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感情化社会

オックスフォード辞書の2016年の今年の言葉として「Post-Truth」(https://en.oxforddictionaries.com/word-of-the-year/word-of-the-year-2016)が選ばれた。少し解りづらい言葉であるが、「ポスト真実」と訳されており、感情を利用した扇動的メディアにより、真実かどうかを意識しないまま民意が創り出されて行く状況を差すようだ。英国のEU離脱(Brexit)や、米大統領選のトランプ現象に象徴される「感情化社会」を示す言葉として注目を集めている。
英国の国民投票によるEU離脱の決め手は、移民増を訴えることで煽られた不安心理だったと言われている。国際通貨基金が移民は1人当たり国内総生産(GDP)を押し上げて来たとの試算を示し、「移民が英国民の雇用を奪ったとの根拠はほとんどない」と発表しても、一旦移民を悪者扱いした国民の不安心理や恐怖感は消せず、離脱派の主張を弱めることは無かった。トランプ勝利も政策の論理的な展開を武器とせず、「We make America great again! 」と繰り返すことで国民の共感を得たものである。
このような「Post-Truth」現象には、事実を冷静かつ客観的に見れば自分たちの主張は間違いだと思っている人達もかなり加担している。いつの時代にも「真実」が絶対価値ではないことはあったが、その結果悲惨な歴史が残っていることは記憶に新しい。
一方商品やサービスの価値は変遷しており、30年ほど前までは技術で差別化をはかる「機能価値」全盛の時代だった。機能が充実しているほどいいとされ、テレビやエアコンなどの家電に代表される多機能商品、高機能商品ほど価格が高かった。その後2000年代に入ってiPhoneが登場してくると、「デザイン価値」が最も高いと強調されるようになり、カッコいい、オシャレ、自分のライフスタイルに合うということに価値が見出されるようになった。最近は、いいストーリーに惹かれてモノを選ぶ「ストーリー価値」が台頭してきている。感激、感謝、感動が媒介となって共感が生まれ、共感が価値に変り、生活者はそれを重視するようになってきているのだ。商品やサービスの価値判断において、「感情」が上位に来ているといえそうだ。
IT化によるグローバリゼーションは、地球上に共感が渦巻く「感情化社会」を生み出した。「Post-Truth」とは、まさに「創られる真実」の台頭ということなのだろう。
日本でも他人事ではない現象がある。東芝の破綻は、日米原子力協定の存在と福島第一原子力発電所原子炉のメルトダウンを国を挙げて隠蔽してきた、感情化社会のなれの果ての現象の一つではないだろうか。

| 17.03.10

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