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サバイバルコミック

「科学漫画サバイバルシリーズ」(朝日新聞出版)が今売れている。800万部を突破したそうなので、小学生のいる家庭では1冊や2冊は持っていたりするのだろうか。今年3月にはアニメ化、Youtubeの東映アニメーション公式チャンネルでパイロットムービー(https://www.youtube.com/watch?v=xYUmF3CJ3q8)が公開され評判を呼んでいる。
もともとは韓国で出版されたオールカラーの学習漫画で、「生物」「人体」「技術」「宇宙」「地球」「自然」「災害」の各分野に分かれており、日本では2008年の発売から最新67巻まで刊行。中国、タイ、フランスなどさまざまな国で翻訳され、世界中で3000万部以上が読まれる大ベストセラーとなっている。もっとも日本の大人たちにはあまり知られていないようだ。
次々と襲いかかってくるピンチに生き残り(サバイバル)をかけて、子どもたちが大人に頼ることなく科学の知識を駆使し勇気と知恵を振り絞って立ち向かっていくという構成は、子どもでなくともワクワクする。
ちなみに昨年発売になった62・63巻「AIのサバイバル」は、子どもたちが人間を支配しようとするAIから世界を開放するという冒険だ。AIとは何か?仕事を奪われると否定的な大人に対し、子どもたちは最後にはAIを味方につけようと動く。
何かアクシデントがあってもこの本さえあれば大丈夫と、出かける際に『サバイバルシリーズ』を大事そうにリュックに入れる子どももいるようだ。襲ってくる自然災害への危機感を持ち、正しい知識や対応力を身につけ、大人に任せず「自分の身は自分で守る」という意識が見えるのは頼もしい。
また韓国が発信元だからなのか、日本社会にはない切れ味がある。『原子力のサバイバル』では、ラジウムの研究のためにキュリー一家が早死にしていることが描かれる。片や日本ではこれまでキュリー夫人の功績だけを取り上げ、放射能の恐ろしさをストレートに教えてこなかった。
『新型ウイルスのサバイバル』では、EMと呼ばれる有用微生物群にウイルスの働きを抑える効果があると紹介しているが、日本ではその万能性は科学的に検証されていないと否定されている。
子どもたちは変に隠し立てする大人に頼ることをやめようとし始めているように見える。
今世界では、5G、ブロックチェーン、AIなど技術の進歩とともに、エンターテイメントやコンテンツ界に新たな変化がおきつつある。日本の大人が苦手な規制緩和を必要とする分野だ。
積極的に時代の変化を取り入れる柔軟性を持ち合わせている子どもたちは、規制緩和の進まない現代日本社会をサバイバルの対象と捉えているようだ。

| 19.06.28

ライフ・イズ・ビジネス

今年の1月、Amazon.comの創業者ジェフ・ベゾスは、25年間連れ添ってきた妻マッケンジーとの離婚をTwitterで発表した。
ジェフ・ベゾスは、自らの保有するAmazon.com株(約16%)の4分の1を彼女に分与する離婚調停に合意し、その結果、彼女は約360億ドル(約4兆円)の財産を贈与税無しに手にすることになった。これは離婚に伴う財産分与としては、米国史上最高額になるようだ。
なぜ今このタイミングで離婚なのか?
GAFAの株価は、事業がグローバル化し過ぎたことへの反動で、各国でバッシングを受けて最近不安定になっていた。先行きは極めて不透明だ。そのような環境下では引退でもしない限り、創業者は自社株式を売却し財産を保全することはできない。
ジェフ・ベゾスにとってマッケンジーは妻でもあるが、Amazon.com成功の影の功労者だった。2人で築いた財産の最善の保全策は、皮肉にも「離婚による財産分与」という結論に至ったのだろう。自社株をピーク価格で処分するのに、これ以上の大義名分はない。その意味で、今回の離婚は正確に計算されて行われた?と言えそうだ。
2人は93年に結婚し、将来を嘱望された銀行家としてのマンハッタンでの裕福な生活を捨て、起業のためにワシントン州へ引っ越している。その時、車のハンドルを握っていたのがマッケンジーであり、ジェフ・ベゾスはAmazon.comの事業計画をこの車中で書いたと伝えられている。
「離婚でいくら得られるか?」といったメディアの興味本位の見出しを撥ね除け、マッケンジーは正当に自らを評価させ莫大な財産を手にした。ジェフ・ベゾスも彼女との信頼関係を保つ限り、彼女の財団を通じて永遠の名声を手に入れたと言える。
マッケンジーは、「The Giving Pledge」(https://givingpledge.org/)という、資産の半分以上を寄付するという富裕層の「寄付誓約宣言」に署名し、財産分与を受けた4兆円の半分を寄付するオブリゲーションを自らに課した。
しかし、財団基礎財産(2兆円)の2%(約400億円)は、理事長報酬を含む財団管理予算として、彼女が毎年その使途を采配するのだ。
残りの約2兆円は、プライベートエクイティとして再投資に回されるのだろうから、さらなる財産を築くことも可能だ。どこかの国の芸人とは考えているレベルが違う。
『星の王子さま』の著者サン・テグジュペリの名言曰く「愛とは、お互いを見つめ合うことではなく、共に同じ未来を見つめること」、を地で行く2人だ。
成功する起業家にとって、離婚もまた「ライフ・イズ・ビジネス」ということなのだろう。

| 19.06.21

サステイナブルファッション

今、ファッション業界を支配しているのは「ファストファッション」だ。低価格で品揃えを目まぐるしく変えることで、消費者に衣服の頻繁な買い替えと廃棄を促している。
事実、衣料品の生産量は2000年から5年間で2倍に増えており、マッキンゼー・アンド・カンパニーの2019年「The State of Fashion Report」によると、平均的な人が買う衣料品の点数が15年前よりも60%増える一方で使用期間は半減したそうだ。
プラスティック廃棄物の海洋汚染が問題となる今、ファッション業界が第2位の汚染源となっていることは意外に知られていない。
ファッション業界は毎年約930億立方メートル、500万人分の需要に匹敵する水を使用し、年間12億トンの温室効果ガスを排出。国際自然保護連合(ICUN)によると、海洋投棄されるマイクロプラスチックの35%は合成繊維製造過程での洗浄によるものだという。結果、30年後には地球上の二酸化炭素累積排出量の4分の1以上をファッション業界を含む繊維産業が占めると予測されている。
ステラ・マッカートニーは、環境汚染問題に鈍感なファッション業界に一石を投じるデザイナーだ。今年5月に開催された「コペンハーゲン・ファッション・サミット」で、グーグルと組んで“素材のサステイナビリティを「見える化」する”と発表した。
(https://www.standard.co.uk/tech/stella-mccartney-sustainability-fashion-google-cloud-a4143006.html)
もともと彼女は動物由来の素材やPVC(ポリ塩化ビニル)は一切使わず、代わりに再生カシミヤや再生ナイロン、人工スパイダーシルクといった環境にやさしい新素材を使ってきた。
今回のプロジェクトは、デザインや素材調達のときの判断材料として、温室効果ガスや汚染物質の排出量、水の使用量、土壌への影響といった指標を立て、どの素材を使うとどれくらいの環境負荷があるのかを分かり易く示し、それをファッション業界全体で利用できるようにするというものだ。
まずは大量に使われているコットンとヴィスコースを対象に、商品が消費者の手に渡るまでの過程について、ステラ・マッカートニーが独自のサプライチェーンから集めた数年分のデータをグーグルのアルゴリズムを使って集約し、公開するという。
アディダスも今季、完全にリサイクルが可能なランニングシューズ「FUTURECRAFT.LOOP」を開発して話題になっている。今後、リサイクルやシェア可能なアイテムの開発など、何かしらの策を打とうとするブランドは増えてくることだろう。
米中貿易戦争もただ制裁関税を掛けあうだけでなく、「どうやってその製品を作ったか?」と環境負荷を算出して関税を決めるぐらいのインテリジェンスがほしいものだ。

| 19.06.14

座り方改革

シドニー大学の研究者たちが、世界20の国や地域の成人を対象に平日の座位時間について調査した結果、日本が1日420分(7時間)で最も長かったとレポートされている。
じっと座っていると心臓血管系疾患になりやすく、しかも姿勢が悪いと腰をはじめ体にさまざまな不調を招く。そうした姿勢での座位時間が長いということは、日本の場合は就労時間が長いともいえるのかもしれない。
早稲田大学スポーツ科学学術院 岡浩一朗教授によるレポートも、「40~64歳の日本人対象の調査で、1日の平均的な総座位時間は8~9時間」とシドニー大学のレポートを裏付けている。
欧米諸国では健康維持のために2000年頃から「座り過ぎ」が問題視されるようになった。オーストラリアは既に官民一体となりテレビCMで、「Catalyst-Sitting Is Deadly」と警鐘を鳴らしている。
( https://www.youtube.com/watch?v=NVNCm_Bqlfs )
イギリス政府も2011年に「座り過ぎのガイドライン(英国身体活動指針)」を作成。「就業時間中に少なくとも2時間、理想は4時間座っている時間を減らし、立ったり歩いたりする低強度の活動にあてるべき」と勧告している。
アメリカでは、シリコンバレーのIT企業を中心に、立ってデスクワークができるスタンディングデスクが浸透し始めている。
世界は「仕事はより短く、そしてデスクワークの時もなるべく座らないようにしよう!」と訴えている。
翻って日本ではどうだろう。現内閣は「1億総活躍」や「人生100年時代」を政策キャッチフレーズに、「女性も男性も、お年寄りも若者も、障害や難病のある人も、家庭で、職場で、地域のあらゆる場で、だれもが活躍できる社会を実現しよう」と訴えているが、中身がない。
社会保障の原資獲得のために、国民に少しでも長く働いてもらい定年を伸ばし、年金支給年齢を引き上げようということらしい。「座り方改革」など到底考えていない。
大半の日本人は「働かずに暮らす」ことに罪悪感を持っている。これがうまく政治利用され、長期にわたり長時間働くことを強いられているように見える。座位時間を巡る問題意識には、日本と欧米の間にまだまだ大きな認識の差がありそうだ。
欧米ではAIロボットの開発は、「人間の労働を置換し、人間が働かなくていい社会を作る」ことを明確に目標化している。
日本ではAIロボットの開発は、「人間の職を奪う」と考えられている。「AIロボットに奴隷的仕事を任せ、場合によってはGDPも支えてもらい、人間は少しでも座位時間を短くしよう!」と促すべきではないだろうか?
「座り方改革」的発想のない「働き方改革」を、単に社会保障の原資確保のためだけに肯定するのは間違いだろう。

| 19.06.07

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