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忖度文化

聞きなれない「忖度(SONTAKU)」という言葉の検索ランキングが急上昇、今年の流行語トップ10は確実だろう。注目されるきっかけとなったのは森友学園への国有地売却をめぐる問題で、3月23日籠池氏が国会での証人喚問に引き続いて臨んだ日本外国特派員協会の記者会見。「口利きは依頼していない。官僚が忖度をしたということでしょう」と答え、さらに自身に吹いている逆風について、「今度は逆の忖度をしているということでしょう」と発言したからだ。
「忖度」とは、“他人の心(気持ち)をおしはかること”や“推察”を意味する言葉で、デジタル大辞泉では使用例として「相手の真意を忖度する」が紹介されている。つまり籠池氏は「当該案件について安倍首相が便宜を図るよう指示したわけではないが、官僚が『首相が籠池氏に便宜を図りたいの“だろう”』と推察して便宜を図ったの“だろう”」と言いたかったの“だろう”。
外国人記者クラブでは、通訳が「忖度」を訳す際に「What is sontack?」と詰まってしまったと報道されている。結局「conjecture」「read between lines」と訳していたが(http://www.huffingtonpost.jp/2017/03/23/moritomo-sontaku-in-english_n_15572790.html、)英語では直接言い換える言葉がなかったのだ。日本には「慮る」「気を遣う」「空気を読む」など「忖度」に近い言葉がいろいろあり、日本人なら少し説明されればなんとなく肌感覚で理解できる。
日本には歴史的に“和や空気”を共通に感じる独自の文化「忖度文化」を醸成する素地がもともとあった。そして客をもてなす日本的文化や伝統の隆盛には、この「忖度文化」が非常に心地よく有効だったのだ。インバウンド観光で和の心や“おもてなし”が海外から評価を受けるのは、その精神のもとに言葉に出さなくても思いを汲み取る「忖度文化」があるからだ。
しかし、ひとたび強権的人物が権力を握るとその長所はかき消され、欠点のみが露骨に現れるという危険性もある。強権下においては「忖度文化」がほぼ自動的にマイナスに作用して、負の効果をもたらしてしまうのだ。頼まれもしないのに準備を整えたり、良く思われたい心が働き出したりする。
今回の森友学園問題で「忖度文化」が取り沙汰されているが、問題は昭恵夫人が首相夫人という立場をわきまえず名誉校長を引き受けた一点に起因するだろう。
政治家は「忖度」が仕事。高級官僚の仕事はむしろイデオロギーや強権におもねらないAI(人工知能)にリプレイスするのがいいのだろうか?・・・

| 17.03.31

トランスヒューマン

今年1月に出版された伊佐知美著『移住女子』(新潮社)に共感して、都会の暮らしを捨て「田舎に移住したい」と考える女子が増えている。
書中著者は、家賃が高い、通勤がしんどい、おまけに子育ても大変と、都会から地方へ移住して未来を変えた女性達を取材。岩手、新潟、鳥取、福岡と移住先は違っても、移住のきっかけ、働き方、恋の話など、地域に寄り添い自分らしく暮らす彼女たちに共通点は多く、その素顔に迫り興味深い。
今年1月には東京で2度目を迎える「全国移住女子サミット 2017」(http://inacollege.jp/ijyu-joshi-summit/)が開催された。ごく普通の女性だった彼女たち―都会では貯金と仕事とダイエットが興味の対象だったのに、移住先では考え方が根こそぎ変わり、自分のことを話すのにも『I』ではなく『We』になっているそうだ。「地域の一員として一緒に地域を守っていく」と思い始めているのだろう。
都会人の移住現象について、欧州復興開発銀行初代総裁で欧州の頭脳と言われたエリート、ジャック・アタリ氏は、2006年の著書『21世紀の歴史―未来の人類から見た世界』の中で、「世界はノマド(自由に住み働く場所を変える人)の時代になり、中でも「超ノマド」が経済発展の鍵を握る」と予言している。「超ノマド」とは移住した中心都市の栄枯盛衰に最も敏感なエリートビジネスマン、学者、芸術家、芸能人、スポーツマンなどをさし、現在世界には約1千万人(0.14%)ぐらいが生息するという。だが日本に生息する「超ノマド」は1万人以下、人口比で0.004%しかおらず、世界平均の15分の1以下である。アタリ氏は日本が「超ノマド」の育成や迎え入れが如何に苦手であるかを指摘し、そうした人材を幅広く受け入れることなく東京が世界の中心都市になることはないと断言している。
さらに、「超ノマド」は利己主義や海賊の破壊欲を捨て利他主義者になると共に、21世紀の歴史や同時代の人々の運命に関心をもち、次世代によりよい世界を残そうとする「トランスヒューマン」な感覚を持たなければならないとも説いている。世界市民であり複数の共同体のメンバーでもある「トランスヒューマン」が、世界の主要国の都市で増え続けているにもかかわらず、日本は未だにインバウンド観光客数を増やすことだけで精一杯だ。
観光立国政策でインバウンドを4000万人に増やすのもいいが、トランスヒューマンな「超ノマド」としてのエクスパトリエイト(市民権を取るつもりのない外人居住者)をもう少し増やさない限り、ただ観光収入を増やすだけの卑しい国を脱することはできないだろう。

| 17.03.24

石油終焉

中東の石油大国サウジアラビアの国王の46年ぶりのアジア歴訪の一環で、サルマン国王がマレーシア、インドネシアに続いて、1500人を超える随行者を連れて12日に来日し話題をさらっている。日本が原油の3分の1を依存するサウジアラビアは、このところの原油価格の低迷で3年連続の財政赤字に陥り、将来への危機感から「脱石油立国」を柱とする経済改革を進めようと、危機感を持って今回の歴訪を決定したようだ。
国王は改革の実現に向けて日本企業の投資や技術協力などを求め、日本は規制の多かったサウジ進出に、インフラや医療、再生可能エネルギーなど幅広い分野で商機拡大を狙うことになる。訪問団を受け入れる日本は特需を期待して浮き足立っているようだが、そんなに単純ではないだろう。
国王来日騒ぎの陰で注目すべきは、ムハンマド副皇太子と外相、エネルギー産業鉱物資源相、商業投資相と国営石油会社アラムコのCEOら重要閣僚は来日せず、同時期に訪米してトランプ政権と会談している事だ。(http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/03/post-7174.php)
一方トランプ大統領と政権の中枢は、選挙期間中からロシア政府高官と接触し、スキャンダルまで起こして何をしたかったのだろうか?
米国は、1911年のロックフェラー家によるスタンダードオイルの設立以来、国際石油資本の中枢を握り石油の富を独占して来た。ロックフェラー家が米国のキングメーカーとして戦後の大統領選出に深い繋がりを持って来たことは周知の事実だ。
そうした既存米国政治の基盤を持たないトランプ政権が、石油民族資本の台頭と米国石油資本の弱体化、エネルギー消費の変化を読み解いて、タイミング良く既存政治家に有利なこれまでのレジームを破壊し、独自の資源権益ルートを作り出そうとしても不思議はない。
実現の為には、世界の石油の最大購入国である中国と日本の協力が是非とも必要な訳だ。この2カ国が、購入先を中東の石油からシベリアの天然ガスへと比重を変えた時、世界に何が起こるのだろうか?
中東の既存の石油輸出大国は驚くべきスピードで凋落し、替わってシベリアの大発展が起こり、トランプ政権の経済的安定を約束するのではないだろうか?
これこそがトランプ大統領の目指す新レジームであり、日米露に中国を加えた、シベリア極東資源開発を軸とする新しい経済発展のシナリオである。これを最も恐れるのは中東産油国、その代表サウジアラビアだ。
「アラビアのロレンス」の中でロレンスが「砂漠の砂はしっかり握っていないと指の間から落ちてバラバラになる」と語る。
今まさに石油の時代が終わろうとしている。

| 17.03.17

感情化社会

オックスフォード辞書の2016年の今年の言葉として「Post-Truth」(https://en.oxforddictionaries.com/word-of-the-year/word-of-the-year-2016)が選ばれた。少し解りづらい言葉であるが、「ポスト真実」と訳されており、感情を利用した扇動的メディアにより、真実かどうかを意識しないまま民意が創り出されて行く状況を差すようだ。英国のEU離脱(Brexit)や、米大統領選のトランプ現象に象徴される「感情化社会」を示す言葉として注目を集めている。
英国の国民投票によるEU離脱の決め手は、移民増を訴えることで煽られた不安心理だったと言われている。国際通貨基金が移民は1人当たり国内総生産(GDP)を押し上げて来たとの試算を示し、「移民が英国民の雇用を奪ったとの根拠はほとんどない」と発表しても、一旦移民を悪者扱いした国民の不安心理や恐怖感は消せず、離脱派の主張を弱めることは無かった。トランプ勝利も政策の論理的な展開を武器とせず、「We make America great again! 」と繰り返すことで国民の共感を得たものである。
このような「Post-Truth」現象には、事実を冷静かつ客観的に見れば自分たちの主張は間違いだと思っている人達もかなり加担している。いつの時代にも「真実」が絶対価値ではないことはあったが、その結果悲惨な歴史が残っていることは記憶に新しい。
一方商品やサービスの価値は変遷しており、30年ほど前までは技術で差別化をはかる「機能価値」全盛の時代だった。機能が充実しているほどいいとされ、テレビやエアコンなどの家電に代表される多機能商品、高機能商品ほど価格が高かった。その後2000年代に入ってiPhoneが登場してくると、「デザイン価値」が最も高いと強調されるようになり、カッコいい、オシャレ、自分のライフスタイルに合うということに価値が見出されるようになった。最近は、いいストーリーに惹かれてモノを選ぶ「ストーリー価値」が台頭してきている。感激、感謝、感動が媒介となって共感が生まれ、共感が価値に変り、生活者はそれを重視するようになってきているのだ。商品やサービスの価値判断において、「感情」が上位に来ているといえそうだ。
IT化によるグローバリゼーションは、地球上に共感が渦巻く「感情化社会」を生み出した。「Post-Truth」とは、まさに「創られる真実」の台頭ということなのだろう。
日本でも他人事ではない現象がある。東芝の破綻は、日米原子力協定の存在と福島第一原子力発電所原子炉のメルトダウンを国を挙げて隠蔽してきた、感情化社会のなれの果ての現象の一つではないだろうか。

| 17.03.10

プレミアムフライデー

2月24日、政府と経済界の旗振りで金曜日の仕事を午後3時に切り上げる「プレミアムフライデー」がスタートしたが、結果は散々。早く仕事を終えることで消費を増やし、合わせて労働時間も短くするという一挙両得を狙った?施策だったが、やはり無理だったようだ。SMBC日興証券の推測では、実際に早帰りできるのは大企業の360万人ほどで公務員と合わせても全就業者数の6.5%程度、消費の押し上げ効果も1年で635億円にとどまりGDP比0.001%程度となっている。
厚生労働省の「平成28年版過労死等防止対策白書」によれば、日本は諸外国に比べて労働時間が極端に長いとは言えず、時間だけで言うとアメリカや韓国の方が長いという結果が出ているそうだ。しかし住職接近環境作りに失敗している東京圏では、通勤時間をどう捉えるかも重要だ。通勤は労働時間か自由時間か?
一方、国民一人当りGDP調査で常に上位にある「北欧4カ国」だが、労働状況を統計からだけ捉えることはできない。週40時間労働制は日本と同じだが、最低5週間の有給休暇取得が法律で義務付けられている。しかもデンマークとノルウェーは週平均33時間労働、裁量労働制のため在宅勤務も多い。元々基礎条件が日本とは大きく異なっているのだ。先ず北欧は人口が極めて少なく、一番多いスウェーデンで1千万人、ノルウェー、フィンランド、デンマークに至ってはわずか5百万人前後である。北欧は基本的に一次・二次産業国であるが平均所得と生活レベルが高い。それは北海油田(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%97%E6%B5%B7%E6%B2%B9%E7%94%B0)をはじめとした"資源大国"であるためだ。自動的に不労所得比率が高くなり、構造的に働かなくてもいい国になっている。
背伸びしてプレミアムフライデーを導入するより「日本は未だに貧しい」と自覚して対策を立てるべきであろう。働かなくても食べられる国と無理やり比較して、残業を少なくしろ、金曜は半ドンにしろ、有給は消化しろ、給料は上げろ、と、日本は何故か労働組合が言うようなことを首相が言う、変わった国になってしまった。
「我が国は広い国土(海洋面積を入れると世界6位)を持ち、新しいエネルギー源であるメタンハイドレートの埋蔵量はほぼ無限。且つ地熱発電に世界で最も適した環境を持つ国である」と捉え直し、不労所得を得ることにもっと正面から取り組んではどうだろうか。
資源大国になった日本がプレミアムフライデーを提唱すれば、即刻100%消化できること間違いなしだ!

| 17.03.03

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