだ料理や、知人や友人、親戚の名前がついた料理も掲載されているが、それぞれのレシピにエピソードがあり、当時の地方の文化生活を表した本として読者の関心を集めている。
帝政ロシアの知識人は、伝統的に、金銭や食べ物など物質的なものを精神的なものより低く見ていたため、ロシア文学も食に対しては禁欲的なことが多い。しかし、このレシピ本には、もてなし好きのトルストイ家の生活の明るい面が描かれ、家族で囲む食卓に乗る料理の数々が、ロシアの多様な地域性、宗教、ときには時代背景や思想をも越えて、読む者の眼前に映し出される。
「神々は人々に食べ物をつかわしたが、悪魔は料理人なるものをつかわした。」はトルストイの名言だが、さて…。
約50のレシピとコメントが入った無料アプリは、現在ロシア語でのみ配信されているが、全レシピがすでに英語に翻訳され英語のアプリも計画中とのこと。今週は、奇しくもトルストイに深く影響を受けた作家の辻井喬(堤清二)を思い出す週でもあった。

| 14.02.28

プレミアムアイスる

セブンイレブンの「セブンゴールド 金のアイス」シリーズ第3弾商品、限定発売の『濃厚生チョコ』がウマすぎると巷で話題になっている。また、ハーゲンダッツが30周年を記念して2月3日より春期限定で全国販売を開始した、ハーゲンダッツミニカップ『30th アニバーサリーサクラ』 と『30th アニバーサリー ローズ』も売り切れ続出のようだ。
夏の風物詩であったアイスクリームだが、最近のプレミアムアイス化に伴って冬アイスが定着し、年末年始も真夏に並ぶほどの売れ行きで、中でも高級アイスクリームは冬が最も売れている。前出の「セブンゴールド 金のアイス」シリーズは、2013年11月から発売2カ月で合計370万個を売り上げ、「セブン-イレブン」ではプレミアムアイスの販売額が昨年比3割増で推移しているそうだ。冬は外気と室内の温度差が激しいため体は大きなストレスを抱えている。そうした冬ストレスを解消するためにたくさんの糖分が必要となり、濃厚なクリーム系アイスが食べたくなるというわけだ。分類で見ると、乳脂肪分8%以上がアイスクリーム、3%以上がアイスミルク、ラクトアイスは0%だ。プレミアムアイスクリームに法的な規格はないが概ね15%以上と、特に濃厚なものになっている。
社団法人日本アイスクリーム協会が公表しているユーロモニター社の統計によると、世界各国の2012年1人当たりのアイスクリーム年間消費量はオーストラリアがトップで17.4リットル、次に、ニュージーランド(15.3L)、フィンランド(14.1L)、アメリカ(12.5L)、カナダ(10.3L)と続く。以下、イタリア(9.2L)、ノルウエー(9.0L)、スウェーデン(8.5L)、イギリス、ドイツ(8.4L)、チリ、ポルトガル(8.0L)、デンマーク(7,8L)、スペイン、エストニア(7,6L)で、16位日本(7.0L)と消費量はトップのオーストラリアの3分の1、アジアからは他にシンガポールが25位に入るだけだ。
商品のバリエーションは世界ダントツだが、日本のアイスクリームの歴史は浅く、いまだ夏の暑い時の清涼感を求めたもので、欧米の様にリッチなプレミアム食品としての位置づけはこれからだ。とは言え、戦後日本がいかに繊細かつ欧米化した消費マーケットに育ってきているかがわかる統計だ。

| 14.02.21

F1魂

1970年代後半のF1グランプリを舞台にした映画「RUSH-プライドと友情」が2月7日から公開され話題になっている。1976年日本の富士スピードウェイで初めて開催されたF1レースで繰りひろげられた、ジェームス・ハント、ニキ・ラウダの劇的なチャンピオン争いと共に、2人のトップドライバーの対照的な性格とスタイル、心の葛藤などが描かれている。
登場するマシンは現存する当時のマシンを実際に使用、登場する人物もホンモノそっくりの俳優を起用するコダワリぶりに、モータースポーツファンの多くが大いに感動している。当時のF1マシンは今のF1マシンに比べて安全性が著しく低く、ドライバー達が数多く命を落としてきた。70年代のF1マシンはまさに「走る棺桶」であり、そうであっても恐怖に怯えず「No.1になりたい!」という気持ちを先行させられるドライバーとメーカーだけが、頂点まで登り詰めることができる最後の時代だったと、「RUSH」を観て確信した。
その後、80年代に入ってホンダがアジアから台頭し、コンピューターによって解析されるシステマチックなF1の時代が始まり、マシンの力が人の力を上回って勝ち続けるチームが出るような今のつまらないF1になってしまった。ホンダは1988年にマクラーレンホンダで16戦15勝を達成しているが、その後は、レギュレーションの度重なる変更で、日本勢がおいそれとは勝てない状況になっている。
しかし、レギュレーション変更を怨んではいけない。昨年ホンダは、メルセデスベンツとのエンジン契約が切れるマクラーレンへ2015年からエンジンを提供しF1へ復帰すると発表した。今回のF1のレギュレーション変更は、ホンダにとって、 “エンジンサプライヤー”ではなく、“パワーユニットサプライヤー”になることを意味している。2つの回生エネルギーシステムをそなえた1.6Lという少排気量ターボエンジンで、“少ないガソリンでどれだけ速く走れるか”という競争に参戦することが、ホンダのチャレンジ魂に火をつけたようだ。
だが、結果をすぐに期待できるだろうか。日本やアジアが見落としているのは、フロンティアには「技術」だけではなく「勇気を伴った技術」が必要だということである。F1は勇気を見せつける舞台であり、エンジンをテストする場ではない。ホンダは成し遂げたが、未だにトヨタと日本人ドライバーが勝てない理由はそこにあることを忘れないようにしろ、と「RUSH」が語っているように思えた。

| 14.02.14

キトラー

キトラ古墳に興奮する愛好者「キトラー」が増殖している。
奈良県明日香村にある「キトラ古墳」、昨年8月に行われた事実上最初で最後となる石室の一般公開には、3600人の定員に全国から1万6000人が殺到するなど、古墳人気が盛り上がっている。日本でなかなか解明の進まない古墳群に、多くの人が古代ロマン(?)の夢をかきたてられているのだ。
今年4月5月には村外では初めて東京国立博物館で、極彩色壁画である四神壁画「白虎(びゃっこ)」、「玄武(げんぶ)」「朱雀(すざく)」、「十二支像」のうち、獣の頭に人の体を持つ子(ね)・丑(うし)が特別公開される。「キトラ」という名前の由来は、古墳を盗掘した人が、「亀虎(きとら)の壁画があった」と人に話したのが始まりとも、明日香村の字名「北浦(きたうら)」がなまって「キトラ」に転じたともいわれている。
発見から30年を迎えた「キトラ古墳」は、壁画などにみられる唐の文化的影響が高松塚古墳ほどには色濃くないことから、遣唐使が日本に帰国(704年)する以前の7世紀末頃に作られた古墳であると見られている。その天井に描かれていた天文図も、春分と秋分の位置を明確に示すなど極めて正確度の高いものとして知られている。コンピューターによって画像解析した天文学の専門研究者たちによると、高松塚古墳の石槨天井に描かれた星宿図よりもキトラ古墳の星宿図の方が精密度が遥かに高いのだそうだ。こうした高水準の天文図が7世紀末の日本に存在していたということは驚くべきことであり、飛鳥という地とその時代が、東西文化の交流する国際化された社会の優れた結実であることを物語っている。
しかし、多くの「キトラ―」の深層心理の中には、たかが1300年前のことがはっきりしない日本の歴史の不明瞭さへの苛立ちがあるようにも見える。6C~7Cを日本ではあたかも歴史が始まる古代(神話の世界)のように思わせているが、世界史では既にローマ帝国や前漢・後漢がはるか前に終わり、中国は隋である。天武天皇以前の日本(倭国)の歴史が意図的に“消されている”ことが「キトラ―」の探求心に火をつけているとは言えないだろうか?

| 14.02.07

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