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Y3K

最近、「Balenciaga」「Gucci」「Dior」「Yezzy」などハイブランドのコレクションで、宇宙やアバター、ロボットを連想させるブルー・グレー・メタリックカラー・ネオン等が使われ、SF映画に出てきそうなフューチャリスティックなアイテムが多く登場している。いわゆる「Y3K(Year 3000)」スタイルと言われるファッションだ。
Z世代を中心に日本でもユーザーが急増する中国版Instagram「小紅書(RED)」では、3000年代をイメージしたメイクやファッションが、「AIモデリングメイク」や「E-girlメイク」などの投稿で幅を利かせている。中でもサングラスは「Y3K」に欠かせないアイテムのようだ。一般的な角のあるものではなく曲線的なフォルムでレンズが吊りあがり、エイリアンやSFを連想させる大ぶりなものだ。
テクノロジーの進化と共に、日常がアバターやNFTなどバーチャルなデジタル社会へシフトしたことが背景にある。日々目の当たりにする“現実”が、ネット上で加工・編集され、洗練された“別の現実”として発信される。Z世代は「加工された“非現実”と“現実”との境目が曖昧になり区別する意味がない」、そんな社会に生きているのだ。
「Y3K」を象徴するアーティストとして挙げられるのが韓国のガールズグループ「aespa」だ。2020年に韓国の大手芸能事務所「SM ENTERTAINMENT」からデビュー、少々作られた感が強いが、“もう一つの自我であるアバターと出会い新しい世界を経験する” というコンセプトで活動している。昨年は米ニューヨークの国連本部で開催された「持続可能な開発目標に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF)」で、グローバルスピーカーとして演説を行い話題となった。
「Y3K」の裏には環境破壊問題への対策に繋げようとする商業主義も見え隠れする。しかし近年、世界的トレンドの多くが中国・韓国・タイなどアジア圏の伸びゆく国々から発信されているのは事実だ。時代の雰囲気は、戦後長らく中心だったアメリカから「Y2K」の日本へと引き継がれ、そして今「Y3K」で中国を中心とするアジア圏が確実にリーダーシップを取っている。
日本はもはや貿易立国ではない。ドル建て金融資産をベースに成熟した少子高齢化国家に舵を切る時だ。ヨーロッパの小国のように、むしろその中に活路があると理解すべきだろう。

| 23.01.27

倫理資本主義

新型コロナの感染拡大が続く2021年、『哲学界のロックスター』とも呼ばれるドイツの若き天才哲学者マルクス・ガブリエルが、壊れた世界の秩序を前に「倫理(ethics)が世界を立て直す」と「倫理資本主義」を提言して注目された。彼は環境破壊や貧困は、グローバル化する経済が利益を追求し過ぎた結果だと断じ、コロナ禍をきっかけに倫理や道徳が世界の価値観の中心に戻ってくると語った。
ガブリエルの提言とちょうど同じころ、2021年1月から3月まで、NHKのよるドラ『ここは今から倫理です』が放送された。20代を中心に異例の人気を誇る雨瀬シオリの学園コミックが実写ドラマ化されたものだ。日々価値観が揺さぶられる現代社会で、高校の倫理教師・高柳が生徒たちのさまざまな出来事に向き合う姿を描く。新時代のあるべき「倫理」を問うもので、ガブリエルの提言と呼応するように本気の学園ドラマとして注目を集めた。
ガブリエルはさらに「私たちの文明は開発速度があまりに早すぎた結果、人間同士の競争で地球を破壊した。2020年に起きたことは地球の最後の呼びかけだったのだ」と警鐘を発している。しかしグローバル化に成功した多国籍資本はコロナ禍でさらなる富裕層を産み出し、そこで得た利益をパンデミックで苦しむ人や国に分け与える気配はない。ガブリエルの警鐘は姿を見せない武器商人達に届いているのだろうか?
「倫理」という漢語は中国で生まれ、その思想とあわせて日本にも伝わった。「ethics」は古代ギリシャで生まれた、より個人主義的概念だ。私たちはいつのまにか英語の「ethics」を「倫理」と訳すことに慣れてしまったけれどニュアンスは少し違う。
今年実施された大学入学共通テストの「倫理」で、新語・流行語大賞トップ10に選ばれたこともある「親ガチャ」を連想させる出題があり話題となった。豪邸を目にした2人の高校生が、社会的成功を生むのは本人の「努力」なのか境遇の「運」なのかを議論する会話文が使われたのだ。現代が抱える社会問題を考える出題として興味深い。
日本人はその精神の根底において、法や制度が技術革新や社会の進展に追いつかない領域が生まれた時、より良い選択・判断をして行動していくための最終規範は「倫理」であると感じている。
日本の大学入学共通テストにおいて「倫理」が存在し続けることは、フランスのバカロレアにおいて「哲学」が最重要科目である点に通じ合うようで面白い。

| 23.01.20

SNS万葉集

昨年10月に発売された佐々木良著「愛するよりも愛されたい 令和言葉・奈良弁で訳した万葉集 1」 だが、注文が殺到、在庫切れで現在第3刷の入荷待ちとなっている。万葉集20巻約4500首のうち約半数が恋歌だ。その中から若者の恋歌400首を“令和の若者言葉”や “奈良の言葉”に訳し、更に90首を選んでSNS感覚で一冊にまとめている。
万葉集は最も新しい歌が759年(天平宝字3年)の大伴家持の歌とされ、約1300年前の編纂だ。元々世代や身分を超えた様々な階層の多様な歌を集めているので、今も昔も恋する心は変わらないと現代の読者に感じさせるのだろう。予想外の売れ行きに著者も驚いているようだ。
表紙は万葉集を編纂した歌人・大伴家持が顔を赤らめスマホ片手に登場。「愛するよりも愛されたい」と思いを寄せる人にメッセージを送ったが、既読スルーされて3日が経過した場面だ。1300年前のいにしえの人々と感情の共有を楽しめるところが、この本の人気の要因なのか。
ヨーロッパでも晩年のベートーヴェンが約9年にわたって使用した筆談用の会話ノート「Konversationshefte」が出版されている。残存している139冊のうちの137冊がベルリン国立図書館の所蔵資料となっているが、彼が難聴になったことで後世の人々に筆談帳が残されたのだった。
ベートーヴェンの返答はほぼ口頭だったため部分的にだが、ベートーヴェンの気持ちを辿りその生涯に触れることができるのは興味深い。しかも生々しい日常のやり取りで、正に200年前のSNSを読むようだ。
万葉集は当時の教養人が日々の恋心を歌で伝えていたことから、細かい感情の起伏が歌われている。歌はコミュニケーションツールとして広く定着していたのだろう、短いながらも選ぶ言葉によって描かれる情景が異なり、ある種スリリングなやり取りだ。お互いに教養と高度な読解能力が必須な情報伝達手段なので、言葉の裏に隠された意味を推測できる者同士でないとコミュニケーションは成立しない。いわば暗号化された情報交換手段でもあったところが面白い。お互いの関係性を特別なものへと高める効果もあったと思われ、現代のSNSに通じるものがある。
それにしても1300年前と現代では人口も天文学的違いだが、人間の感情や教養はそんなに大きく変わってはいない。人類は常に“共感”を求めている。
ビッグデーター化される現代のSNSの膨大な情報は、未来にどんな共感と感動をもたらすのか。イーロン・マスクは大伴家持になれるだろうか。

| 23.01.13

ムーンショット計画

新年2023年は、戦争と感染症、そしてインフレを恐れる不安定な世界経済のもとで迎えた。そのような中では、総務省が停滞する日本経済に喝を入れる策として2018年に発表した「ムーンショット計画」なるものを覚えている人は少ないだろう。しかしその内容は意外とアグレッシブで新時代を切り開くヒントになりそうだ。
まず2030年までに「急進的イノベーションで少子高齢化時代を切り拓き、100歳まで健康不安なく人生を楽しめる社会を実現する」ことを目標に、「1つのタスクに対して1人で10体以上のアバターを超高速・高精度で操作できる技術を開発し、その運用に必要な基盤を構築する」としている。更には2050年までに「望む人の身体的能力、認知能力及び知覚能力をトップレベルまで拡張させ、新しい生活様式を普及させる」と謳っている。
政府の施策で国民が実生活でアバター(身代わり)を使うことを想定し、しかもそれらをコントロールする超高速ネットワークの構築を目指すと言うのは画期的かつ具体的な目標設定だ。その先の未来には、先月公開されたジェームズ・キャメロンの「アバター2」のような世界が待っていると言わんばかりだ。
「ムーンショット計画」の名は、Appleの元CEOであるジョン・スカリーの2016年の著書「ムーンショット」から来ている。ケネディ大統領が1961年に提唱した月面着陸プロジェクト(アポロ計画)のように、スカリー氏が言うところの「将来を描く、斬新で困難だが実現によって大きなインパクトがもたらされる壮大な目標と挑戦」に倣っている。
ところで近年米軍のUFOに関する機密資料が相次いで開示され、“宇宙人探し” が活況を挺している。兵庫県立大学 西はりま天文台の天文学者鳴沢真也研究員を中心とした「地球外知的生命体探査(SETI)」もその一つだ。
膨大な数の星が存在するこの広大な宇宙の中に、高度文明を持つ生命体は「いて当然」と彼は語る。ただし「高度文明を持つ異星人がこの広い宇宙を乗り物に乗って地球へ飛来することはない」、知性をデータ化して転送してくるのではないかと。まずは「UFO=宇宙(異星)人の乗り物」という考えはやめるべきだと提言している。英国ノッティンガム大学の研究チームも「超高速通信技術を獲得した知的生命体による文明は、天の川銀河だけでも36以上はある」と言う。
宇宙の知的生命は肉体から解放され、知的データとして送り込まれ、寄生先のアバターの中で生き続けるのだろうか。
まるでサントリーの缶コーヒーのCMのようだ。

| 23.01.06

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