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生成AI論議

今年の「ソニー・ワールド・フォトグラフィー・アワード」で、クリエイティブ部門の最優秀作品にドイツの写真家ボリス・エルダグセンの「偽の記憶、電気技師」が選ばれたが、同氏は受賞を辞退したという。
作品はAIの生成による画像で、同じように見えても写真と同じカテゴリーに入れるべきではないと主張したそうだ。しかし誰がその違いを見分けられるというのだろうか?最近の対話型人工知能「ChatGPT (Chat Generative Pre-trained Transformer)」でも同様の論議が広がっている。
米新興企業OpenAI が2022年11月に発表した「ChatGPT」は、その脅威的な普及の速さで話題になっている。2015年にイーロン・マスク等によって設立された会社なのだが、その彼をして「ChatGPTは恐ろしいほど良い。危険なAIだ」と言わしめたそうだ。マスクはOpenAIを非営利団体として設立し、ChatGPTはその危険性からオープンソースにすべきだと考えていたようだが、2018年のCEO辞任後、今では全てが変わってしまったと警告。ChatGPTがTwitterのデータベースへアクセスすることを一時遮断したほどである。
マスクは汎用型人工知能による人類滅亡のリスクに対抗することを考えていたが、彼がOpenAIを去り、今年1月23日、マイクロソフト(MS)が100億米ドルの出資で49%の株式を取得するに至って、その理念は崩れたようだ。当初OpenAI社内には社会的および倫理的側面から研究開発に関与するチームが存在したが、MSが筆頭株主になって2ヶ月も経たない今年3月6日に突然全員が解雇されている。その理由として「最新のOpenAIモデルを、非常に速いスピードで顧客の元に届けるためだ」と発表した。
このなりふり構わぬMSの動きを察知したGoogleのサンダー・ピチャイCEOは昨年12月、「コードレッド(緊急事態)」を発動し、ChatGPTの脅威に対応する、とニューヨーク・タイムズの取材に答えている。
そんな中、4月10日に話題のOpenAIのサム・アルトマンCEOが訪日、岸田首相を官邸に訪ねた。5月のG7議長国日本の生成AIへの保守的姿勢に楔を打ち込むためだろう。
ChatGPTが解くような国会質問への答えを役人に準備させて棒読みする、そんな愚行を放置する自民党の「デジタル会議推進本部」はMSより危険な存在に変貌するかもしれない。

| 23.04.28

昭和アイドル

山口百恵、松田聖子、中森明菜 ・・・日本が輝いていた1980年代の女性アイドルに、生まれた時からiPadに触れていたZ世代女子が注目し始めている。「昭和アイドル」には情感豊かな「エモさ」がある。集団化した今のアイドルにはない、這い上がってきた力強さと圧倒的な個の存在感があるからか。
Z世代女子へのインタビューでは、昭和アイドルに対し「自分のやりたいことをやりたい放題やって今を大事にしている感じがある」とか、「歌だけでなく、自分を貫く生き方に共感する」という声が聞かれる。昭和アイドルに課せられていた「リスクを取る」思想に、彼女達は大きく反応しているようだ。
世界中の全ての楽曲がいつでも手に入れられるのがZ世代だ。それなのにサブスクの配信を聞くだけでは満足できず、アナログレコードを求める20代女性が増えているという。ジャケットを眺め、歌詞を読み、置いた盤に針を落とす…。そこに広がるキラキラした世界は、筒美京平、来生たかお、呉田軽穂(松任谷由実のペンネーム)、松本隆らが手掛けた世界だ。
豪華な衣装に身を包んでひとりステージに立ち、一般社会で普通に生きていては感じることのない緊張感や不安、侮蔑といった様々なプレッシャーを背負うことから生まれるカリスマ性。今どきの、グループで歌い踊る「責任分散型アイドル」にはないものだ。
4月3日からNHK BSプレミアムで2013年の朝ドラ『あまちゃん』の再放送がスタート。連日Twitterで関連ワードがトレンド入りするなど、序盤からネットをにぎわせている。能年玲奈(のん)が主演し、岩手県の架空の田舎町・北三陸市や東京を舞台に、内気で引きこもりがちだった主人公のアキが、海女やアイドルとして活動しながら成長する姿を描いたものだ。「じぇじぇじぇ」が流行語大賞になった10年前の作品だが、今春スタートの新作『らんまん』を遥かに上回る盛り上がりを見せているから面白い。昭和アイドルをフィーチャーしていることで、Z世代女子にも注目の作品なのかもしれない。
社会がコンプライアンスに押しつぶされて責任回避型になり、活力が失われていく。首相の国会答弁も全て原稿を「丁寧に」読むだけだ。「間違えないように」「失敗しないように」といった現代社会そのものへの反発がくすぶっている。
デジタルZ世代女子たちは、現代社会にはない昭和の日本社会に満ちていた熱くエネルギッシュな復興力を、昭和アイドルに本能的に感じ取っているのだろう。

| 23.04.21

私鉄連結

3月18日、東急電鉄と相模鉄道が相互直通運転する「新横浜線」が開業した。首都圏では2010年開業の成田スカイアクセス線以来13年ぶりの大型新線の登場だ。羽沢横浜国大駅から新横浜駅で新幹線に接続し、新綱島駅を経て日吉駅で東急東横線に接続する。これにより神奈川・東京・埼玉3都県7社14路線の広域鉄道ネットワークとなり、相模鉄道は悲願だった東京まで延伸する。
新線の開業で乗り入れ駅は、目黒線直通列車が武蔵小杉、奥沢、目黒、赤羽岩淵、浦和美園、高島平、西高島平の7駅、東横線直通列車では渋谷、新宿三丁目、池袋、和光市、志木、川越市、森林公園、小川町の8駅が追加され、新横浜行きと合わせて行き先が16駅増加となった。
SNS上では「行き先だけではどの路線に乗り入れるのか分かりにくい」「川越行きと川越市行きがあって迷う」などの指摘が相次いでいる。
世界ではおよそ170の都市で地下鉄やそれに準ずる都市鉄道が運行されている。東京の地下鉄の総延長は営団と都営を合計して約300kmだが、「私鉄連結」ネットワークとしてみると 2314kmと巨大だ。ちなみにこの連結で東京の地下鉄の利用者数は世界一になるそうだ。
世界の大都市の地下鉄路線距離ランキングをみると、1位上海 約630㎞、2位北京 約570㎞、3位ロンドン 約400㎞、5位ニューヨーク 約390㎞、7位ソウル 約380㎞、8位が東京 約300㎞だ。東京以上の路線距離を持つ地下鉄網が少なからず存在するが、地下鉄に繋がる「私鉄連結」が2000kmを上回るのは東京圏だけ。しかもこれとは別にJRもあるのだから、東京の路線図とダイヤがクレイジーだと言われる所以だ。
路線図はお世辞にも利用者に優しいとは言えない。同じ線路に行先が全く違う列車が走るのだ。しかも自社の乗り入れ範囲のみを示した自己顕示欲の強い路線図を作成し、デザインもマチマチ。1枚のICカードで私鉄、地下鉄、JRが共通利用できるのは良いが、全線網羅の路線図はインバウンド観光客には解読不可能なカオスだろう。
グレーター東京3千万人のための「私鉄連結」網は、規模において2位上海の4倍以上の巨大さだ。これを作り上げて分刻みの時刻表で運行する奇跡はいかなる国の追随も許さない。
しかし皮肉なことに、それを初めから意図していたとは言えないところが日本の弱点だ。全てにマスタープランがない国“日本”は何処へ向かうのだろうか?

| 23.04.14

e‐fuel

再生可能エネルギーにより生成されたグリーン水素と、主に大気中から回収したCO2で人工的に作られる合成燃料「e-fuel」が今話題だ。これを使う内燃機関はカーボンフリーとされ、SDGs的にも注目の技術だが、同時に極めて政治的な産物でもある。
欧州連合(EU)議会は2月21日、2035年以降二酸化炭素を排出するエンジンを使うクルマの加盟国内での新車販売禁止を議決した。新車販売を事実上EVのみに制限する極端な法案だったが、翌3月25日にはドイツ政府の反対で「e-fuel」を使うエンジン車に限っては例外とする妥協案が追加発表された。
ドイツではフォルクスワーゲンやポルシェ、BMWなどが積極的に「e-fuel」の研究開発に投資を進める。日本でも経産省の肝煎りでトヨタやマツダが開発を進めるが、これは過去100年に亘るエンジン関連のパテントの利益を守るためだ。
内燃機関のハイブリッド化で世界をリードする日本は、EVの普及率は限定的になるという見通しを持っている。KPMGコンサルティングの試算によると、2030年の日本の自動車保有台数におけるEV比率は17.4%で、80%以上はハイブリッド車を含む内燃機関が占めるとされる。トヨタの中途半端なEV開発姿勢もそこからきているのか。
一方、昨年11月にエジプトで開催された国連のCOP27でウクライナ政府のチームが、ロシアの侵略戦争による温室効果ガスの排出量は、侵攻が始まった2月からの約7か月間で9729万トンに達しオランダ1カ国の総排出量を超えたと報告。しかも西側諸国によるロシアへの経済制裁は全く効果が出ていない。先進国によるロシア産石油天然ガスの購入が減った分を中国・インドを始めとした新興国が買いまくり、ロシア経済は全く影響を受けないどころか逆にメリットを得るという皮肉な結果となっているのだ。
ドイツ政府による「e-fuel」の提案は、そうしたEUの対ロシア包囲網の綻びを見てのものだろうが、EVへの転換も早晩電池開発競争を呼び、原料のコバルト・マンガン争奪戦が起こることは自明だ。その時は中東に代わり、今度はロシア、モンゴル、中央アジア諸国が資源大国として台頭するわけで、ロシアは困らない。
「e-fuel」は、「エネルギー保存の法則」との戦いだ。コストで勝利できるだろうか?
資源の乏しい日本にとっても「e-fuel」は切り札だが、判断を誤れば2035年には「トヨタ、テスラに買収される!」というニュースすら覚悟しなければならない。

| 23.04.07

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