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パナマショック

「パナマ文書」(http://panamapapers.sueddeutsche.de/en/)で突如世界の注目を浴びた中米パナマ共和国。大西洋と太平洋を結ぶ交通の要衝で、2000年代に入って金融サービス産業でも注目されてきた国だ。
パナマは、かつてコロンビアの一部であったが、アメリカのパナマ運河建設計画のため1903年にコロンビアから独立した国家である。中南米を結ぶ最も幅の狭い大陸にあり、これ以降運河の利権を巡る政治経済の中心になっていく。当初アメリカがパナマ運河の主権を永久確保していたが、1977年にカーター大統領がパナマ政府と運河に関する返還条約を締結し、1999年12月31日をもって完全にパナマ政府へ返還された。
運河をアメリカから取り戻し、さらにパナマを国際金融都市として発展させたのが、故オマール・トリホス大統領だ。 貧困層への支援、国内産業の充実に力を注ぎ、運河だけに依存しない国際金融都市としての国作りをしたのだ。
こうした歴史的経緯の中、パナマ返還条約の年1977年に創立されたのがモサック・フォンセカ法律事務所で、今回流出したとされる「パナマ文書」は1150万件2.6TBytesに及ぶ膨大な資料だ。機能上タックスヘイブンを使っているファンド以外にも、世界の富裕層や企業、政治指導者らの多くが租税回避をしている実態を白日の下に晒した。もちろん大半は合法的な投資のためのものであり脱税ではない。あたかもマネーロンダリングの代名詞として文書の名称に自国名が冠せられたことに、パナマ国内では反発が起きている。
一方、今回流出した問題顧客リストは氷山の一角に過ぎないと考えられており、自国で税金を国民に課す政治指導者が自らは租税回避をしているというモラルが問題になっている。その中には、ロシアのプーチン大統領の友人や中国の習近平国家主席ら指導部の親族の他、イギリスのキャメロン首相の父親やアイスランドのグンロイグソン首相、シリアのアサド大統領やエジプトのムバラク元大統領の息子など、世界の有力者や独裁者、その周辺の人物らが軒並み名を連ねている。ただそこに米政治家の名前がほとんどないのはおかしいと思った人は少なくないはずだ。かつてアメリカの貿易利権の要衝だったパナマ運河だが、既に金融拠点としての役割は終わり、米国を牛耳る金は逃げ出した後ということなのだろうか?
追いすがるロシア、中国の富裕層を突き放した米国の富裕層が、危険な国外の租税回避地を捨て、次なる租税回避の方法を編み出したことを意味しているのだろうか?

| 16.04.22

BABYMETAL

日本人の少女3人によるアイドルダンスユニット『BABYMETAL』が、4月1日にリリースしたニューアルバム『METAL RESISTANCE』が、米ビルボード4月23日付総合アルバムチャート“Billboard 200”の39位にランクインした。
過去にチャートインした日本人アーティストは、1963年の坂本九『Sukiyaki And Other Japanese Hits』が最高位となる14位、1975年の冨田勲『Moussorgsky: Pictures At An Exhibition』が49位、1986年のLoudness『Lightning Strikes』64位など。今回の『METAL RESISTANCE』は歴代2位の記録でTOP40入りは坂本九以来53年ぶりだそうだが、言葉の障害があるとは言え、全米で日本車が30%のシェアを持つことを考えるとなんともさびしい限りだ。
『BABYMETAL』は、「ヘビーメタル」をもじって「BABY」の可愛らしさと「METAL」の激しさを融合させたネーミング。もともとはアイドルグループ「さくら学院」から派生したユニットで、言葉を超えたパフォーマンスの「イジメ、ダメ、ゼッタイ」(https://www.youtube.com/watch?v=gYcErTwpVOM)で2013年にメジャーデビューした。その前から「メタル」と「カワイイ」が交錯する外人にもわかり易い姿がYouTubeを通して海外でも話題になっていた。2014年には初のワールドツアーを敢行。海外進出をきっかけとして、先に欧米諸国から評価されるという逆輸入現象を起こしたのだ。海外でライブができる日本人アーティストは稀で、意外なことにYMOや宇多田ヒカルも海外ライブの実績はない。
日本のアイドルの海外進出は2000年以降いくつもあったが、公演が成功裏に終わったと言いつつ観に来ていたのは日本人ばかりというケースが多い中、『BABYMETAL』は海外数千人規模の会場を日本語が母国語ではない人たちでほぼいっぱいにできる数少ない邦楽アーティストだ。他に「きゃりーぱみゅぱみゅ」や「Perfume」など、日本でやっているそのままの形で言葉の壁を超えたアーティストはわずかだ。
日本のミュージシャンにとって言葉以上に最大の壁は1億2千5百万人の、そこそこ大きな国内マーケットだ。サザンオールスターズをはじめ、日本で成功すればそこそこの立場を手に入れハングリーでなくなる。日本の豊かさが世界に乗り出す意欲を削いでいるのだ。ゴルフ界も同様だろう。しかし英語人口は17.5億人と言われており、そこで成功することは欧米諸国での成功を意味する。世界人口70億人の3割近くに聴かせることができる(?)のだ。
インバウンド市場が注目される中、グローバル市場での成功を目指すアウトバウンド志向も重要だろう。

| 16.04.15

それが何か?

フランスのル・モンド誌は、オランド大統領と事実婚でありながら元ファーストレディーだったヴァレリー・トリエルヴェレール女史と保守系国会議員との不倫疑惑を報じた雑誌が、議員に名誉棄損で訴えられた事件で興味深い記事を書いている。昨年12月に日本の最高裁にあたる破毀院が、「不倫はもはや反道徳的とはいえない」という判決を下したというのだ。裁判所は不貞の事実関係すら踏み込まず結論を出したようで、「道徳の概念は時代とともに変化するものであり、もはや夫婦間の不貞嫌疑は、それだけで人の名誉や尊厳を毀損する性質のものとはいえない」というのが判決の理由とのこと。日本の乙武事件とは随分な違いだ!
フランスでは、仮に政治家の恋愛スキャンダルが見つかった場合でもあまり国民が興味を持たないし、報道されない場合も多いらしい。政治家の能力と個人の性愛は全く別のものだというコンセンサスが国内に浸透しているからだ。以前、ミッテラン元大統領の婚外子が報道された時も、大統領就任直後の記者会見でそのことを尋ねられたミッテランが、「Et Alors?(それが何か?)」とキョトンとしたというのは有名なエピソードだ。間違ってもそういった行動が政治的能力に影響を及ぼすことは無いと考えられているようだ。文化の違いと思いきや、日本でもミッテランと同じように意に介さない態度がとれる首相がいた。かの神楽坂を、朝夕自分が通りたい方向に一方通行の向きを変えたと言われる田中角栄(http://matome.naver.jp/odai/2137096224703331901)や佐藤栄作だ。むしろスキャンダルがほほえましく語られてきた。反対にそれがアダとなった宇野宗佑という短命首相もいた。要は人物の器の大きさが、洋の東西を問わずスキャンダルを飲み込めるかどうかを決めているようだ。
最近では、5人との不倫を告白した乙武洋匡氏が自民党の擁立要請を受けていた今夏の参議院議員選への立候補を取り下げた。しかし何の理由で立候補を取りやめたのか腑に落ちない人も多いのではないだろうか?誤解を恐れずに言えば、彼は元々反自民的発言が多かった人で、自民党から出馬すること自体が間違いだったのだろう。もしハンディキャッパーを代表して政治家を目指すのであれば、週刊新潮の攻撃に対して「Et Alors?」と言って無所属で立候補する選択肢もあったのではないだろうか?
日本をつまらない国にしないためにも頑張ってほしかった。日本国民ももう少し大人になった方がいい。

| 16.04.08

異世界ファンタジー

NHKの大河ファンタジー『精霊の守り人』(http://www.nhk.or.jp/moribito/)が注目を集めている。上橋菜穂子著・守り人シリーズの大河ドラマ化で、女優の綾瀬はるかが演じる女用心棒・バルサの活躍を描く冒険物語だ。この手のファンタジーもののドラマ化は製作費がばく大で日本のテレビが苦手とするところだが、今回は全22回を3年かけて制作・放送する。かなりの長丁場だが、どんどん進化した内容となって完結していくようだ。
21世紀に入ってから世界の映画界では興行収入トップとなるファンタジー・ブームが続いている。『ロード・オブ・ザ・リング』や『ハリー・ポッターと賢者の石』が世界的に大ヒットし、異世界の出来事がコンピュータ・グラフィックスをはじめとする最新の映像音響技術を駆使した壮大なファンタジーとして描かれてきた。中でも2009年に公開された『アバター』は3D映画を普及させるエポックメイキングな作品となり、世界興行収入歴代1位の記録を打ち立てて未だに破られていない。昨年10年ぶりに新作が公開された『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』もやはり壮大なファンタジーだ。
人はどうしてファンタジーを求めるのだろうか?現実からの逃避願望は誰にでもあるものだが、もう一人の自分(アバター)が住むアナザーワールドでヒーローになることは、すべての人の潜在意識の中にある願望なのだろう。コンピュータ・グラフィックス(CG)とセンサー技術がその世界を創り出すことを可能にしつつあるようだ。とりわけゲーム業界が巨大産業に育ちつつある背景には、原動力として人間の異世界ファンタジーへの憧憬があるものと思われる。
コスプレ、女装、レディボーイも超現実の1つだが、VRで創り出される異世界ファンタジーで生きる自分のアバターを知覚する事で、超現実の社会に自分をシフトできるのだ。現実と超現実を行き来するようになる。究極、「肉体が滅びても脳と知覚が生き残り、人類はVR上で永遠の生命を手にいれる」ということになるだろうか?「トータルリコール」は映画史上不滅のコンセプトか。
10億年以上前の火星に生命体が生きた痕跡があると言われるが、現実の文明が滅びた現代の火星で、地底に巨大データセンターが発見され、超現実に生きる火星人の人工知能が発見されたという日が来るのだろうか?

| 16.04.01

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