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ヤクザ映画

ヤクザ映画全盛期の人気俳優のひとり、松方弘樹が亡くなった。74歳。彼は実録ヤクザ映画の象徴で、73年の深作欣二監督の『仁義なき戦い』シリーズが代表作であった。『仁義なき戦い』は70年代日本映画の代表作といっても過言ではない。高度成長期の日本の混沌とした社会の中で懸命に生きる生々しい人間の姿を、任侠の世界の中に描いた。戦後合法的集団と言えなくなったヤクザを美化する事を、なぜ日本政府は許してきたのだろうか?
それまでの「弱きを助け、強気を挫く」だった「任侠」の描き方に対し、あくまでも「暴力団としてのヤクザ」の『仁義なき戦い』を描き、戦後混乱期に活躍したあのかっこいい“ヤクザ”が“暴力団”として扱われていくやるせなさが、「任侠」へのオマージュとして表現されている。
今年、第二次世界大戦後の日本を舞台にした米映画『The Outsider』(http://cinefil.tokyo/_ct/1696179 http://www.imdb.com/title/tt2011311/news)が全米で公開予定だ。この映画は、捕虜となっていた元米兵が同房のヤクザの助けで自由の身となり、“借り”を返すために闇社会へ身を沈めていくというもの。残留米兵の視点で、混沌とした戦後日本を生き抜いたヤクザの姿を力強く描き、誇り高く生きた侍たちの絆を描いた『ラストサムライ』の“任侠版”として注目されている。
借りたものを返すのは万国共通の“義務”だが、“義理”はそれだけではない。アメリカの人類学者ルース・ベネディクトは、今も読み継がれている『菊と刀』の中で、「義理」は翻訳不可能としている。「人類学者が世界の文化のうちに見いだす、あらゆる風変わりな道徳的義務の範疇の中でも、最も珍しいものの一つである」と困惑したように書いている。
象徴としてではあったが天皇制を残したことが、米国の戦後の日本統治と復興政策の要であったと言われている。米国が終戦時に最も恐れたのは、本土決戦と日本兵が地下に潜りテロリスト化することであった。日本から今も覚せい剤が無くならないのは、日本陸軍が膨大な在庫を焼却処分せず兵士に戦後のテロ資金として残した?からとも言える。それが日本兵の受け皿となった地下組織の“凌ぎ”に使われていったのである。
天皇を象徴として残し、辛うじて日本は国体を保った。「ヤクザ映画」の衰退は天皇制の弱体化とリンクしている。米国は難しい日本国の再生を、ほぼ成功裏になし終えつつあるかの様である。

| 17.01.27

ESTA強化

ESTAとはアメリカに渡航する際事前登録しなくてはならない電子渡航認証システムだ。今までは名前や住所、国籍などの個人情報を登録すればよかったが、そこにSNSサービスを選ぶプルダウンメニューが昨年末12月より追加された。
アメリカ国土安全保障省は、ESTA(https://jp.usembassy.gov/ja/visas-ja/visa-waiver-program-ja/esta-information-ja/)登録が必要な、日本を含むイギリスやフランス、ベルギーなど先進国を中心とする38カ国からの外国人旅行者に対し、IS対策の一環としてFacebookやTwitter、YouTubeなどの個人SNSの申請要請を進めるとしている。
要請コメントは、「オンラインサービスを利用する際、どのプラットフォーム、アプリケーション、ウェブサイトを使用して協働、情報の共有、他者との交流を行っていますか、またその際に使用しているアカウントのユーザーネームを入力してください」というものだ。今現在は必須ではないが紐付けは時間の問題のようだ。米当局が安全保障上の情報としてSNSを参照する承認を入国の条件にするということだ。
SNSの持っている情報は住居から家族、仕事、人間関係まで様々だ。普段何をしているか、どんなことに関心を持っているか、どこへ出かけているか、どんな写真やビデオ、あるいはライブ動画を共有しているか?更にどんな人と繋がり、誰と頻繁にコミュニケーションを取っているかもわかる。SNSで調子に乗っていると、思わぬ捜査が待ち構えている時代になったという事だろう。
アメリカ国土安全保障省が、国民の電話のメタデータを大量に集めることは憲法違反だと判断されたにもかかわらず、MS、FBなどSNS各社に、必要となればすべての個人情報を提出するよう圧力をかけていることは周知の事実だ。今回は、外国人に対してもオフィシャルに監視すると宣言した事になる。
前例のないロシアによる選挙ハッキングも露見し、国家安全保障の強化にさらに拍車がかかって行くだろう。
第45代大統領就任まで秒読みとなったトランプ氏だが、彼の勝因はSNS効果とも言われている。今後も新政権で情報発信を行う際は主要メディアを排除し、FacebookやTwitter、Instagramなどから、フィルターを介さずに直接国民に伝えると言っている。既に就任前から盛んにTwitterによる意見を発信し、大企業のトップ達は露骨なトランプ詣でをしている。
トランプ氏はSNSの情報拡散スピードが速いことを本能的に認識する一方、SNSを利用して潜在的脅威を監視していくことになる。
我々は、情報をダイレクトに受発信する権利と監視されるリスクとのトレードの時代に入ったことを認識すべきだろう。

| 17.01.20

Museum Studies

医療機器の発達で見過ごされる「医師の本当のスキル」開発訓練の為に、博物館や美術館に出かけて、芸術作品に描かれた人物の健康状態を“診察”する「Museum Studies」(http://magazine.hms.harvard.edu/art-medicine/museum-studies)というユニークな教育プログラムが、ハーバード大学医学部で実施され注目を集めている。
現在世界の最先端の病院では、集中治療室にある患者管理用モニターは全てデジタル化され、医師はどこに居てもそれを受信できるようになっているそうだ。手術はロボット化が進み、実際に患者に触れないでも行なえるようにすらなろうとしている。またニューヨークの癌センターでは、IBMの人工知能ワトソンを活用して「医療診断」が行われている。これは60万件以上の医療報告書、150万件以上の患者記録や臨床試験記録、200万ページに及ぶ医学雑誌などを瞬時に分析し、患者個人の症状、特に遺伝子情報や薬歴などに照らし、個々の患者に合わせた最良の治療計画を作るものだ。その結果、どんな優秀な医師の診断よりも細かい情報を、新米の医師でも入手できるようになっている。しかしこうした医療情報に慣れてしまった医師たちには自分の五感を使って患者の状態を診るという基本的能力が失われつつあるのではないか、という疑問も出始めているようだ。
「Museum Studies」は、その様なハイテク化する医療現場で、医師の診察技量を機器側から人間側に取り戻そうとする試みだ。実際に教材として使われているのは、盛期ルネサンスのミケランジェロの「アダムの創造」等だそうだ。これらの絵画は脳の正確な解剖を表している事で有名だが、当時の芸術作品には人物が抱える病気や解剖学的メッセージが忠実に表されているようだ。
果たしてこれら教育現場での試みは、医療機器の急激な進歩で逆に動揺する医療の質を高めることになるのだろうか?少なくとも西洋医学最先端の教育の場で、医師が自分の感覚を使って患者の状態を診る手法が見直されている事は画期的だ。デジタル情報の裏を読む訓練だ。
一方日本にも古くから医療に限らず“見立て”という独特の文化が根付いている。“見立て”とは、「ある物の様子からそれとは別のものの様子を見て取る」こと。 目の前で起こっている事の背後に透けて見えるもう一つの真実を見なければならないことを教えている。
最近トランプ次期大統領のツイッターに振り回される世界の巨大企業経営者が多い。もう少し落ち着いてトランプ時代の米国を"見立て"て行くことも大切だろう。

| 17.01.13

三が日休業

百貨店業界が2日から「初売り」を始める中、今年もそごう西武は業界の掟を破り、大手百貨店で唯一元日営業を続けている。その様な中、三越伊勢丹は逆に、2018年から主要店舗で正月三が日は休業し4日から営業することを検討しているそうだ。百貨店はコンビニではない。物を売る以上に日本文化を売っているという自覚が必要だ。
昨年三越伊勢丹は初売りを1月2日から3日に変更し、ネットでは称賛の声が多かったという。さらに正月休日を増やす今回の新方針は、「最高の状態で働いていれば、最高のおもてなしができる」と、休日増加が従業員の意欲を高めサービス向上につながるためだとしている。世界中で1月1日だけが新年の休日という国が多い中、日本の「三が日休業」は新しい年の為に生活をリセットするという伝統、他のアジアの国々にはない日本独自の正月文化を生み出してきた。役所も工場もかつては商店もすべて止まり、静寂の中で三が日を伝統文化と共に過ごす事で、新しい年を迎える喜びを地域と家族とで味わってきたのだ。アジアの大都市で近年深刻な大気汚染が進む中、日本の三が日の澄み切った空気はほとんど奇跡だ。この静寂を求めて日本にやって来る外国人も多い。
ところで、国土交通省は昨年12月26日に、2015年度全国都市交通特性調査(速報版)(http://www.mlit.go.jp/report/press/toshi07_hh_000101.html)を発表し話題になった。今回の調査では、調査日に外出した人の割合と一日に移動した回数のどちらもが1987年の調査開始から過去5回で最低の結果となった。外出しないのは「家に閉じこもった暗い生活をして、不幸せな状態」と判断しがちだが、決して不幸な生活を送っているわけではなく生活に不満足がたまっている状況でもない。博報堂生活総合研究所が昨年まとめた“2017年 生活気分”では、2017年に力を入れたいことは「睡眠・休息」がトップで、「健康」「趣味・遊び」を上回る結果となった。
もともと静的な美を求める日本の生活文化だが、既に四半世紀に及ぶ経済の停滞で独自の熟成が進み、資本主義的拡大主義を否定。富の誠実な再分配を目指して、ある種平等な江戸の町人文化的な発展を良しとし、日本国丸ごと「世界文化遺産」を目指したテーマパーク化が進行しつつあるかの様だ。
グローバル化の恩恵を受けたい日本人は日本を脱出し、ガラパゴス転じて新・日本文化を作り出す人は国内に残る。そんな国になっていくのだろうか?奇しくも交通事故死が4000人/年を割り、1950年代より少なくなったと報じられている。

| 17.01.06

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