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カルチュラル・ジャパン

日本の陶磁器や浮世絵といった美術品や書籍、写真など約100万件を楽しめる電子博物館「カルチュラル・ジャパン」( https://cultural.jp/ ) が、8月1日から無料で公開されている。このサイトは、世界中の美術館、博物館、図書館などで公開されている日本美術に関連する情報を集約して、国立情報学研究所と東京大学などが運営するものだ。
国立国会図書館や国立歴史民俗博物館、国文学研究資料館など約40の国内施設に加え、過去に流出した日本の美術作品を大量に保管する大英博物館、メトロポリタン美術館、アムステルダム国立美術館など37ヶ国約550機関の所蔵品約100万点の高精細度画像デジタル資料が閲覧できる。これは「カルチュラル・ジャパン」プロジェクトの成果として評価できるだろう。
日本美術は過去二度大々的に海外に流出している。一度目は明治初期の日本開国直後、二度目は第二次世界大戦後1952年までの米国占領下においてだ。これらも一気に俯瞰できるのは素晴らしい。
一方8月25日には日本文化の分野別横断ポータルサイト「ジャパンサーチ」 ( https://jpsearch.go.jp/ )がスタートしている。こちらの運営は国立国会図書館で、日本が保有するアートをトータルに俯瞰できるサイトとなっている。
こうした電子博物館の取り組み「デジタルアーカイブ」は、アメリカではメトロポリタン美術館やスミソニアン博物館がそれぞれ単独でシステム構築し、メトロポリタン美術館は37万点以上、スミソニアン博物館は約280万点もの画像を無料公開しているが、サーチエンジンはグーグルの「Google Arts & Culture」などに任せている。
 かつて、1997年にビル・ゲイツが有り余る富で著作権を買い取って画像アーカイブとライセンス事業を目的に設立したCorbis Images (コービス・イメージ)社は、報道写真アーカイブなどを傘下に収めることには成功したが美術館・博物館からは門前払いをくらい、結局スタックしてしまった。
問題はその後だ。中国の「ビジュアル・チャイナ・グループ(VCG)」の関連会社「聯景国際」によって2016年1月にコービス・イメージが買収されたことで、傘下の「ベットマン」や「シグマ」が保有していた5000万点を超える報道写真オリジナルの権利が、全部中国企業へ移ってしまったのだ。
その中には1989年の天安門事件に関する写真も大量に存在しており、多くの海外メディア、特に香港メディアはビル・ゲイツを非難している。
日本のデジタルアーカイブにも三回目の日本美術の流出リスクを避ける慎重さが必要だ。日本の国立博物館が、展覧会パンフレットの写真利用料を他国の会社に支払うなどという間抜けなことになったらパロディーだ。

| 20.08.28

ライオンズゲート

マヤ暦では新年が始まる7月26日から8月12日までの18日間だけ、“獅子が守る扉-宇宙と地球をつなぐ扉”である「ライオンズゲート」が開くとされる。運命を左右することが起こるということなのだろうか? 8月8日はそのゲートが最大に開く日らしい。
「ライオンズゲート」が閉じる時、日本では先祖の霊を迎え、15日の盂蘭盆会を経て16日には送り火の儀式が行われる。マヤ暦と呼応する「気」の力の連続性を感じる人もいるだろう。
それにしても日本の8月は重苦しい。75年前の敗戦と、謎に満ちた35年前の日航機墜落事故。正に開いた「ライオンズゲート」に翻弄されたかのような、史上最大ともいえる負の出来事だ。
3月26日に始まった沖縄戦では、4月7日に沖縄海上特攻作戦に旗艦として参加した戦艦大和がアメリカ軍艦載機約300機の攻撃を受けて轟沈している。その時大和は片道の燃料しか積んでいなかったという。日本国の名を冠した戦艦の最後は、日本国民に敗戦の許しを請う軍部のメッセージだったのだろうか。戦艦大和は偶然にも1940年8月8日に進水している。
ポツダムで連合国が日本への最終的な降伏勧告を出したのは1945年7月26日。無条件でのポツダム宣言受諾は、8月6日と9日に投下された原爆が決定づけたとされてきたが、最近では8月8日のソビエト軍の参戦と北海道分断の恐怖が決断させたという見解が説得力を持つ。
明治維新後の新政府が、徳川幕府から受け取った基本領土を百年も経たずに失うことを受け入れられなかったであろうことは、容易に想像がつく。
結果、国力をはるかに超えた無謀な戦争で明治以来獲得したすべての海外領土・占領地を失ったばかりか、数百万の国民を死なせ、灰燼に帰した皇土が敵国の欲するままに支配され、自立や独立さえ失いかねない運命を招いたわけだ。
その愚かさを、実質的に満洲国を支配した満洲映画協会理事長甘粕正彦は「大ばくち 身ぐるみ脱いで すってんてん」と詠んで辞世の句とした。本音とはいえ言い過ぎだ。
貧しかった長州藩士中心に創り出された明治新政府は、列強を前に大博打を打ち、大本営発表でも国民に真の戦況を伝えず、最終的に日清、日露、第一次世界大戦の勝利に酔いしれていた国民をコントロールできなくなる。軍部に忖度する組織が良識ある意見を握りつぶし、国民をレミングの行進に導いたともいえよう。
「積極的平和主義」などというまやかしの言葉で歴史を繰り返してはならない。日本史上最大の失敗に学び、世界の新しいパラダイム構築に際しソフトパワーで寄与すべき時ではないだろうか?

| 20.08.21

勧善懲悪時代劇

7月19日に平成のTVドラマ史上最大のヒット作となった『半沢直樹』(TBS系)の続編がスタートした。8月2日第3回目までの視聴率は22~3%台(ビデオリサーチ調べ)と前作を上回る滑り出しで、どうやら柳の下にドジョウが2匹いたようだ。
原作者はビジネス小説のベストセラー作家、池井戸潤。7年前の『半沢直樹』最終回の視聴率は驚異の42.2%を記録し破られることのない平成の大記録と言われたが、今回はどうなるのだろうか?
前作は実在のメガバンクを連想させる“東京中央銀行”を舞台に、金融庁の査察をめぐり、バンカー半沢が行内の不正を明らかにしながらエリート銀行員達と戦う復讐劇だった。半沢が「倍返しだ!」と叫びながら敵対する陣営を最後には土下座させる。日本人が昔から愛する勧善懲悪時代劇の“サラリーマン版”そのものだった。組織の重圧の中で悔しい思いをして日々耐え忍んでいる日本のサラリーマンの怨念が、最終回の超高視聴率を叩き出したのだろう。
今回の続編はメガバンクから証券子会社に出向させられた半沢が、IT企業の買収をめぐる攻防、それに関連する親会社との熾烈なバトルで最後には親会社である銀行の証券部をやり込める、という前作と全く同じ設定のようだ。筋書きがここまで同じでも高視聴率が取れるからくりとはいったい何なのだろうか?
キャストは北大路欣也や香川照之らの錚々たる面々に猿之助、愛之助、松也と歌舞伎役者たちが参戦、演出も過剰演技で盛られている。桃太郎侍や大岡越前の丁髷時代劇と全く変わらない。
ただ今回はコロナ禍のど真ん中。7年前よりも更に時代は不透明で、モデルになったとも言われているみずほFGの現会長佐藤康博氏ですら、「銀行業界は根こそぎ“変わる時代”に突入した」と危機感を露わにしている。呑気に社内抗争に明け暮れるストーリー展開が気になる。
視聴者は「時代遅れだ」「こんなことあり得ない」と言いつつも、お決まりの勧善懲悪を期待する。日本はアジア諸国からもIT後進国と揶揄され、IMFの発表する経済回復率では最低評価を受けている。新型コロナウィルスへの政府の対応は混乱の極み、正に衰退途上国の様相を露呈しているというのに・・・だ。
日本が非常事態にある今、敢えて狭い企業内権力闘争をテーマにした勧善懲悪時代劇が予定調和的にヒットするという事実に、更なる危機感を感じる人もいるだろう。
『半沢直樹』をみてスカッとしたいという心情は、現実を直視しない日本社会の構造的弱点の裏返しなのだろう。

| 20.08.07

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