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不眠大国

日本は「不眠大国」といわれて久しい。大手寝具メーカーの東京西川が今年8月に実施したインターネットによる全国1万人調査で、49.3%の人に不眠症の疑いがあったそうだ。特に「働き盛りの日本人の約半数に睡眠不足の疑いあり!」との結果が改めて確認された。
2017年には、ユーキャン新語・流行語大賞トップ10に「睡眠負債」が選ばれて話題になった。英語の「sleep debt」は、“返済すべき睡眠不足の累積”というニュアンスを含んでいる。睡眠不足はその日だけの問題ではなく、1日1時間程度の睡眠不足でも30日間続けば一睡もせずに30時間起き続けているのと同じ状態になるという。休日の寝だめでは睡眠負債を解消できず、かえって寝つけなくなる悪循環が生みだされるという。
米国のシンクタンクRAND Europeの2016年レポート( https://www.rand.org/randeurope/research/projects/the-value-of-the-sleep-economy.html )では、睡眠時間が6時間未満の人が7時間の睡眠をとった場合、年間でどの程度の経済的な社会損失が改善されるかを推計している。先進5カ国を比較した場合、日本はGDP比で2.92%(1380億ドル)が改善されるという数字が出た。つまり日本は、国民の睡眠負債によって年間約15兆円の経済損失を生んでいることになる。
また、睡眠の伝道師ともいえる活動に取り組む、「ハフィントンポスト」創設者のアリアナ・ハフィントンの「短時間睡眠は時代遅れ、名だたるCEOが睡眠8時間宣言!」という記事も注目を集めた。
それによると、多くのビジネスリーダーたちが、適切な判断を下すうえで睡眠が果たす役割を認め、睡眠を優先していることを公の場でカミングアウトし始めたというのだ。
マイクロソフトの最高経営責任者(CEO)サティア・ナデラ、アマゾンのCEOジェフ・ベゾスやGoogle会長エリック・シュミットが8時間眠ったときが最も調子がいいと言明。ベンチャー投資家のマーク・アンドリーセンも、かつてのネットスケープ立ち上げ時の睡眠不足の日々を振り返りながら、ベストの自分を出すために「7時間半ならそう問題なくやれる。7時間だと落ち始める。6時間は最適以下。5時間は大問題。4時間ならゾンビだ」と発言している。
ところで、瀕死状態の日産自動車をV字回復させたカルロス・ゴーン容疑者は、世界有数の自動車メーカー2社を経営するために週65時間以上働き、ビジネスジェットに月48時間乗り、年間24万1401キロメートル(15万マイル)も移動していた。そんな彼でもワークバランスを重視し、充分な睡眠をとった上で朝6時前には出社していたそうだ。
日本の経営者も、よく眠ることでGDP15兆円の損失を取り戻し、先ずは自らの報酬増を目指してはどうだろう?

| 18.11.30

マンガ翻訳

日本の「MANGA」は、いまや世界中で親しまれるようになったが、その立役者はマンガ翻訳者だとつくづく思わされる。
手塚治虫はかつて、「僕にとっての漫画というのは表現手段の符牒にしかすぎなくて、実際には僕は画を描いているんじゃなくて、ある特殊な文字で話を書いているんじゃないかという気がする」と語っていた。
マンガ翻訳者の存在感が以前より高まってきている背景には、日本のマンガ出版社が主催する翻訳コンテストの影響もあるという。「講談社」「小学館」「集英社」「双葉社」「KADOKAWA」など30社以上のマンガ出版社が参加して、マンガ翻訳家を志望する人々にデビューのきっかけを与える翻訳コンテスト『Manga Translation Battle』( https://mtb7.myanimelist.net/ )は、2012年から始まり現在7回目の募集が終わったところだ(9月7日~11月5日)。プロの翻訳家を始めとするオフィシャル審査員による最終審査で、来年1月に今年のマンガ翻訳優秀者が決定する。
今回は、通常のマンガ翻訳コンテストに加え、既にプロとして活躍している翻訳者 8 名が、トーナメント形式でマンガ翻訳の腕を競う「Manga Translation Battle of Professionals」も同時開催している。
いかに翻訳が大切かは、例えば尾田栄一郎著『ONE PIECE』の30カ国語の翻訳版が42以上の国と地域で販売されているのを見てもわかる。2018年7月の時点で、全世界累計発行部数は4億4000万部を突破。英語版のセリフを実際に読んでみると、擬音語や擬態語など日本語特有のダジャレと会話の流れが自然で音も繋がっていて、その見事な翻訳ぶりに驚かされる。
しかも新刊が出る度に翻訳解説をツイートしたり、時に作者の日本語ツイートを翻訳したり、ネット上で作品の背景や作品中の日本文化について解説し、作品そのものの素晴らしさを定期的に語る翻訳者もいるのだとか。愛情たっぷりに自分の言葉で作品を語る翻訳者は、日本と海外の読者を繋ぐ“文化大使”といえるかもしれない。
今年7月にロサンゼルスで開催されたANIMEとMANGAのイベント「Anime Expo 2018」では、マンガ翻訳にコンピュータソフトを導入する可能性に言及した出版社が会場のファンから大きなブーイングを受けたそうだ。しかし現実にはAIの進化で自動翻訳技術も飛躍的に向上し、過去の優れたマンガ固有の表現を全て学習させることで、マンガ文字のフォントも多様化、変形文字などの文字認識にも応用可能だ。
MANGAとマンガ翻訳は、手塚治虫が言うように単なる翻訳を超えて、「特殊な文字」による「新しい言語」としてエスペラント化する可能性を秘めているのではないだろうか?日本の財産だ。

| 18.11.16

海亀(ハイグイ)

中国では、「海亀(ハイグイ)」と呼ばれる海外を一度経験した高学歴のUターン組が増殖している。( http://j.people.com.cn/n3/2017/0412/c94475-9201957.html )
海亀(ハイグイ)」は深センだけでも約8万人以上いるそうだ。またアリババが本社を構える杭州では、2018年1月の時点で「海亀(ハイグイ)」族が創業した企業の数は4500社以上にのぼるといわれている。彼らは共通して、オフィスの外はすぐに世界(GAFAなどの海外有力企業)とつながっているという意識が強く、容易に世界のトップ企業とコンタクト可能なことを強みにしている。
中国では、「より良い教育」「大学入試のストレスからの解放」「海外での就職」「留学先の居住権/永住権取得」といった観点から海外留学が人気だ。2016年には留学者数54万5,000人と、過去最多を記録した。
しかし新しい傾向として、留学時には現地での就職や永住を希望していながらも、大学卒業後は中国に帰国する人が増加している。これがいわゆる「海亀(ハイグイ)」と呼ばれる人達だ。
中国のシンクタンク、センター・フォー・チャイナ・アンド・グローバリゼーション(CCG)によると、2016年に海外の大学を卒業した中国人留学生の80%までが中国に戻ってきているという。特に1980年から2000年の間に生まれた世代、2015年10月末に中国政府が一人っ子政策を廃止する前に生まれた子たちが、親のことを考え戻ってきている。
中国政府は、海外で学んだ才能ある自国民「海亀(ハイグイ)」を呼び戻すことでIT産業を中心に国をさらに盛り立てようという考えだ。日本政府は、必ずしも中国や韓国の留学生の数を追う必要はないのでは?
日本の海外留学者数は、経済協力開発機構(OECD)の統計によると、ピークであった2004年(8万2945人)から11年(5万7501人)までの7年間で3割減少している。しかし面白いのは、日本の留学生はほぼ全員が「海亀(ハイグイ)」だという点である。
日本は一般的に閉鎖的で、移民もほとんど受け入れず、独自マーケットを重視した企業を多く有する国と見られているが、和製「海亀(ハイグイ)」がそれを変えつつある。
アメリカが世界の舞台から撤退して自国の政治的分断に集中し、ヨーロッパでは右派ポピュリズムが台頭するなか、日本は独自の世界観に基づいた、高度に文明化された“エキゾチックな国”を作りつつある。
移民に頼らず、「海亀(ハイグイ)」によって国を良識ある世界のリーダーにして行く道も日本の選択肢なのだろう。

| 18.11.09

紅の豚

先日横浜港で「東京湾大感謝祭2018」のサプライズ企画として、横浜港開港以来初めて港内にシープレーンが着水した。横浜赤レンガ倉庫や大桟橋で見守っていた市民や観光客には大好評だったようだ。
フロートを付けた米国クエスト社製のコディアック・シープレーンが、ベイブリッジの上空から飛来し、水しぶきを上げてゆったりと着水する姿は、正にスタジオジブリ制作の長編アニメ『紅の豚』そのものだ。
『紅の豚』に登場する17歳の少女フィオピッコロのセリフに、「飛行艇乗りの連中ほど気持ちのいい男達はいないって、おじいちゃんはいつも言っていたわ。それは海と空の両方が奴らの心を洗うからだって。だから飛行艇乗りは船乗りよりも勇敢で陸の飛行機乗りより誇り高いんだって」・・・水陸両用のシープレーンには、飛行機や船以上にロマンを感じさせるものがあるのだろうか。今回のシープレーン飛来の実現には何と30年以上の関係者の努力があったと聞く。
横浜港がインテグレーティッドリゾート(IR)の最有力候補地と言われて久しいが、なかなかスッキリとは進まない。IRで大成功したシンガポールも、10年前にIRを誘致する時はカジノ賛否両論、議論百出だったようだが、その時の選考プレゼンテーションVTRを見ると、あることに気がつく。それはプレゼンテーションが「Singapore Government has a dream....」で始まる!ということだ。
シンガポール政府は自ら将来への夢とロマンを持ってIRを誘致しようとした。それに対して横浜市長のIRへの夢とロマンは聞いたことがない。カジノ批判を恐れるあまり、市長は未だに賛成すらしていないのだ。
横浜市と国交省航空局はいつからロマンを捨てたのだろう?明治の開港時にはあったように感じるが・・・。片やドバイは世界の先陣を切って、ドローン・タクシーを飛ばそうとしている。ドバイの道路交通局(RTA)は、ドイツの新興企業ボロコプター
( https://www.volocopter.com/en/ )とパイロットのいないエアタクシーの試験を年末に向けて実施するそうだ。さらに、中国のドローン・メーカー「億航」とも手を組み、1人乗り「自動運転航空機」イーハン184の試験も行っている。皆世界一になるために必死なのだ。
今回のシープレーンの着水は、ボトムアップの努力で規制を突破してやっと実現したものだ。
世界の都市は、熾烈な都市間アイデンティティ競争の時代に入っている。横浜市が『紅の豚』をトップダウンでコマーシャル運行させても、市民は理解するだろう。

| 18.11.02

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