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お札礼賛

中国メディアは度々、「日本は先進国のなかで唯一と言って良いほど偽札が流通していない国だ。どうして日本には偽札がないのか?」とする記事を掲載している。( http://news.searchina.net/id/1659248?page=1 )
どれも、日本の紙幣を作る高い技術力が簡単には偽札を作らせないのだとする、基本的には好意的記事と言えるがなぜか素直に受け取れない。
日本銀行券はこの半世紀で数回に亘るモデルチェンジを行い、精巧な偽札防止策を講じてきた。その結果偽札発生率は極端に下がり、日本円券を1とするとユーロ券は216倍、米ドル券は638倍、英ポンドに至っては1619倍の発生率なのだそうだ。
円紙幣に使われる紙は、日本特産の樹皮パルプを入れることで強さと特有の光沢がある。更にはコピー防止インクなるものを採用し、額面や肖像部分のインクは磁気を帯びているなど、多種多様な偽造防止技術を駆使することで、最も偽造が難しい紙幣と認識されている。仮に偽造しようとしても1枚あたりのコストが高く付き、割に合わないとも言われている。
「日本は精巧さのうえに精巧さを求め、こだわり、完璧なものを求める。また、信用や厳格さを重んじる。だからこそ日本は強くなったのだ」と中国メディアは評価しているが、これは日本に対しての完全な皮肉と思った方がよいようだ。
最近日本国内の書籍やテレビ番組で、「日本は世界最高の工業技術を持つ先進国で、オタク文化は世界を席巻、慎ましやかな国民性は国際的に大絶賛されている」と自画自賛するものがやたら目につくようになったが、これは危険だ。
今世紀に入ってからは、政治的にも経済的にも文化的にも日本の存在感は低下する一方で、世界から相手にされない孤独な国、いわゆる「ガラパゴス化」が極度に進行した国に成り果てたと感じている人は多い。
入魂の職人芸と最新のテクノロジーが融合した、世界一の紙幣づくりもしかりだ。お札は価値移転の道具であって嗜好品ではない。気がつけばキャッシュレス化が世界中で急速に進み、偽札防止が世界一だと煽てられているうちに、拡大するキャッシュレス社会で偽造が横行する日本?などという笑えない話にならないことを祈りたい。まさに決済で「ガラパゴス化」しないことが肝要だ。
美しく安全な紙幣づくりが世界一でも日本円の価値が上がるわけではないことを、しっかりと自覚するべきだ。

| 18.09.28

大坂なおみ

2018年1月の全豪オープンで、「今取り組んでいるのは、ポジティブな姿勢をどんな時にも維持することだ」と大坂なおみ選手はそう述べて、完璧主義・ネガティブ思考からの脱却を目指していることを明らかにしてくれた。それから8ヶ月・・・メンタル面での劇的な成長を実現させ、全米オープンで見事優勝を成し遂げた。
米国の一流大学で今世紀に入って、「ポジティブ心理学」の人気が非常に高まっているようだ。ハーバード大では2006年の「ポジティブ心理学」の講義に約900名の学生が殺到し、イェール大でも2018年に開講された同様の講義が、316年の同大史上最多となる約1200名の受講者を集めたという。多くの生徒が高校時代に自分の幸せより大学受験を優先した結果、在学中にメンタルヘルスの問題を訴える傾向が一流大学ほど高いらしい。「ポジティブ心理学」の授業に高い関心が集まることは当然の帰結のようだ。
「深く考えることはありません。私は私としか思っていない。育てられた通りにやっています。」これは帰国直後の記者会見で、「アイデンティティーをどう受け止めているか?」と質問されたのに対する大坂なおみ選手の答えだ。「私は私」という言葉が印象的だが、ここでもメンタル面での成長ぶりを感じさせた。
ニューヨークタイムズ紙が8月に彼女を大きく特集した記事( https://www.nytimes.com/2018/08/23/magazine/naomi-osakas-breakthrough-game.html )で、日本と米国とハイチ、三つの文化にルーツを持つことについて彼女は、「多分、みんな私が何者なのかはっきりと言い表せないから、誰もが私を応援してくれるんじゃないかしら」と超ポジティブに答えている。
「多文化なルーツを持つがゆえに世界中により多くのファンを得られていることに彼女自身は気付いている」と同紙は書いている。
スポーツの世界ほど国籍の扱いが多様な分野はない。国籍と人種アイデンティティーが同一とは限らないからだ。日米の二重国籍で日本にルーツを持つというアイデンティティーを保ち続けることはあるのだ。日本は、容姿や言語、しぐさや性格だけで「日本人ではない」とか「日本人らしい」と言ったりすることがある。普段は差別対象としながら都合のいい時だけ“ハーフ”でも日本人として受け入れようとする。これは正に“日本に根付く多様性を否定する考え”の表れだ。
アイデンティティーをしっかり持つことが出来れば国籍は選べば良いのだ、ということを、一人のトップアスリート大坂なおみが既存の日本人?に教えたようだ。

| 18.09.21

茶論

茶道文化が気軽に体験できる「茶論(さろん)」(https://salon-tea.jp/ )が、9月25日(火)に東京・日本橋高島屋S.C.新館にオープンする。奈良で茶道具を扱う1716年創業の老舗・中川政七商店が手がける新ブランドショップ「茶論 奈良町店」に続く2号店で、関東初の旗艦店になる。
「茶論」は、お茶を通して”おもてなし”の力量を上げる「稽古」、お茶を通して心に閑を持つ「喫茶」、オリジナル茶道具を販売する「見世」と、稽古・喫茶・見世の3つで構成された新しいビジネスモデルだ。茶道文化を世界に広げる新たな入口として注目を集めている。
最近の中国トレンドExpressによると、中国ソーシャルメディアにおける日本関連の書き込み総件数で不動の1位は、「日本で買い物したい」だそうだ。次いで「日本料理が食べたい」、「温泉に入りたい」、「お寺に行きたい」と続き、「お茶をたてたい」が5位にランクインしているという。「お茶をたてたい」はこのところ人気急上昇で、常にベスト10内にランキングされるほどらしい。
これは、以前よりも数多くの中国人が個人旅行で日本を訪れるようになったことに起因するようだ。彼らは団体でのショッピング三昧なツアーとは一線を画し、思い思いに旅程を組んで、「お茶をたてる」など「日本で”体験”したいもの」でスケジュールを埋めている。
茶に対して、中国と日本のこだわりには勿論数多くの共通点がある。中国では景色を眺め音を聞きながら味わったり、湯の中の茶葉を目で楽しんだり、五感を使って茶を楽しむ文化がある。日本では、作法や庭、空間のつくり、道具といった形式にこだわることで、茶を芸術の域まで深め、わび、さびの精神を体得してきた。
双方とも「お茶を飲む」という行為を超えて、「お茶をたてる」こと自体への関心が高いことが共通している。
10月13日(土)に『日日是好日 』という映画が公開される。エッセイスト・森下典子が約25年に亘って通い続けた茶道教室の日々を綴った大人気エッセイ、『「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』を映画化したものだ。
千利休や「茶道」といったテーマはしばしば映画やドラマになっているが、「Let it tea. 史上初。お茶の映画ができました。」というキャッチコピーどおり、初めて茶道教室を舞台に紡いだ映像は、茶道初心者の“あるある”も詰め込んだユーモラスな作品らしい。
中国との観光交流でこれから重要なのは、何人インバウンド観光客が来たか?ではなく、少数でも意識の高い中国人観光客の存在があることを、誘致する日本側が認識することなのだろう。

| 18.09.14

先住民族崇拝

ブラジルの先住民保護に当たる国立先住民保護財団(FUNAI)が、アマゾン奥地で文明社会と接触していない先住民の姿を報告している。
同財団によるドローン撮影地点は、ペルー国境に近い北部アマゾナス州にあるバレドジャバリ保護区で、映像にはジャングルを切り開いたような広場に弓矢や棒状のものを持って歩く人の様子が映っている。
国土の広大なブラジルには、公式統計によると305部族の先住民族合わせて80万人以上が暮らし、274種類の言語を使っているそうだ。そのうち文明から孤立した部族が100余り確認されている。
かつてアフリカで発見された先住民マサイ族は、伝統的な牛・羊・ヤギ等の家畜の遊牧で生計を立てる誇り高い民族として知られていたが、現代文明と接触したことで彼らの多くは都市に住み、サバンナ観光ガイドや密猟監視員などの定職を持って暮らすことになった。
こうしたことへの反省からか、最近は非文明世界に生きる民族は文明社会を知らないままにするべきという意見が常識となりつつあるようだ。
一方日本では、先住民族、「縄文ブーム」が最近じわじわと来ている。東京国立博物館ではこの夏、特別展「縄文―1万年の美の鼓動」が開催された。縄文時代の国宝が初めて一堂に会する機会として注目を集め、奇しくもドキュメンタリー映画「縄文にハマる人々」( http://www.jomon-hamaru.com/ )が全国で順次公開されている。さらに巷では、土偶グッズを密かに集める女性を称する「土偶女子」なる言葉までも頻繁に耳にする。
紀元前一万年から紀元前二千年の間にかなりの文明度に達した縄文時代だが、その後の弥生時代には全く繋がらない独自の文明として栄えたことが分かってきている。
近年、縄文はエジプトやシュメールなどと比べても遜色ないレベルの文明だったのではないかという説もあるほどだ。
戦後、「記紀」を鵜呑みにした戦前の皇国史観への反省から、考古学の発掘成果を取り入れた「弥生=先進的」、「縄文=原始的」とのイメージが植え付けられてしまっていたが、最近縄文時代の研究成果が続々と発表され、その驚くべき独自性と可能性が明らかになってきた。
便利な時代には創造性が失われるというが、縄文の火焔型土器や土偶のユニークな造形を目の当たりにすると、その高度な精神性に潜在力が突き動かされる。
日本人はここに来てようやく日本列島の先住民族を縄文人と認め、その隠されたルーツを、今更ながらに真に知りたいと感じている。

| 18.09.07

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