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腐る経済

鳥取のパン職人夫婦が書いた『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(講談社)が、海を越え韓国人の心を揺さぶっているらしい。
この夫婦は、鳥取県過疎の智頭町にあるパン屋「タルマーリー」(http://talmary.com/)の経営者であり、この本の著者だ。彼らはパン屋の視点で資本主義経済の問題点を指摘し、それを克服するための経済・経営のあり方を模索する現状を描いている。2013年の発売以来日本でも読者の支持を集め、15万部を超えた『里山資本主義 日本経済は安心の原理で動く』(藻谷浩介・NHK広島取材班著、角川新書)と並び、2015年10月現在で8刷2万部というロングセラーになっている。韓国では昨年6月に韓国語に翻訳・出版され、韓国版『田舎のパン屋で資本論を焼く』は日本以上に大きな反響を呼んでいるそうだ。
9月末、韓国のネット書店4社(YES24・Interpark・KYOBO・Aladin)と、同書を韓国で出版した「The SOUP」社が共同で開催した「読者の集い」には、2回合計200名の枠を上回って、抽選が行われるほどの読者からの申し込みがあり、会場は熱気に包まれていたそうだ。パン屋「タルマーリー」は、鳥取市内からでもクルマで約50分、大阪からならクルマで約2時間かかるが、単なる観光ではなく「この人に会ってみたい」と日本人のみならず多くの韓国人が、多い日で400人近く訪れているらしい。
数日前、韓国民主化の父、元大統領金泳三氏が亡くなったばかりだが、韓国は、軍政から民主化する節目やリーマンショックなどの経済問題が発生すると「マルクス」が読まれる、というお国柄だ。フランス人経済学者のトマ・ピケティ著『21世紀の資本』が韓国で話題を呼んでいたところへ、ポスト資本主義の手引書として「腐る経済」が受け入れられたようだ。
韓国経済は10大財閥の関連売上高がGDPの約7割を占めているにも関わらず、財閥が担う雇用はわずか6.9%というアンバランスぶりが問題になっている。韓国の大衆は這い上がろうともがいているのだ。
一方、日本の財務省が9月1日に発表した2014年度の法人企業統計によると、金融・保険業を除く全産業の期末の利益剰余金は354兆3774億円と前年に比べて26兆4218億円も増えた。にもかかわらず、日本経済のGDPは横ばいだ。それならば、少しは腐る経済に再投資してみてもいいのではないだろうか?大企業がリスクを恐れてどうするのか?リスクを冒せない企業の内部留保に税金を!という自民党の一部の“暴論”も一理あるのかもしれない。

| 15.11.27

宗主国責任

先週パリで起きた同時多発テロを受け、Facebookは「パリ市民の安全と平和を願うプロフィール写真を設定しよう」と、プロフィール画像にフランス国旗と同じ色を重ねられる機能を追加した。画像を変更して犠牲者に追悼の思いを示す動きが広がる中、「シリアでの空爆はテロではないのか?」といった批判も寄せられている。
「なぜ、空爆や自爆テロで多くの人が死んでいるシリアやパレスチナの人々を同じように支援しないのか?」「なぜフランスだけなの?」など、フランス国旗に限定したことを疑問視する声があった。クウェート紙アルライが「世界にとってレバノンの犠牲者はパリと同等でなく忘れ去られた、とレバノンの人々は感じている」と伝えており、「レバノンの国旗が同様にフェイスブックに追加されるまで、私の画像は変えない」という意見も多くあったようだ。全く代弁もされず、クローズアップもされず殺されていく人たちがいる中で、声の大きい先進国の悲劇だけが大きく伝えられることへの違和感についての報道は、9.11の時には見られなかった反応だ。
第1次世界大戦に勝利したイギリスとフランスは、オスマン帝国がそれまで支配していた広大な中東のアラブ・イスラム圏を事実上の植民地として分割支配するに至った。現在のヨルダン、イラク、パレスチナは英国の植民地(名目上は国際連盟の委任統治領)に、現在のシリア、レバノンは英仏間の密約(サイクス・ピコ条約)でフランスの植民地になった。現代の不安定な中東情勢の原因の多くは、この英・仏の植民地政策にはじまったと言っても過言ではない。両国の植民地政策の失敗がテロを招き、イスラム圏との対立を生み、IS(イスラム国)の出現を許したとも言える。
アメリカがテロ対策だとしてパキスタンで行っている無人機攻撃で家族を失った11歳の少女が、時を同じくして東京都内で講演した。彼女は報復を止められるのは更なる報復ではなく教育だけだと訴えた。しかし、この間もアメリカは無人機を使ってパキスタン国内のイスラム過激派などへの攻撃を続けており、国連の調査によると、これまでに巻き込まれた一般市民や子ども達の犠牲者は少なくとも400人以上に上るとのことだ。
ISのテロを考える時、米・英・仏等先進国が行っている“テロ”についても考えなければ、永遠に問題は解決しないだろう。

| 15.11.20

ネコノミクス

長く犬の優位が続いていたペットの数だが、猫が逆転する日が近々やってきそうだ。
ペットフードメーカーの業界団体「一般社団法人ペットフード協会」は1994年から全国調査を実施し、毎年犬と猫の推計飼育数を発表している。2014年の調査(http://www.petfood.or.jp/data/chart2014/index.html)では、犬が1035万匹、猫は996万匹だった。調査対象を5万件に増やした過去5年で見ると、犬が12.8%減少する一方で猫は3.6%増えている。飼育世帯数では犬が上回るが、このペースだと今年の調査で猫の数が初めて犬を抜く計算になるそうだ。散歩やしつけが必要ない猫は単身者でも飼いやすいというのが要因なのだろうか?
犬と猫が人間の暮らしに関わるようになった歴史は共に古いが、すっかり人間社会のルールを身に付けた犬と違い、猫はどれだけ人間とつきあっても「野性の精神」を失わないそうだ。
最近、テレビのCMで起用される動物も犬より猫が圧倒的に多くなり、スマホアプリや本をのぞいても、そこにもここにも猫がごろごろ。そしてネットを原動力に、猫がコンテンツ世界の王者になりつつある。中でも株式会社ヒットポイントの『ねこあつめ』(http://hpmobile.jp/games/neko/)というアプリが人気だ。『ねこあつめ』は、庭にごはんを置いて集まってくる猫をただ眺めるだけというスマホのキャラクター収集ゲームだ。2014年10月の配信から約1年で総ダウンロード数700万を達成する大ヒットとなった。日本語バージョンだけしかないにもかかわらず、韓国、中国、北米など海外のユーザーが25%を占め、米CNNのウエブ版でも、『ねこあつめ』の特集動画とそれに関する記事がアップされて話題を集めている。また米国ファンの、「癒される」「楽しい」「アプリを開く時にドキドキする」などといったインタビューも流れ、日本が輩出した猫の大人気キャラクター「ハローキティ―」や「ドラえもん」に迫るヒットになるのではと解説されているそうだ。その他、動画にブログにCMに映画にと猫が生み出す経済効果は、アベノミクスより絶大だと評価する向きも多い。
手間のかかる犬がペット業界をリードするのは経済が上り坂の時らしい。猫がリードするのは、ペットにも自立を求めようとする、今一つ経済に力がない時を象徴しているのだろうか?今の猫ブームは、これからやってくる長期の不況感をマーケットが感じている故なのかと考えると興味深い。

| 15.11.13

部品魂?

阿部寛主演のTBS系日曜劇場『下町ロケット』(http://www.tbs.co.jp/shitamachi_rocket/)が好調なスタートを切っている。原作は、社会現象とまで言われた『半沢直樹』で知られる作家・池井戸潤の第145回直木賞受賞の同名小説。父が経営していた下町の工場を継いだ主人公の佃航平が、仲間とともに困難を乗り越えロケットエンジン開発の夢を追う姿が描かれている。
中小企業が大企業に“水素エンジンのバルブシステム”を部品供給してロケットを飛ばすロマンが主軸になっており、日本の製造業の高度な技術力を支えているのが、まさに中小企業であることを見せつけるドラマだ。産業競争力の源泉であり日本のものづくりを支えてきた町工場の誠実さや勤勉さを描く一方で、市場経済の現代、大企業において数字を追って稼ぐ力ばかりが求められていることを批判している。この対比が視聴者の共感を得ているのだろう。
当初、著者は町工場がロケットを作る話を考えていたそうだが、数社に取材したところ「そんなの無理無理」と言われ、ロケットエンジンのバルブシステムを作る話に練り直したらしい。大型ロケットは部品レベルまで勘定すると、数十万~百万点に達し、自動車をはるかに上回る部品数になるそうだ。特に液体水素を燃料にする純国産大型ロケットにとって、水素をコントロールする多種多様なバルブシステムは目立たないが、ロケット全体のキモといっていい。
そんな最中日本の町工場を喜ばせるニュースが届いた。環太平洋経済連携協定(TPP)で、米国が日本製の自動車部品に課す関税を協定発効から15年で全廃することに合意したのだ。エンジンやブレーキ、トランスミッションなど400弱の自動車の中枢部品の87.4%にあたる品目の関税は即時撤廃の対象となった。米国でも作れるようなシャシーやターボチャージャーなど比較的単純な部品は逆に25年目まで撤廃期間が延びた。しかし、米国への自動車部品の輸出額約2兆円に対し、単純計算で約400億円の関税コストが浮くだけだ。これがどういう事か慎重に考える必要がある。
うがった見方をすると、フォルクス・ワーゲンやタカタの例をみるまでもなく、自動車産業は今後ますます訴訟リスクが高まる。その危険な中枢技術をたった400億円で日本に作らせようとしているとも言える。
物づくりに集中して世界のパワーポリティックスを見逃すと、とんでもない落とし穴にはまる危険があることも考える必要があるだろう。

| 15.11.06

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