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タスマニアタイガー

虎のような背中の模様からタスマニアタイガーとも呼ばれるサイラシン(フクロオオカミ)は400万年前に地球上に出現したが、最後の個体が1936年にタスマニア島のホバート動物園で死亡し、種は絶滅したと宣言された。
そこまでなら絶滅危惧種が遂に絶滅したという話なのだが、タスマニアタイガーの場合はそれで終わらなかった。オーストラリア博物館が1999年にサイラシンのクローンを作る「復活」プロジェクトを開始していた。
今回、オーストラリア・メルボルン大学と米テキサス州の企業Colossal Biosciencesの科学者たちが協力して「復活」に取り組み、その実現性が高まっている。サイラシンとDNAが似ている現存の有袋類から幹細胞を採取、遺伝子編集技術を駆使して絶滅種に極めて近い種を「復活」させることを目指すらしい。
プロジェクトに参加しているColossal社は、昨年遺伝子編集技術を使ってマンモスを生き返らせる計画で1500万ドルの投資を確保したことでも話題になった会社だ。
一方スペインでは2009年、2000年に絶滅したスペインアイベックスのクローン再生に成功している。家畜のヤギから生まれたこのクローンは絶滅種では初のクローンだったが、肺機能不全で誕生後すぐに死んでしまった。
日本の近畿大学でも、シベリア凍土から冷凍状態で発見されたマンモスの死骸から採取したDNAを用い、20年以上前からマンモスを復活させる研究が続いている。
国連の研究機関である政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)の「生物多様性及び生態系サービス」によると、現在100万種以上の動植物が絶滅の危機に瀕しているそうだ。国連の世界自然保護基金(WWF)の「生きている地球レポート2020」は、1970年から2016年にかけて両生類、鳥類、魚類、哺乳類、爬虫類の個体数が平均で68%減少したと報告している。
「脱絶滅」の研究者たちは、DNAさえ残っていればほとんどの生物が再生可能だと考えているようだ。わずか40年で人類以外の動物の70%近い個体数が消滅している中、同じ地球上に暮らす人類の個体数が倍増していることを研究者らはどう考えているのだろうか。1978年に約40億人だった世界人口は2022年に80億人にならんとしている。
絶滅種の「復活」に躍起になるより「人類の適正個体数を割り出す」方が先だろう。人類の個体数が減少すれば他の動植物が絶滅を回避できることは、現代史が示している。

| 22.08.26

ドンキテレビ

ドン・キホーテが2021年12月に発売したTVチューナー非搭載スマートテレビ、通称「ドンキテレビ」がここへ来て大きく注目されている。「ドンキがNHKを潰しにきた」と話題になった商品だ。
「ドンキテレビ」誕生のきっかけは、2021年7月発売のAndroid TVだけを搭載したソニーの業務用4K液晶ディスプレイだったそうだ。ドンキではこれに直ぐに反応して「テレビのようでテレビじゃない!!」をうたい文句に、TVチューナー非搭載の24型を税込21,780円、42型を同32,780円と破格の値段で売り出した。計6000台をわずか1カ月で完売、さらに大きなサイズを含めた新商品も本日19日発売予定、すでに予約を受け付けている。
アイリスオーヤマと同じ日用品を扱う「ドウシシャ」もTVチューナー非搭載スマートテレビORION(オリオン)を、今年設立されたばかりのベンチャー「Smart TV社」も43V型4Kスマートテレビを発売するなど、複数メーカーがドンキに追随している。
また世界のテレビ業界は、TVチューナー搭載型からネット動画対応のチューナーレステレビに急速に移行している。日本の大手家電メーカーは放送局に忖度してか、またしても乗り遅れている。
一方TVチューナーのある世帯に受信契約を義務付けているNHKだが、2020年度末時点でのテレビ普及世帯4650万件に対し支払世帯数3703万件と、支払率は80%にまで減少している。
苦境の中、移動体向けワンセグ搭載のスマートフォンやカーナビ、パソコンについても受信契約の対象だと主張するが、受信料徴収をますます複雑困難にしているようだ。また「NHKプラス」でコンテンツのネット配信サービスを拡充し社会的役割を検証するというが、一律徴収の受信料とどう整合させるのだろうか?
ドイツの公共放送(ARD・ZDF)やイギリスのBBCも、テレビだけでなくPCを含む情報家電を有する家庭を受信料徴収の対象としているが、今年設立100年となるBBCですら一律徴収型の受信料制度は難しいと見て見直しを始めているのが現実だ。
NHKは公共放送としての社会的役割があるといいながら、8月3日に開会された参院選後初の第209回臨時国会を理由もなく中継しなかった。これだけ世間を騒がせている旧統一教会問題もほとんど報道していない。
集団の受信料ボイコットを恐れていると言われるが、これでは「ドンキテレビ」が本当にNHKを駆逐してしまうだろう。

| 22.08.19

変人

朝日新聞傘下のコンテンツマーケティング事業を手掛けるサムライトは、イノベーションを起こす人材獲得をめざして「変人採用」を打ち出している。エントリー時に「変人エピソード」を提出させるそうだ。
コロナ前までの企業採用では、ある種の「変人ブーム」があった。ソニーミュージックの2017年度採用のキャッチコピーは「変人、募集中」、JTも「変人採用」の取り組みを進めて来た。これらの企業は「他の人と異なる視点で物事を捉え、地道に根気のいる仕事を成し遂げる人が必要」だと感じたのだ。当時「変人」こそが宝だと気づいていた企業はまだ少なかった。
京大では2017年に東大の権威主義に対抗して「京大変人講座」を開設、京大に連綿と受け継がれてきた「自由の学風」「変人のDNA」を世に広く知ってもらうための公開講座である。スタート時には「京大では“変人”はホメ言葉です」と言い切った。
慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)では2018年夏、価値の判断や評価の難しい新しいものごとを独特な方法で追求する奇抜で異端な研究を「エキセントリック・リサーチ」と名付け、研究を推進できる若手研究者を発掘・奨励する新しい制度を発足させている。
「変人」は自分の行動や考えを優先させるのでマイペース、周りを意識せず自分の感じたことをそのまま行動に移す傾向がある。良くも悪くも周囲と歩幅が合わないので人材としては扱いづらいがその可能性は未知数だ。
結果として京大から基礎研究分野で多くのノーベル賞受賞者が出ているのは、常識を疑う視点、豊かな発想力、現状を変革する行動力などで突出しているからなのか?
さて日本で歴史上最高の「変人」と言えば伊能忠敬だろう。全国を自分の足で歩いて測量するという途方もない方法で、江戸時代に初めての日本地図を作成した。距離を測るのに一歩ずつ数えながら日本全国を歩く…、考えただけでも頭がおかしくなる。
しかし地道にコツコツと20年かけて作り上げた日本地図の精密さは世界でも高く評価されるほどで、地球が丸いことも知らなかった彼の描いた日本地図がGoogle Mapと比較しても殆ど差異が無いことには驚く。
アベノミクスは日本経済を金融政策で回復させようとしたが、「なぜ?なぜ?」と問う変人の思考を重視しているとは言えない。
「変人」への継続的投資が真の国力を作り出すことを忘れてはいけない。

| 22.08.05

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