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養殖スマ台頭

マグロに味が似ているために代替品として、マグロでもカツオでもない全身トロが売りの新しい高級魚「スマ」が市場に出回り始めた。養殖成魚から採卵し人工的に育てる「完全養殖」がこのほど成功したことで、希少だった天然物を飛び越えて「養殖スマ」が俄然市場で注目を浴びることになった。
愛媛県は2013年から「スマ」の養殖に愛媛大学と共同で取り組み、「丸ごとトロ」を売りに今年5月から出荷を始めた。週1回の頻度で年間を通じて出荷し、今年度は2千匹程度、近い将来には、年間6万4千匹位まで出荷を増やせるようだ。重さ2.5kgを超え、その他様々な基準を満たしたスマは、「伊予の媛貴海(ひめたかみ)」(http://jf-ainan.or.jp/publics/index/104/)というブランド名で、1kgあたり3,000~3,300円とマグロ並みの価格で取引きされている。
このところの水産市場では、スマによらず養殖物の存在感が増している。養殖技術の向上と生産者の創意工夫とで、様々な持ち味の魚を作れるようになってきたためでもあるらしい。天候や取れた場所で価格が乱高下する天然物に対し、養殖物は価格変動が少なく、小売業者や飲食店に好感度が高い。長い間養殖物はエサに混ぜる抗生物質やエサ独特の臭いが嫌われ、どうしても天然物を越えることができなかった。しかし状況は変わり、水産庁によると最も人気が高いクロマグロの場合、養殖による国内の生産量が5年前に比べて44%も増えているそうだ。
消費者の食に対する安全志向も養殖物の人気を後押ししている。何よりも成育履歴が明示できることが、最大のポイントだろう。天然物は肉で言えばジビエ、希少性で未だに人気が高いが、何を食べて育ったのか分からないと言われてしまうと反論できない。
そしてこのところ初鰹や戻り鰹等、日本人に愛されるカツオの不漁が続いていることも養殖物を優位にしているようだ。原因は単純で、日本近海に来るまでに周辺国にほとんど取られてしまうらしい。本来なら赤道付近から黒潮に乗って日本沿岸に北上してくるはずのカツオやサンマは、マグロのように各国の厳しい漁獲制限がないため、中国及び東南アジアの生活レベルと漁業技術の向上で一網打尽にされているのだ。
これからの日本の漁業技術は養殖に向かい、あらゆる種類の魚がコントロールされた養殖物として出荷されていく日も遠くないだろう。養殖魚はもう暫くすると日本の水産業を輸出産業に変えていく可能性を持っている?

| 17.05.26

落語復権

「落語には根っからの悪人は出てこない。泥棒であっても、人間誰しもが自分の中に持っている心情を強調したものとして存在している。そんな人間味にあふれた人々が、泣いたり笑ったり怒ったりするところに、落語の魅力があるのではないでしょうか」と、2015年に亡くなった落語家・人間国宝の桂米朝が語っていた。
平成の今、江戸時代以来の「落語ブーム」が巻き起こっている。首都圏の落語会は月1000回以上と10年前の倍、深夜寄席には長い行列ができ、20-30代のファンが急増、個性派若手ユニット「成金」ら新世代の成長が著しい。落語本来の「大衆性」を取り戻そうと、言葉使いを変え、SNSを駆使し、カフェの出張落語会まで仕掛ける奮闘ぶりだ。デジタル文化隆盛の中、若者たちが落語特有のライブ感や世界観に共感しているのだ。
今回火が付くきっかけになったのは、人気と実力を兼ね備えた立川談春が師匠談志の下での修業時代をつづったエッセー「赤めだか」の2時間ドラマや、漫画が原作のテレビアニメ「昭和元禄落語心中」(http://rakugo-shinju-anime.jp/)のオンエアだといわれる。今年1月31日には、落語協会が都内の寄席3軒に呼びかけて「昭和元禄落語心中寄席」が実現した。アニメに絡めた落語を特集し、チケットは発売から10日で完売した上、普段の寄席とはまったく違う若い客層が来場したそうだ。
舞台装置もなにもないところに、演者の言葉だけで、観客が想像力で噺の世界を描く。いたってシンプルな笑いの芸、だが奥は深い。「落語は人間の業の肯定である」故・立川談志の言葉だ。落語には数々の「ダメな人」「失敗した人」たちが登場する。家賃をため込んでもまったく気にしない熊さん、八っつぁん。人はいいけれど放蕩が止まらない若旦那。のんきで楽天的だが何をやっても失敗ばかりする与太郎。しかし落語では彼らを否定することなく、「まぁ、人間こんなもんだ。」と受け止める。聞き手は「マヌケだなぁ」と呆れつつ、時には登場人物に己を重ね、まとめて笑い飛ばす心地よさを楽しむのだ。
SNSで繋がってはいても、生のコミュニケーションが希薄な時代。「ご隠居さん、こんちわー」「おや、八っつぁんかい。まあまあ、お上がり」という会話で始まる落語は、緊密な人間関係をベースに喜怒哀楽を織り込み、庶民の心のひだに優しく寄り添うトランキライザーのようなものかも知れない。
落語復権は、グローバル化の名の下に常に拡大進化を続けなくてはならない社会に対してのアンチテーゼなのだろう。

| 17.05.19

スカイカー

「車が空を飛ぶなんてSFの話」と思っていたら、「空飛ぶ車」(スカイカー)の開発プロジェクトが世界のあちこちで立ち上がり、いつのまにか現実がSFに近づいてきている感がある。
スロバキアのAeroMobil社が開発を進めていた空飛ぶクルマ「AeroMobil 3.0」は、ついに予約販売を開始した。市販モデルは限定500機で、値段は日本円に換算すると1億4,000万円から1億7,500万円になるそうだ。アメリカではGoogleの親会社AlphabetのCEOラリー・ペイジ氏が出資するベンチャー企業Kitty Hawk社が、水上をはじめとする「非密集」エリアに限定して飛行する新たな空飛ぶ乗り物「Kitty Hawk Flyer」の試作品をインターネット上で公開し、年内にも米国で発売したいとしている。またマサチューセッツ工科大学(MIT)の出身者らが興したTerrafugia社が2006年に開発を始めた、垂直離着陸(VTOL)も可能なスカイカー「TerrafugiaTF-X」(https://www.terrafugia.com/tf-x/)は発売目標2026年、と世界では「スカイカー」開発がめじろ押しだ。
さらには米のUber Technologies社が2020年までに「空飛ぶ車」の運用実証実験を実施すると発表。ブラジルの旅客機メーカー・エンブラエル社などと提携しVTOLを利用した短距離輸送ネットワーク「Uber Elevate」計画を公表している。実験場所にはドバイと米南部テキサス州内を予定し、将来的にはUberの配車サービスのように顧客が簡単に乗り物を呼び出し高速で移動できる航空交通の実現を目指すというものだ。各スカイカーメーカーもウーバーの計画を注意深く見守っており、パイロットとしての訓練なしで誰もが乗れる、オンデマンドの空飛ぶ自動運転タクシーのサービスが展開される未来が来ることを確信している。
日本でもトヨタのエンジニアが自費で立ち上げたカーディベータ社のスカイカー「スカイドライブ」が話題になっているが、欧米のアントレプルナー達の上場で得た資金がリスクマネーとしてライフスタイル変革に投資されている規模には及ばない。世界ではリスクマネーがイノベーションを起こし、政府が規制撤廃で応援している。イーロン・マスクやジェフ・ベゾスの火星宇宙船開発がそれだ。
それに引き換えリスクマネーを出せる人は本業の技術投資がめいっぱいで、異分野イノベーションにまで気が回らない日本。国は新しい事業の概念には規制をさらに強め、意志ある開発者はどんどん日本を離れていくばかりだ。この国で、上場で得た資金がスカイカーや宇宙への進出などに投資される時代は来るのだろうか?

| 17.05.12

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