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リビング・シヴィライゼ―ション

日本は明治維新後開国し西欧化につとめたが、世界では未だに「Living Civilization(生き続ける文明)」国として有名なのだそうだ。「Living Civilization」という概念はいかなるものなのか?
日本で活躍する世界的に有名なフラワーアーティストNicolai Bergmann (http://www.nicolaibergmann.com/)はデンマーク出身で1999年に来日し、日本のごく普通の街角の花屋で修業して腕を磨いたという。その後、現在の南青山に本店を構えるが、彼の和と北欧のテイストが融合された作品の数々は、日本でこそ力を発揮できるという。「職人がつくる日本独自の花と、数百年に渡って受け継がれてきた華道の伝統」が脈々と現代まで生きているからだ、と。
バーグマンは、デンマークでは町の花屋を見かけなくなり、今や花はスーパーマーケットで買うものになってしまったと言う。花の多様性は失われ、クオリティよりも価格が重視される。工場で大量生産することで花の種類が減り、40年ほど前には100社くらいあった生花を生産する会社が今では10社ぐらいにまで減少したそうだ。かつて花の生産額が世界一だったオランダでさえも価格競争の波にさらされ、「赤い花1万本、黄色い花1万本」とアフリカの工場で大量生産される花には、もはや微妙な色合いを持つ美しさはない。そこへいくと日本の生産者が作る赤とも黄色とも言えない絶妙な色の花は、土地や気候そして生産者のキャラクターによってまったく異なる微妙な色合いや花びらの艶を持つのだという。そういう日本の花環境無しにフラワーアーティストを続けるのは難しいと言う。
北欧はヨーロッパ大陸の北部に位置し、かつては英国、フランス、ドイツ、イタリアなどの大国とは一線を画すノルディック文明の国々であった。しかしグローバル化の波に飲まれ人々は皆英語をしゃべるようになり、同じものを着て同じものを食べ、生き残るため?に大陸文明に取り込まれて独自の文明を殺してしまったのだ。このような状態を、今や北欧は「Living Civilization」を失ったと称する。
グローバリゼーションに迎合しても自らの文明を創り続ける力を失わない時、それは「Living Civilization(生き続ける文明)」と言われる。
日本人の憧れる「北欧」はもはや「生き続ける文明」ではない。日本が生み出し続ける文明的価値を先ずは日本人が意識しなければ、国家戦略となった「観光立国論」を語る資格は無い。

| 17.06.30

Too Good To Go 

6月16日、Amazonは自然食品のパイオニアで都市富裕層を中心に有機野菜等の販売で売上を伸ばしてきたスーパーマーケットチェーン Whole Foods Marketを137億ドルで買収すると発表した。
消費者はAmazonのプライム会員になることで、スーパーに行かずともオンラインで生鮮食品を注文し、配送もしくは店頭で受取れる。Amazonは本格的な実在店舗の食品小売業を買収することで、生活者に近い店頭生鮮在庫を手に入れるとともに消費者のライフスタイルを変えていくことを狙っている。
日本のネットスーパーは店頭生鮮在庫に世界でもいち早く注目したが、規模で勝るAmazonがこの分野に進出することで、深刻化しつつある世界的食品廃棄問題にも積極的に取り組んでいくことになるだろう。
フランスでは昨年2月に廃棄食品削減の強硬策として、大型スーパーの売れ残り食品をフードバンクなどの慈善団体に寄付することを義務付ける法律が成立している。
ドイツ政府は2012年に、食品廃棄物の量を2020年までに半減させると発表し、フード救済プロジェクト「RESTLOS GLÜCKLICH」が誕生している。大手オーガニックスーパーチェーンから、週に2回、廃棄処分されるはずの食材"ゴミ"を引き取って美味しく楽しんでもらおう!というコンセプトのレストランだ。
デンマークにもそのままでは"ゴミ"になってしまう賞味期限切れ食材を利用するレストラン「Spisehuset Rub & Stub」がある。
また、世界の食品ロスを抑制するアプリ「Too Good to Go」(http://toogoodtogo.co.uk/)はデンマーク発、イギリスで運用され欧州6カ国で利用されている。ユーザーはレストランの残った料理を割引料金で注文し、アプリから支払う。シンガポールの「11th Hour」というアプリも、レストランや食品店がそれまで廃棄していた商品を廉価で提供するサービスだ。
日本は世界最大の食料輸入国だが、世界最大の食品廃棄国とも呼ばれている。その上、カロリーベースで食料自給率は40%とG7最低だ。コンビニが世界一発達した点は評価できるが、悪名高い「賞味期限」表示のお陰で「消費期限」に近い食品が返品廃棄されていく。世界3位の経済規模の日本が、経済力に任せて食料垂れ流しを放置することが許されるはずはない。循環型経済を標榜して、世界に先駆けあらゆるフェーズで抜本的な構造改革を推進すべきだろう。
賞味期限が近づいた商品購入にはカードのポイントをアップするとか、日本のネットスーパーも何か社会的行動を起こさなければ情けない。
Amazonに先を越される前に!

| 17.06.24

Hygge(ヒュッゲ)

2012年から毎年リリースされている国連の世界幸福度報告書による2016年版「世界で最も幸せな国ランキング」(http://worldhappiness.report/)。日本は51位と先進国としては低く、1位ノルウェー、2位デンマークなど北欧4カ国が上位を占めている。北欧はそんなに幸せ感溢れる国なのだろうか?
調査対象は158ヵ国で、国民1人当りの実質GDP(国内総生産)、社会保障、健康寿命など数値化できるものは実際の数値的評価で加点し、人生選択の自由度、寛容度、汚職度、政治的自由度などはアンケート形式の質問の答えをそのまま集計して加点している。従って実際は汚職が酷くても、国民がそれを許して満足していれば得点は高くなるのだそうだ。南米の順位が高いのはそのせいか?
日本は寛容度(generosity)や弾圧からの自由度(dystopia + residual)で被害者意識が強く、相対的な状況は良いはずなのに損をしている。政治的弾圧からの自由度がアンケートでは最も得点配分が大きく、日本は政治的には他国に比べ自由なのに国民の閉塞感が高いようだ。結果、北欧やスイス、ニュージーランド、カナダ、オーストラリアなど白人が理想とする国が上位を独占していると言える。
国連の幸福度調査は、ブータンからの国民総幸福量(GNH)という概念の提唱を受けて実施されたものだが、ブータンは皮肉にも97位である。国民皆が幸せを感じているが、何しろGDP(国内総生産)が低すぎるのだ。奇しくも国連の調査が白人社会を基準にしていることを示している。
デンマークには「Hygge(ヒュッゲ)」という言葉がある。これは「居心地がいい時間や空間」を指すデンマーク特有の幸福に対する概念で、何百年以上にわたって培われてきた独特の感性だという。ランキングが32位と日本より高かったタイにも、「サバイサバイ」という「気持ちがいい~」時に使う言葉がある。
実は日本ほど、戦後多かった物乞いを完璧に無くした国は無い。北海油田による不労所得に恵まれた北欧諸国でも、幸福を感じることに長けているタイでも、意外に物乞いをする路上生活者は多いのだ。資源による不労所得が極端に少なく、付加価値労働だけで人口1億人以上を養い、落ちこぼれが少ない国日本。頑張って働いている世界でも稀な国のひとつであるにも関わらず51位というのは、自分の幸福度を自分で決めることが苦手な国民だとも言える。
これからの日本が目指すのは、経済成長を追いかける数値的豊かさ?ではなく、幸福を感じる敏感なセンサーを磨くことなのだろう。

| 17.06.16

みちびき

スマートフォンやカーナビなどで利用され、現代日本社会を支えるインフラのひとつになっている位置情報システムGPS。その性能を飛躍的に高める日本の準天頂衛星システム2号機「みちびき2」(http://qzss.go.jp/)が打ち上げに成功した。日本版GPS 構築に向けた一歩であると政府は言う。しかし、大本のGPS自体が米軍によって運用されそれに依存している限り、米軍のシステムの補完でしかないのではないだろうか。
米国が1970年代にミサイルなどを誘導するため軍事用に開発したGPSは、現在31基で運用され地球全域をカバーする。日本のGPSは全てこれらの衛星を利用している。しかしこの米国中心の衛星には日本付近が手薄になる時間帯があり、最大で10メートル程度の誤差が出る。「みちびき」はこれを補完する衛星で、独自に全地球をカバーするのではなく、米国のGPSシステムを利用して日本列島付近の空白を埋め、精度を上げることを目的にしており、その結果誤差はわずか数センチ程度にまで大幅に縮小されるようだ。
政府は「みちびきGPSシステム」を速やかにスタートさせるため、年内に測位衛星と静止衛星を打ち上げ、来春には7年前に打ち上げた1号機を含め4基で本格運用をスタートさせることを予定している。さらに2023年には日本エリアに関して米国のGPS衛星に依存せず、直接高精度の測位が常時可能になる7基体制での運用開始を目指しているそうだ。
位置情報は、生活や産業を支える重要なインフラであると同時に、国家の安全保障にも深く関わる。それ故、日本も米国への一極依存から脱却を図るのは当然のことなのだが、「みちびきGPSシステム」を見る限り米国依存がますます進行しているように見える。
片や、中国版GPS「北斗」はこれまでに20機打ち上げられ、2020年までに35機体制になるという。ロシアは「GLONASS」を24機体制で運用。ヨーロッパは米国から独立して18機打ち上げた「Galileo」を2020年までに30機体制にする。さらにインドも「NAVIC」で昨年既に世界対応衛星位置情報システムの運用を始めている。
中でも中国は、東南アジア各国に中国版GPS衛星を利用するための技術的支援を行っており、ASEANのある国が中国版GPSを活用したインフラ整備をひとたび始めれば、いっきにアジア市場が中国版「北斗」で占められることになる。
衛星位置情報システムを見るとその国の自立国家への覚悟をいとも簡単に知ることができる。日本は「自立国家」たる為に、「みちびき」が各国システムに対して全方位で補完できる体制を取るべきではないだろうか。

| 17.06.09

やすらぎの郷

フジテレビ系のドラマ脚本家とされていた倉本聰が今の若者に媚びたテレビ業界への異議を唱え、人間を掘り下げられないTVドラマに“喝”を入れるべく自ら企画立案・脚本を手がけた連続ドラマ「やすらぎの郷」が、TV朝日系列で放送され話題を呼んでいる。
このドラマの興味深いところは、先ず「超豪華老人ホーム」って一体どんなところ?という覗き見根性に訴え視聴率を稼いでいる点だろう。海の見えるコテージにはゴルフ場があり、バーもある。豪華な施設には医師が常駐し、男性スタッフは義理堅く女性スタッフは美人だとなれば覘いてみたくもなる。主人公を演じる石坂浩二の実際の元伴侶を含む往年の大スターたちが老いをさらけ出し、過去への執着や現在の不満、残り火のような恋心、病気や死への恐怖などを抱えて暮す様は、ドラマを超えて正にリアルな迫力がある。来るべき「少子高齢社会」で想定される自分自身の姿と、望んでも手に入らない夢の老人ホームの世界が交叉する中、視聴者は自らの人生のシミュレーションをしながら不安を共感していく。
総務省「家計調査<2人以上世帯>」(http://www.stat.go.jp/data/kakei/)2014年によると、70歳以上の54%は年収200万円未満の貧困層が占め、65~69歳は17%、60~64歳は11%と高齢者に貧困が集中し、毎年その比率が増え続けていることが分かる。
高齢者の“やすらぎ”とは何か?「自分の健康や病気」への心配はさて置き、永遠に収入が続く環境の中で死ねるかどうかだと「やすらぎの郷」は教えている。
日本の年金と社会保険制度はこれまで世界的にも評価されて来たが団塊の世代の高齢化を支える力はなく、今や受給者・支払者ともに将来への不安を抱えている。片や世界の高福祉国家は北欧4カ国の例に見るまでもなく、支えているのは勤労者の労働努力ではなく北海油田などの資源利権による膨大な「不労所得」である。
日本人は「不労所得のある怠け者経済こそが理想だ」と正直に表明し、「やすらぎ」をもたらす少子高齢社会を創るためには、「もの作り」だけでなく「エネルギー資源開発」を進めることが必要だと意識転換すべきだろう。勤勉なものづくり国家と世界からおだてられ働き詰めても、永遠に報われない罠にはまってはならない。
日本領海にシベリアのLNGに匹敵する膨大なメタンハイドレードの埋蔵が、既に確認されていることを忘れてはいけない。

| 17.06.02

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