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酒蔵ツーリズム

「Kura Master」という“フランス人による、フランス人が選ぶ、フランス料理のための日本酒コンクールが6月4日にパリで開催され、今年の受賞銘柄が決まり話題になった。
ここ数年、パリのフレンチレストランでは自らの料理に合う日本酒をソムリエが探し求め、ペアリングして提供するところが急増している。8月に亡くなった、「フレンチの神様」といわれたジョエル・ロブションも日本酒に魅せられたひとりだった。日本の食文化に造詣が深く、世界中に星付きレストランをもつ彼が惚れ込んだのは、日本でもファンの多い「獺祭」だ。多くのフランス人にもその魅力を知ってほしいとの思いから2018年6月、「DASSAI JOEL ROBUCHON」をパリにオープンしている。
日本酒の輸出先としては今まで圧倒的にアメリカが多かったが、欧州料理に日本酒を合わせるというフランス発の動きが最近活発になってきている。薄味で素材本来の味を生かし、苦みや酸味を含む多様な味わいの組み合わせで料理を構築している。昨年日本/EU間で大枠合意したEPA交渉が日本酒の関税即時撤廃をもたらすなど、欧州への輸出拡大の追い風になっている。
そうした中、日本各地の酒所を巡って地酒を味わい、その酒を育んだ土地を散策しながら郷土料理や伝統文化を楽しむという新しい旅のスタイル、「酒蔵ツーリズム」( https://sakefan-tourism.com/ja/top/ )が人気だ。訪日観光客に人気の高い都市だけでなく、地方の酒蔵が中心となって「地方文化と日本酒」を楽しめる仕組み作りができつつある。
2018年3月末時点で国内に3,184ヵ所ある酒類製造場だが、酒蔵開放や酒蔵コ ンサートなどさまざまな酒蔵イベントが開催され、昔とは違った形でその地域の文化拠点になってきている。日本のルーツに触れたい訪日客には大きな魅力だろう。
2017年10月からは、許可を受けた酒蔵やワイナリー、地ビール工場、焼酎の蒸留所などで購入した場合、訪日客には消費税だけでなく酒税も免除となった。
「SAKE」が世界の定番になる日も近いようだが、海外の三つ星レストランなどで日本酒に親しんだ外国人は、訪日するとその安さに驚くのだという。
フランスでは国をあげてワインの国際展開を推し進め、適切な販売価格を提案しているそうだが、日本酒は杜氏や蔵人が心血を注いだ世界商品でありながら国際価格を意識した国内の価格設定が出来ていない。
日本酒の世界価値を認め戦略的国内価格を設定していかないと、せっかくのブームでも海外の輸入業者だけが潤い、酒蔵は報われないし税収も減るだけだ。

| 18.08.31

騒き(ぞめき)

今年、徳島市長が中止を決定した阿波踊りの"総踊り"が、13日夜踊り手側団体によって独自に強行され約1400人が路上を埋め尽くした。総踊りを中止して騒然とする祭りを管理したつもりの市長は、失敗を認めざるを得ない羽目に陥った。
阿波おどりのお囃子は「騒き(ぞめき)」と呼ばれるが、意味は浮かれ騒ぐこと。「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃソンソン」などと歌われ、浮かれて騒ぐ総踊りこそが阿波踊りなのだ。
中止の決定にはいろいろな事情があったようだが、明治時代に起きた“盆踊り弾圧”の歴史を彷彿させる。
「盆踊り」の歴史は、平安時代の僧侶空也が人々に覚えてもらおうと念仏をリズミカルに歌うように唱え始め、それに合わせて踊るようになり、「念仏踊り」と名付けられて人々に広く知れ渡ったことに発する。「念仏踊り」はやがて「踊り念仏」と呼ばれ、先祖の魂を供養するお盆の行事と結びついて現在の「盆踊り」の形になったとされる。鎌倉時代になると「盆踊り」はより民族芸能としての認識を高め、娯楽的な要素が強まり、今では日本全国で地方色を色濃く反映して続いている。
しかし江戸時代に入ると、幕府が一揆につながるとして藩に禁止を促し、明治時代には「風紀を乱す」との理由で“盆踊り弾圧”が全国的に行われた。「盆踊り」はそのため一時衰退したが大正時代末期には復活し、再び日本全国で続けられた。
成仏に通じる喜びの一体感が得られる不思議な行事として、庶民たちの生活に欠かせなくなった「盆踊り」だが、平成においてもなお、お上がいくら規制しても止められるものではないということを、徳島市長の失敗が示している。
現代は、さしずめ大規模なコンサートなどがその役割を担っているのだろうか。日頃の鬱憤を晴らす場だと認めてかからないと、お上は判断を間違えることになる。
今年引退する安室奈美恵が、先日亡くなった翁長沖縄知事の熱烈な支持者であることはあまり知られていない。彼女が突然出場を決めた引退前日の沖縄ライブ(http://www.hmv.co.jp/newsdetail/article/1808201000/)は9月15日開催。沖縄県知事選が9月30日であることを考えると意味深な日程だ。そして自民党総裁選は9月7日公示、20日投開票である。
9月15日に圧倒的な動員と情報発信力を持った安室ちゃんが、沖縄市民に反基地のメッセージを送るようなことがあれば、知事選の行方は突然混迷する。そして直前の自民党総裁選三選の安倍勝利は、沖縄知事選の自民党候補の足を確実に引っ張ることになろう。
現代の「盆踊り」をお上は見くびってはいけない!

| 18.08.24

浚渫(しゅんせつ)

西日本豪雨発生から1ヵ月余り、200人以上が亡くなるという悲惨な災害となった。広島、愛媛、岡山の3県では多数の安否不明者を出し、猛暑と台風の中いまだ3,000人以上が避難生活を強いられているという。依然として事態の全容は解明されていないが、「人災」であるという声が高まっている。
ダム内に土砂が堆積して貯水量が減ることを防ぎ、本来の治水機能を保つ「浚渫」はダム設計時に機能設計されているが、設計通り行われていないダムが全国で100カ所以上あることが、2014年の会計検査院の調査( http://www.jbaudit.go.jp/pr/kensa/result/26/pdf/261021_zenbun_03.pdf )で分かっている。このままでは多発している突発的な局地的豪雨などに対応できないとして、検査院が国土交通相に即時改善を求めていた中でこの水害は起こった。
当時検査院が検査したのは、国交省が管理する29ダムと21道府県が管理する182ダムの合計211ダムなので、なんと半数以上が問題ありとされていたのだ。ポイントは点検や計測の実施状況、堆砂への対応、緊急時への備えなどで、中でも指摘が最も多かったのは堆砂への対応状況。計画年数に達していないのに既に堆砂量が計画堆砂量を上回っている事例が、9府県管理の20ダムに見られたそうだ。
また堆砂量が計画堆砂量に達していなくても、土砂が洪水調節容量内に入り込んで本来貯留できる水量を保てなくなり、下流の河川に影響を及ぼす恐れのあるダムもあると勧告されている。国交省所管の14ダムと16道県所管の92ダムがこうした状態で、さらに11道県所管の48ダムは、洪水調節容量内の堆砂量を算出していないなど、そもそも「浚渫」以前の低レベルな問題も露顕していたようだ。
必要なダムであっても、単に作っただけで適切な使い方や溜まった土石を毎年「浚渫」する予算組みとメンテナンスを怠ってしまうと無用の長物と化すことは自明の理である。
米国ではハリケーン・サンディの襲来後、アメリカ合衆国住宅都市開発省 (HUD) とロックフェラー財団は、自然災害を想定した復興設計コンペである 「Rebuild by Design」を立ち上げた。「Rebuild by Design」のチャレンジは、サンフランシスコ・ベイエリアをモデルとして、周辺の10のロケーションで地域住民と官公庁担当者、専門家を立ち合わせて、海面上昇や暴風雨、洪水、地震に対して、環境保全型でよりよい復興を提案する 10 組のデザイン チームを選出した。災害が起こる前に復興プランを設定しようというものだ。
日本でもダム管理を国交省や自治体の役人に任せるだけでなく、幅広く復興設計コンペをするなどして問題を可視化する必要があるのではないか?
気象庁に「異常気象宣言」をさせて、人災の責任回避をさせてはいけない。

| 18.08.17

悲惨指数

米ジョンズ・ホプキンズ大学のスティーブ・ハンケ応用経済学教授が、世界の59カ国を対象とした2016年度の悲惨指数ランキングを発表した。なんと世界ワースト1位(最も悲惨ではない)は日本だそうだ。
「悲惨指数(Misery Index)」(https://en.wikipedia.org/wiki/Misery_index_(economics) )とは一体なんなのか?この大学では、「消費者物価上昇率と失業率の加算」という従来の悲惨指数に、銀行ローンの金利や1人当たり実質GDPの変動率などによる調整を加えて測定しているそうだ。当然この指数が高いほど国民の生活は苦しく、「悲惨だ」ということになる。
「悲惨指数」が世界でもっとも高かったのは573.4でベネズエラだ。原油価格の暴落や政治的腐敗によって経済危機に直面しており、「国民の経済的苦痛」が大きいことが示されている。2位アルゼンチン、3位はブラジルと続き、上位3カ国はいずれも南米の国、まるでサッカーの強い国の順位のようだ!
そうした中ワースト1位、「国民の経済的苦痛」が最も低い国が日本だという。国民としてはたぶん喜んでいいのだろう。しかし、これは1人当たりGDPの成長率ではなく、インフレ率が極端に低く前年比マイナス3.5%だったことによるようだ。経済成長はないが、物価が最も安定していることが結果的に指数を低く抑えたのだ。
2番目にスコアが低かったのは中国で、こちらは経済成長による1人当たりGDPの大幅な成長(6.3%の伸び)が物価上昇を物ともせず国民生活を潤し、この結果を得ているようだ。
経済は緩やかなインフレによって正常に成長するとも言われている。必ずしも人間の幸せにとって経済成長が全てではないことを、自由主義経済下にある日本はもっと自信をもって世界にアピールするといいだろう。
イギリスの経済誌『The Economist』の編集部が数年前にまとめた『The world in 2050』(2050年の世界)の中で、世界で最も悲惨な2050年を迎えるのは「超々高齢化社会」に苦しむ日本であると予測されていたが、この予想は当たらないかもしれない。
日本銀行はできもしない2%の物価上昇を目標にするなどと言わず、物価の超安定が国民生活にとって如何に有意義か、それは世界のどの国にも真似ができないと説明するべきではないか。
その上で、穏やかに円を強くして「国富」の対外的価値を上げ、経済成長なしに世界的に裕福な国を作り出すことが使命であり国策ではないだろうか?

| 18.08.03

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