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道楽道

国際宇宙ステーション(ISS)に12日間滞在したZOZO創業者前澤友作氏が、20日ソユーズ宇宙船で地球に帰還した。ヴァージンのリチャード・ブランソンやアマゾンのジェフ・ベゾスの宇宙体験と違って、本格的宇宙滞在だった点は評価されていいだろう。
彼のTwitterではすでに登録者数が1000万人を超え、ISS滞在中の「宇宙トイレ事情」や「地球を眺めながらティータイム」などでYouTubeでもフォロワー数100万人を突破した。「宇宙から全員お金贈り!」ではサーバーがパンクするほどだったそうだ。
今回の「宇宙旅行」には100億円を超える金銭をかけ、「道楽にそこまで金をかけて」と批判的な意見も多かったと聞くが、SNSのフォロワー数拡大から来る収益増ですでに投資回収したと見られている。そして「金持ちの道楽」というキーワードを、SNSで一時トレンド入りもさせている。
「食道楽」「着道楽」など、マニアの類いには「役に立たない浪費癖」という意味で「道楽」という表現がついて回ることが多い。しかし仏教では「道を以て楽を受く」、と「道楽道」を修めて得られる「楽しみ」「悦び」を良しとしている。
夏目漱石の講演に『道楽と職業』というのがある。この中で漱石は、「“職業”とは他人の欲望を満たしたり、他人のための手足になったりすること。“道楽”とは自分の欲望を満たすものである」と言っている。人は職業を通じて得た対価を基に自分の欲望を満たす。自分が生きていくためには他人のために何かをする必要があるわけだが、その上で「好きなこと」をする難しさと大切さを説いている。
人類はIT技術の進歩で、SNSで気楽に時空間の制約を乗り越える力を得た。SNSの画面の向こう側には世界中に何十億もの人が存在するのだ。
こうしたイノベーションを牽引するのは経営者の役目である。イノベーションの多くは企業の研究開発から生まれる。どれだけ研究に投資をするか?研究者がどれだけ伸び伸び金を使えるか?が結果を左右する。経営者の信念に基づく「道楽道」が企業価値を創る時代がきたのだ。リスクを恐れるサラリーマンにはついていけない世界だ。
日本ではバブル崩壊後の30年間、サラリーマン経営者がリストラと称して研究開発費を削減し続け、短期的利益を確保してきた。その結果が現在の日本の姿だ。
平均値発想もいいが、日本が再び世界をリードするためには、突出した個人資産を持ってリスクを冒す経営者を歓迎する価値観、「道楽道」も必要だろう。

| 21.12.24

ファーフリー

全世界45ヶ国語で出版されるフランスのファッション誌「エル」は12月2日、プリント、デジタル、SNSを含む全コンテンツで、動物の毛皮を使った商品を誌面や広告で取り扱うことをやめると発表した。
エル・ジャポン編集部でも、40カ国以上における動物保護団体の連合「FFA(毛皮に反対する国際連盟)」のガイドラインに沿って明確に定義された「ファーフリー」ポリシーの採用を決定している。
「ファーフリー」ポリシーは、動物の毛・毛皮のファイバーがついたアニマルスキンや、毛皮のためだけに殺された動物の毛皮の商品の扱いを禁止している。今のところ“動物”には、ミンク、キツネ、ウサギ、コヨーテ、ビーバー、カラクール、チンチラ、セーブル、アライグマ、タヌキなどが該当する。食肉流通の副産物などと考えられる羊の毛皮(シャーリング、シープスキン、ラムスキン)やヤギや牛の毛皮、レザー、ダウンは引き続き許可されるようだ。
近年、毛皮をめぐってグッチなど有名ブランドが相次いで廃止を宣言したことから、「ファーフリー」の動きは急速に広がりを見せている。アルマーニもアンゴラウサギから採取した毛で作られるアンゴラ毛糸の使用をやめた。
こうした運動はレザーにも広がり、エコレザーやフェイクレザーはお手頃価格でカラフルな色を楽しめることもあり、ファッションアイテムとしての面白みが広がっている。
しかしポリウレタン樹脂を使用したPUレザーや、塩化ビニル樹脂を使用したPVCレザーなどで安易に代替するのは、環境保護の観点からはNGだ。
そこに登場したのがキノコを原料としたマッシュルームレザー。シートに胞子を植え付けおがくずや有機物を与えて温度や湿度を管理することで、革のような素材ができるというからユニークだ。
またCHANELは大量に廃棄されるパイナップルの葉を使用した天然素材「ピニャテックス」製の帽子を発売。さまざまなレザー風アイテムが登場しているのは注目に値する。
かつて“フェイク”は偽物と見下されていたが、今はむしろ動物由来という“リアル”から解放され、自由な発想で創造性溢れる素材や食材が次々と生み出されているから面白い。
“リアル”と“フェイク”が交錯する現代社会だが、結局“フェイク”な世界の方が人間は自由になれるということなのか?「メタバース」でフェイクな人生を楽しむ時代がすぐそこまで来ている!?

| 21.12.17

オミクロン

最近よく聞く「Oo(オミクロン)」 とは、「Aα(アルファ)」に始まり「Ωω(オメガ)」に終わる全24文字あるギリシャ文字の15番目の表音文字である。
ギリシャ文字は、セム系の文字であるフェニキア文字から古代ギリシャ人が紀元前10世紀から前9世紀頃に作りあげた文字で、ローマ字やロシア文字の基となった。「オ・ミクロン」とは「小さいO」という意味で、「オ・メガ」(Ω)と対になる名前である。
世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルスを識別するために、ギリシャ文字を使って発見された順序を示している。南アフリカで確認されたウイルスは13番目の変異株だが、何故か15番目の「オミクロン株」と名付けられた。その理由は諸説あるようだ。
日本では政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長の名前が使われていると思った人もいたようだが、そういう安易な理由ではなかった。
ギリシャ文字は円周率のパイ(π)、総和のシグマ(Σ)など、数学や物理、天文といった自然科学系の学問で記号として用いられていて日本でも馴染み深い。ちなみに車の世界でも1906年創業のランチアが車名にギリシャ文字を使っている。アルファ、ベータ、デルタ、ガンマ、カッパ、ラムダ等の名車を今でも覚えている人は多いだろう。
新型コロナウイルス変異株は当初英国株やインド株等と呼ばれ、初めて確認された国名を呼称に使っていた。ところが今年5月末に呼称となる国への差別につながる恐れがあるとして、現代の価値から切り離された中立的な記号のギリシャ文字の使用が奨励され、アルファ(α)株、デルタ(δ)株などと呼ばれることになった。
感染力が強まったり、ワクチンの効果が下がったりする性質を持つとみられる変異株は「懸念される変異株(VOC)」と分類され警戒される。今回、オミクロンがVOCに指定されたことで、世界中でこの呼称が広く認識されるようになったとも言える。
オミクロン(o)以降のギリシャ文字は、パイ(π)、ロー(ρ)、シグマ(σ)、タウ(τ)、ユプシロン(υ)、ファイ(φ)、カイ(χ)、プサイ(ψ)と最後のオメガ(ω)まで残り9文字しかない。新たな変異株の出現がオメガを超えないことを祈るばかりだ。
ちなみに映画『女王陛下の007』で登場した細菌兵器はオメガ・ウィルスだった。オメガの意味は“永遠”。コロナウイルスも「オメガ」まで行って永遠の命を手に入れることがあるのだろうか?
「小さい」ことを表す「オミクロン」には、パンデミックはここで止ってほしいというWHOの願いが込められているのかもしれない。

| 21.12.10

入斂師(にゅうれんし)

日本で2008年に制作され、モントリオール世界映画祭グランプリ、アカデミー賞外国語映画賞を受賞した滝田 洋二郎監督の『おくりびと』は、国内だけでなく海外での評価も高かった作品だ。
それから13年の月日を経て、中国で4K修復版「入斂師(Rùliàn shī)」として上映されたところ、10月29日から4週連続で興行収入ランキングトップ10入りし、日本映画としては異例のヒットを続けているという。
要因には日本を上回るスピードで進む高齢化と、年間死亡者数の凄まじい増加があるようだ。「2016年から2021年の中国葬儀サービス産業の市場運行及び発展趨勢研究報告」によると、中国の年間死亡者数は現在約1000万人と日本の約10倍。年々増加していることから、20年後には毎年2500万人に達するだろうと予測されている。
中国において「死」は歴史的に禁忌とされる。携帯電話の番号、車のナンバー、住宅の階数など、とにかく数字でも「4/四」を避ける風習がある。日本もその影響を受けているが、その度合いは圧倒的に中国の方が大きい。
現代中国において、高齢化のスピードに対応した「死」に関する文化の醸成や、教育などの社会制度の改革は待ったなしの状況にある。「尊厳のある死」、「人生の最後をどう過ごすべきか」などという社会問題への関心が、否応なしに高まってきているのだ。数年前からは、新しい時代に合う葬儀文化と礼儀は、故人の尊厳を保つだけでなく新たな価値観を見出す重要な文化活動の一環であると言われ始めている。
「死は終わりではなく新しい出発だ」。『おくりびと』が世界に発したメッセージは、中国の特に若者に伝わり、中国社会の死生観をも変えていく出発点となるかもしれない。
ところで最近メディアの訃報欄に、「葬儀は近親者だけで済ませました」「後日お別れの会を開きます」などの文言をよく見かける。親類や友人、会社の同僚、近所の人たちが式場に集まって故人を送る一般葬から、家族だけの家族葬へ、コロナ禍もあり葬儀簡素化への流れが止まらない。
背景には今一つ不明瞭な葬儀費用の問題もあるようだ。儀式やしきたりの簡素化といった考え方の変化とともに、決められた葬儀のスタイルに従うのではなく、明確なポリシーを持って葬儀に臨みたいという人が増えているのか。
白洲次郎が遺言に書いた「葬式無用、戒名不要」の世界観がここに来て新鮮な響きを持ってきた。

| 21.12.03

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