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相続減税

関東の駄菓子屋などで人気を集めてきた梅の花本舗(東京都荒川区)の「元祖梅ジャム」が昨年末、約70年の歴史に幕を下ろした。鮮烈な酸味が印象的な1個10円の「下町の味」を惜しむ声が広がっている。
モノづくり国家日本にとって一番大きな損失は、歴史ある企業や業績の良い会社が相続税でやむなく廃業してしまうことだろう。そうした中、昨年末に発表された『税制改正大綱』では「事業承継税制」が大幅に拡充された。この制度を受けることができた場合、株式(非上場株式)にかかる相続税や贈与税をなんと最終的に100%免除しようというものだ。
諸外国の事業承継税制を比較すると、イギリスにおいては事業継続のための非上場株式の相続税評価額は100%減免される。ドイツでは85%、フランスにおいても75%評価減される。非上場会社の株式の相続税を、金融資産や不動産といった他の相続財産に比べて優遇するものだ。各国とも自国の経済力の維持発展を考慮し、円滑な株式の世帯間承継を支援する税制上の措置を講じているのだ。日本もやっと先進国に並んだと言える。
なお、アメリカでは他の財産と同様に相続税が課されるが、500万ドル(約5億5千万円)の基礎控除があり、そもそも中小企業のオーナーが相続税の課税対象者になる可能性は低い。
日本の高相続税率は、戦後GHQが財閥解体を目的として90%まで引き上げる法改正を行ったことに端を発するが、昨年の相続税増税で、遂に世界最高税率55%になってしまったのだ。
世界に相続税が無い国は意外に多い。富裕層の世帯比率が世界一高いスイスは人口比13.5%。日本の6倍も富裕層がいるが相続税は無い。その結果平均所得が高く税収も安定している。(https://vdata.nikkei.com/prj2/tax-Inheritance/)
米国は国家税収のほぼ半分が個人所得税収で、さらに言うとその殆どを約5%の高額所得者が負担しているため、彼らが税収のほぼ半分を負担する構造だ。
財政再建の最大のポイントが税収アップであることに間違いはないが、その矛先をサラリーマン中間層に向けるのは間違いだろう。大いに金持ちを産み出して大いに納税してもらい、中間層の充実したライフスタイルを生み出すべきだ。
努力と結果を出した場合のご褒美(成功報酬)としての相続減税こそが必要なのではないだろうか?
世界は相続減税に向かっている。話題の国税庁長官が理解できるとは思えないが!

| 18.02.23

春運(チュンユン)

今年は2月16日が陰暦の正月で、いよいよ“春節”(チャイニーズ・ニューイヤー)休暇に入る。15日の大晦日が木曜日なので21日まで7連休となるようだ。
“春節”は、中国、香港、台湾はもちろん、韓国、北朝鮮、ベトナム(テト)、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ブルネイ、モンゴル等でも国民の休日で、世界各地で民族の大移動“春運”が始まる。
“春運” (https://baike.baidu.com/item/%E6%98%A5%E8%BF%90/329360)とは、“春節”の帰省・Uターンラッシュのこと。毎年旧正月の2週間前から始まり、春節を挟んで約40日間続くそうだ。
“春運”という言葉は、1980年に人民日報で使われたのが始まりだと言われている。当時の中国では改革開放政策により人民の移動制限が緩和され、多くの地方民が仕事や学業のため故郷を離れて都会に出るようになった。そして春節の期間の大規模な里帰り現象が起き、世界に類を見ない民族大移動“春運”が生まれた。
期間中に移動する人の総数は1980年当初1億人程度だったが、2015年には30億人を超えたとも言われ、世界人口の約半数が移動する一大イベントとなっている。
その影響力におもねるように欧州の首脳も中国国家主席に“春節”の祝いを述べるのが恒例となり、イギリスの首相も祝福メッセージを送り、フランスではエリゼ宮殿で“春節”のパーティーを開き、ドイツ首相は春節前に中国の指導者に電話で新年の挨拶をする。欧州主要都市で開かれるさまざまな催しは中国系観光客を誘致しようという思惑からだ。
今や西暦でのクリスマスと対抗する世界の休日として浸透した“春節”に、人民日報は「世界に広がる春節の祝賀は、中国のソフトパワーだ!」と謳った。
そんな中、米調査会社のユーラシア・グループは「世界における10大リスク」を発表し、2018年は「中国の影響力拡大」を首位に挙げた。
因みに17年の10大リスク首位は、「米国第一主義を掲げるトランプ大統領」だった。彼は昨年”春節“を無視するかのように在米華人への祝賀メッセージを発表せず話題となったが、中国は着実に広域経済圏構想「一帯一路」やインフラ投資などを通じて、世界への影響力を強めている。
中国の台頭と激増する人とモノの移動は、世界のトランスポーテーションとアコモデーション事業の飛躍を約束する。
この両分野で大胆な改革をためらう国は、手痛いしっぺ返しを受けるだろう。

| 18.02.16

アナログチップ

80年代にニューラルネットワークの応用で、その完成を期待された日本発のオリジナルOS「トロン」と「どこでもコンピュータ/ユビキタス社会」という概念は、それを脅威と感じた米国によって闇に葬り去られた過去がある。
昨年11月、今度は米国のスタートアップ企業Mythic がアナログチップを使用してニューラルネットワークを動作させることで、デジタル技術を上回る性能を出すことに成功したという報道があった。(https://www.wired.com/story/an-old-technique-could-put-artificial-intelligence-in-your-hearing-aid/)
近年AI(人工知能)は飛躍的に進化しているが、それを駆動させるためにはデジタル化された超高速クラウドコンピューティング技術が必要とされる。例えば将棋盤の前のAIロボットアームだけを見ていると気がつかないが、世界のどこかで超高速ホストコンピュータが次の一手のために動いているのだ。AIが進化すればするほど、背後のスーパーコンピュータは大型化し、膨大な計算量をこなすことになる。
生身の棋士はもうAI棋士に勝てないというが、ホストコンピュータに接続することを禁止したら、AI棋士は稼働することもできないかもしれない
現在のデジタル発想では一台のAI棋士のバックアップすら大変だ。ましてや一台のAI自動運転車が技術的に可能というのと、蓋然性を持って現在の車社会全体規模での自動運転が可能というのでは、話の桁が違うことを理解すべきだ。
ニューラルネットワークの概念は、AIの汎用化に際しプライバシーや時間、エネルギー上の制限等を解き放つことを意味し、優秀なアナログチップの登場は、AIが人間の “脳”に近づく瞬間をもたらす。
1980年代にトロンOS開発を放棄した日本のメーカーは、その後デジタル技術に傾倒し優れたアナログ技術者を失った。一方リニアテクノロジーを考える米国は、「アナログ・グル」と呼ばれる天才アナログ回路技術者たちを残した。それから30年、一層強まる高度な“ユビキタス社会”に代わるところの“IoT社会”を実現するアナログ技術者の育成は米国が先行し、思惑通り米国企業が台頭、日本は戦略的敗北を喫している。
政治家と役人に“日本の技術を世界に採用させる”気概がなければ、日本の産業も経済も決して世界をリードできない。凋落は誰の目にも明らかだ。

| 18.02.09

渡辺直美

「Gap」が展開する新コレクション「Logo Remix Collection」のキャンペーンビデオ (https://youtu.be/ymrTNoGnP5Q)が話題になっている。各国の"インフルエンサー"とともに、Instagramフォロワー数日本一、760万人を抱える“お笑い芸人?”渡辺直美が出演し、1月25日に世界同時公開された。スリムな出演者の中、渡辺が一人異彩を放っている。
公開された映像には、渡辺直美や歌手のSza等、音楽、コメディ、社会活動の分野で自分らしい新たなカルチャーシーンを生み出している9人が出演、撮影はニューヨークで行われた。予定では渡辺直美の出番は少なく立ち位置も後方だったが、「ちょっとふざけて変な動きをしたらダンス力を認められて、『あの子、何?』みたいな感じになって、ソロパートが増えた」と後日本人が明かしている。
「VOGUE イギリス版」は今回の渡辺直美の起用を深堀り、「日本女性に対する固定観念を破壊している」と大々的に取り上げている。これ以前も、女性は痩せている方がいいという日本の固定観念を覆し日本女性に勇気を与える存在、としてワシントンポストなどで取り上げられてきた。「VOGUEアメリカ版」は、渡辺直美のすっぴんからステージ用本番メイクが完成するまでの過程を紹介したメイク動画を公開し、「日本版ビヨンセ」の呼称で日本の女性をインスパイアし続ける存在、と位置付けている。
渡辺直美起用のきっかけはInstagramの動画らしいが、動画を見た欧米人は彼女をダンサーとして素直に評価している。「すごく練習しているね」「上手いね」「綺麗だね」という感想がほとんど。渡辺がお笑い芸人だと知ると、「どこで笑うの ?」と聞かれるほどだそうだ。
日本では、渡辺直美(日本人と台湾人のハーフ)のようなアジア顔の太った芸人が黒人ダンサーのように激しい動きができることをお笑い芸としてしか見て来なかったが、海外の反応に目から鱗というところだろう。
一方、昨年末放送されたお笑い番組「笑ってはいけない」で、ダウンタウンの浜田雅功がエディ・マーフィ主演の「ビバリーヒルズ・コップ」に扮して肌を黒くメイクして登場した。日本のお笑いは未だに黒塗りで黒人を表現し、庶民の中に存在する固定観念によってお笑いが成立すると言う悲劇性を内包している。それゆえ渡辺直美の真の美しさを見落して来たのだろう。
お笑い芸人全盛の日本のテレビ界だが、現場の無知と日本人社会の大きな時代錯誤に警鐘を鳴らしたい。

| 18.02.02

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