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江戸城の天守

東京国立博物館「TNM & TOPPAN ミュージアムシアター」( http://www.toppan-vr.jp/mt/ )では、2009年に上映され好評だったVR(バーチャルリアリティ)『江戸城の天守』が、12月24日まで再演されることになった。
今年6-7月に実施された再上演リクエスト投票で『江戸城の天守』は人気が高く、再演が決まったらしい。「現存していない江戸城天守閣をバーチャルでもいいから見てみたい」、「数百年前焼失した天守閣を細部まで再現できたことに驚いた」などの声が多く寄せられたと聞く。
VR『江戸城の天守』は、徳川三代将軍家光が莫大な費用を投じてつくらせた天守閣の姿と、それがどのようにつくられたのかを考える作品だ。凸版印刷は本作品の制作にあたり、石垣や瓦、金具にいたるまで、江戸城を構成する100万超の部材ひとつひとつをデジタル化したそうだ。当時最高の技術が用いられたと言われる江戸城天守閣の優美な姿の再現に総力を注いでいる。
1637年に築かれた天守閣は、歴史上知られている如何なる城の天守閣をも凌駕する、日本史上最大かつ最も美しい天守閣だったとされている。その姿は城下のどこからでもよく見え、徳川将軍家の威厳を見せつけるシンボルタワーだった。しかし1657年の「明暦の大火」で僅か20年の後に焼失した。
この大火では江戸城も天守閣を含む多くの建物が焼失し、その後天守台は再建されたものの、町の復興を優先した幕府は経済的な理由からも天守閣を再建しなかったのだ。
現在、江戸城は徳川家の城というより皇居としてのイメージが強い。1869年に明治天皇が江戸城に入城したことで「皇城(皇居)」となったわけだが、このとき天皇は「ちょっと東京に行って来る」と言って京都御所を出たと言われている。それは、依然として京都御所紫宸殿に高御座が残され、その後の新天皇即位の都度京都から東京に搬送されていることからも分かる。
日本は国家主席の意思がない国だと言われるが、それは戦後米軍の占領戦略と取引きした結果、天皇制は残されたものの天皇そのものは象徴となり政治的存在でなくなったことに由来する。
70年以上に及び国家主席による政治構造を失った国民のフラストレーションが、マグマとなって『江戸城の天守』をもう一度見たいという情熱に昇華しているのか?
駐留米軍に気を使わなくてよい、分かりやすく自立した国家への想いが、『江戸城の天守』に国民が憧れる真の理由ではないだろうか。

| 18.12.28

スーダラ節

「チョイと一杯のつもりで飲んで
いつの間にやらハシゴ酒
気がつきゃホームのベンチでゴロ寝
これじゃ身体にいいわきゃないよ
分かっちゃいるけどやめられねぇ・・・」
これは1961年に植木等の歌でリリースされ、空前の大ヒットになった「スーダラ節」の歌い出しだ。
60年代からの日本は、高度経済成長の波に乗りどんどん給料が上がり、「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ」と植木は歌った。
「スーダラ節」は、時代が景気を押し上げ、勤勉でさえあればさしたる努力をしなくても世界のトップ企業となれた時代を象徴し、経営者に無責任体質が生まれてくる様を捉えて植木等が鋭くサラリーマンの本質を突いた。
今思うとそれは、コミットしない役員たちによって乗っ取られて行く巨大日本企業群への警鐘だったのではないだろうか?
カルロス・ゴーンの報酬と日本人サラリーマン役員の報酬との差が話題になっているが、最近になって、ゴーンの報酬は全額計上してもグローバル企業として突出しているわけではない。どうして隠したかったのか?と言う意見が出てきている。( https://dot.asahi.com/wa/2017070700050.html?page=1 )
日本は明治維新を経て、日清、日露、第一次世界大戦と3つの世界的戦争の戦勝国となり、大正時代の日本国及び皇室の財産は歴史上ピークを迎えている。
しかし、日本は第二次世界大戦で膨大な国富を失うと同時に、財閥解体で株主にコミットする意志力のあるエリートサラリーマンも失った。にもかかわらず朝鮮戦争特需でサラリーマンの給料はどんどん上がり、日本企業はバブル経済破綻の1990年代まで一直線に気楽な繁栄の階段を上り詰めてきた。
無防備な日本を太らせるために欧米の資本家が日本に与えた飴は、1949年の湯川秀樹に始まる一連のノーベル賞の授与と、1964年の東京オリンピック、1969年の大阪万博などの巨額投資機会、そして1975年の沖縄返還と佐藤栄作のノーベル平和賞だ。これでアジアの安全保障費を日本に肩代わりさせ、日本の株式市場は十分に肥え太った。
1985年のプラザ合意で日本経済は一気に円高へと誘導され、日本株は時価総額最高値で1990年まで売り抜かれていったのだ。日本の労働市場はスーダラ節で揶揄された「意志力無き高度で忠実な労働力」として使命を全うしたとも言える。
世界の巨大企業では当たり前のCEO報酬20億円でさえも隠蔽した日産。日本人役員の報酬も数億円を超えることを極端に恐れるように飼いならされてしまっている!
日本企業が持つ「他力本願な本質的欠陥」を、美徳と見誤らないよう細心の注意が必要だろう。

| 18.12.14

トイレの日

去る11月19日は、国連が「世界トイレの日」と定めた日だったそうだ。
この日ユニセフは、世界人口の3人にひとりが清潔なトイレを使えない現実や、毎日1600人が下痢性疾患で命を落としている事実など、多くの子どもの命を奪う原因となる貧困とトイレの問題を発信し、世界に関心と行動を呼びかけた。
それに先立つ11月6日には、Microsoftの創業者ビル・ゲイツが中国・北京で開催された「トイレの未来に関する国際フォーラム」に出席し、人糞が入った容器を手に世界のトイレ事情についてのスピーチをして話題になった。(https://courrier.jp/news/archives/142998/ )
彼は北京で「トイレ再開発博」を開催。出展した企業は、尿の水分を他の排泄物から分離し手洗い用の水にリサイクルするなどの機能を持つトイレを展示した。
ビル・ゲイツ曰く、そうした不衛生な環境対策費は世界で年間2230億ドル(約25兆円)を超え、これは健康維持のための費用を上回り、世界の生産性は低下、賃金の損失も招くのだそうだ。
衛生問題だけではなく、先進国がトイレがもたらす問題とどう向き合うかは21世紀の人類の人生観や国家観に大きく影響するテーマとなっている。教育方針、企業の姿勢、ジェンダーや人権の問題も、全てトイレ問題に凝縮されるからだ。
かつてカラード用のトイレがあった米国では、ゲイ、レズビアン、トランスセクシュアル、バイセクシュアル問題を始め、多様な人類の権利をより広く認める動きが起き、これが「ジェンダー・ニュートラル」なトイレの開発と普及につながろうとしている。
トイレが性で分けられていることで、気付かないうちに様々な精神的・身体的苦痛を一部の人に与えている。自身の外見上の性別やアイデンティティを斟酌することなく、安心して使えるトイレを選べる「ニュートラル・トイレ」の必要性をより早く察知したのは大学だった。米国では多くの都市で教育施設に「ニュートラル・トイレ」が普及し始めている。
ところでこのトイレ問題、実は人類の未来をも映し出している?生じるのは「性別は本来必要なのか?」という大胆な疑問だ。人類の主人公は実はX染色体だけを持つ女性だ。生物学的にはX染色体の遺伝子交換のために、XY染色体を持つ個体(男性)が存在しているようなものだ。しかし遺伝子技術の発達で、Y染色体が必要だった時代が終わろうとしている。男性なしでも子孫を作れる時代が来たら人類はどうなっていくのだろうか?
「ニュートラル・トイレ」の普及は、正に人類の未来へのアポカリプス(黙示録)であるかのようだ。

| 18.12.07

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