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公共交通空白地有償運送

高齢ドライバーによる交通事故が相次いで報道されている。日本では解決策として高齢者の免許証返納が提案されている中、アメリカでは逆に、高齢者の利便性の為に「Uber」型のビジネスモデルで、子どもや高齢者の送り迎えにフォーカスしたサービスが注目を集めている。
片や運転を放棄させて事故を減らそうと老人達の移動の自由を奪う国、片や破たんすることはあっても老人達が使いやすい新しいサービスに挑戦する国、生活者や投資家から見たらどちらが魅力的だろうか?
アメリカでも高齢者の病院通いや、子供の通学の送り迎えは家族の大きな負担であり、共働きの場合大変だ。残念ながら今年4月でサービスを終了してしまったが、「Shuddle」はそうした需要を取り込もうと、「Uber」のビジネスモデルで立ち上げられたサービスだった。ただし1週間前までの予約制に加え、1カ月あたり9ドルのメンバーシップ料金がかかる。少し高いが、利用する側からすれば、ドライバーの身元や技術が保障され、アプリで子どもの送迎を追跡・確認もできるなど安心感があると総じて好評だったのだが。
世界70カ国で受け入れられている自家用車ドライバーによる交通サービス「Uber」であるが、日本では第二種運転免許の保持者以外が商用輸送に携わることはできない「規制!」から普及していない。しかし、日本でも「Shuddle」同様頑張っているサービスがある。京丹後市の自家用車による有償輸送サービス「ささえ合い交通」(https://www.facebook.com/tangosasaeai/ )、正式名称「公共交通空白地有償運送」は、現行法に抵触しないスキームを作りあげサービス開始にこぎ着けた。二種免許を持たないドライバーでも、国土交通省認定の1日研修を受講することで乗客を乗せて運べるようにし、さらにドライブレコーダーを設置しアルコールチェックを義務化することなどで安全面も強化している。しかも「Uber」と協業し「乗りたい人」と「乗せたい人」をピンポイントでマッチングすることで、低価格での提供を可能にしている。
日本Uberの高橋正巳社長は、「Uber」はタクシーに置き換わるものではなく、社会課題の解決を実現するサービスだと話す。
デフレにあえぐ日本では、60歳以上のシニア層が日本の金融資産の大半を持ち、しかも現在60歳の人の平均寿命は男性95才、女性100才に迫るとも言われている。シニア層の膨大なニーズを目の当たりにし、それでも規制緩和を躊躇する国日本は、一体誰の為のどんな社会を目指しているのだろうか?
高齢者が困窮し、挑戦者や投資家が素通りする国日本。そこに未来はないように感じる。

| 16.11.25

スネ夫自立

トランプ大統領誕生には、世界の行き過ぎたグローバル化への反動が大きく影響したと言われている。グローバリズムへの「反動」はアメリカだけの現象ではなく、G7各国でも国内経済を守る為に内向きな「保護主義」への動きが強まっている。オバマ時代に先進諸国の更なる経済活性化の処方として行き過ぎた金融緩和と自由貿易を進めたのはいいが、どの国も一部の富裕層を更に富ませただけで実体経済に効果はなく、貧富の差の拡大という副作用でヘトヘトになっているからだ。
トランプが「同じやり方ではだめだ!」とつぶやくほどに米国は追い詰められ、「反グローバル」主義に軸足を移す事によって彼は大統領の椅子を手に入れる。結果、TPP法案批准への「反対宣言」にまで繋がって行ったとみられる。
TPPはもともとシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国間が発展途上国同士の新しい経済協定の枠組みを考え、経済大国に対抗する為に結んだのが発端だ。2005年6月3日調印、2006年5月28日に発効されている。その後投資家にとってTPPは更なる投資マネーを集めるという観点から都合がいいという事でアメリカが参加を希望し、当初足踏みしていた日本も引き込まれ、現在ではカナダ、メキシコ、オーストラリア、マレーシア、ベトナム、ペルーが拡大交渉会合に加わっている。拡大TPPは途中からアメリカ主導で枠組みが決められた為アメリカが“言い出しっぺ”のように思われているが、そもそもは横入りで、国内事情から今更反対とは実に身勝手な行動だ。
一方、大統領選をトランプが制したことで、地位協定に基づく日米関係も大きく変わるとの見方が優勢だ。米国が保護主義に傾倒することは、ドラえもんに例えればスネ夫だった日本が、ジャイアン米国に隷属しその後ろ盾で威張っていた経済構造から解放されるチャンスであり、自国の安全保障を自国で考える日が来る事を意味する。戦後70年間封印して来た自立国家への課題が、これを機に解決へ向かうこともあり得る。
経済的に衰え始めた先進諸国が、G7などと言って成功者クラブを作る事自体、新興国からの反発を生んでいる。日本もまずは3超大国との適切な関係を自国の責任において固めることで、ドラえもんにはなれなくともジャイアンから自立したスネ夫になることが必要だ。
実家が裕福なスネ夫は、自立すると強い?

| 16.11.18

ガラスの天井

ヒラリー・クリントンは、米国初の女性大統領という“ガラスの天井”を遂に破ることができなかった。なぜなのだろうか?
来年6月公開予定のDCコミックスを原作とする映画、『ワンダーウーマン』の予告編が注目されている。今年3月に公開された『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』に登場したアマゾン族の王女、ワンダーウーマンことダイアナ・プリンスのオリジンを描いた作品だ。愛らしい彼女がブレスレットで銃弾を弾き返し、しなやかな体捌きで並み居る敵を倒していく。第一次世界大戦中の人間界にやってきた彼女が、争いを終わらせるために可憐に闘う姿が存分に描かれている。メガホンを取るのは、女性監督のパティ・ジェンキンスだ。『TIME』誌によると、過去10年間で50を超えるスーパーヒーロー映画がつくられてきたが、これまで女性監督がメジャー作品のメガホンを取ったことはなく、女性の強さを知り尽くして作られた作品だと言われている。
女性の活躍が当たり前になった男女平等社会で、女性ヒーローが登場する時は、男まさりの能力に加えて女性だけが持つ可憐さが無いと、男性のみならず女性にも受けないというデータがある。
東京都知事になった小池百合子をはじめ、世界で女性のリーダーは、時々弱さを見せる。ドイツのアンゲラ・メルケル首相、イギリス首相のテリーザ・メイ、台湾初女性総統の蔡英文、そしてミャンマーのアウン・サン・スー・チーや韓国の朴槿恵、タイのインラック前首相、遡ってインドのガンジー首相なども女性ヒーローのはしりだ。皆、どこかで弱さと女性らしさを演出している。それで失敗する場合もあるが?
今回の大統領選のヒラリー敗北の原因を裏から読むと、この弱さと愛らしさを演出せず、完璧な能力だけでガチに男と戦うことで、“ガラスの天井”が遠のいてしまったとは言えないだろうか。
超大国米国で初の女性大統領と期待されていたヒラリーは、「私はクッキーを家で焼くような女ではない」と宣言してしまった。もし「私はこう見えてクッキーを焼くのよ」と言っていたら、かなり票は動いた?だろう。トランプはディベートで、ヒラリーを「Nasty Woman」と嫌悪感を込めた一言で切り捨てた。誤解を恐れず言うと、「Nasty Woman」は女性からも嫌われる女性ということだ。
選挙中は「私は夫のビルより優秀なのよ!」という気持ちが言葉・態度の端々に見えていたが、敗北宣言をしている時のヒラリーは、肩の力が抜けて好感度が高かった。女性は完璧な女性が嫌いとは、正に皮肉な結果だ。

| 16.11.11

国家元首

長年にわたりタイの政治・社会の「安定の要」とされてきたプミポン国王(ラーマ9世)が10月13日に亡くなり、タイ政府は1年間の服喪期間を発表して、国民に30日間の黒か白の着用を求めた。事実バンコク市内はほぼすべてのタイ人が喪服を着ているという異様な現象が起きている。
タイは憲法で「国王を元首とする民主主義制度」を統治原則とし、「主権は国民に属する。元首である国王は、国会、内閣および裁判所を通じてその主権を行使する」として、約6800万人の国民と1人の国王が主権を共有する「君民共同統治」と呼ばれる体制をしいている。国王は不可侵で、宗教の守護者であり、国軍を統帥する。プミポン国王は実質的な権力を持ち、タイ国民はそれを尊敬を持って受け入れてきたのだ。
日本では逆に、天皇の生前退位が議論されているが、天皇は既に日本国憲法において国家の象徴となっているので国政と直接的な関係はない。
翻って国家元首が大統領で、世界の民主主義をリードして来た米国では、大統領制の終焉を感じさせる低レベルで尊敬されない大統領選が行われている。
アジアにおいて立憲君主制まで含めて王政が続いているのは、日本とタイ王国に加え、カンボジア王国、ブータン王国、ブルネイ・ダルサラーム国、マレーシアのわずか6カ国だけになってしまった。1912年に清朝が崩壊するまでほぼすべてのアジアの国が王国であったことを考えると、この100年間に主権在民の考え方が急速に浸透し、民主主義が急速に広まったことを意味している。
国家元首とは何か?と考えさせられる中、超法規的暴力的言動で世界から危険視されながらも国内では圧倒的な人気を持つフィリピンのドゥテルテ大統領が来日した。と思っていたら、支持率が10%まで落ちた韓国の朴大統領の異常な日常が伝えられている。その間、ミャンマーからは夫の国籍問題で大統領にはなれないアウン・サン・スー・チーが、国家最高顧問(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/myanmar/data.html#section2)という不思議なタイトルで国家元首以上の権力を持つ立場で来日している。
民主主義と王政が相互にハレーションを起こすことは想定の範囲内だが、その解決策として考え出された大統領制までも極度の制度疲労を起こしているようだ。
実際の政治は議会と役人によって執り行われるので、国民が最も安心できるポスト大統領制を突き詰めると、これまた最善の解を導き出す将棋ソフトではないが、人工知能(AI)ということになってしまうのだろうか?

| 16.11.04

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