trendseye

危機予測力

今から3年前の2017年、「シリーズMEGA CRISIS巨大危機~脅威と闘う者たち~第3集 ウイルス“大感染時代”~忍び寄るパンデミック~」という番組がNHKで制作、放送された。
番組では、パンデミックという事態になった時にどういった対策を組むべきか?を考えられる専門家が日本には非常に少ないと指摘していた。それは微生物の脅威を知らない日本人へ向けた「地球の真の支配者は誰なのか?」という意味深なメッセージでもあった。
21世紀に入りグローバル化が進むと、人の活動領域が広がったことで以前にも増してウイルスが猛威をふるい、人類が未だ免疫を獲得していない疾患が増えてきた。
2002年に中国で猛威を振るったSARSだが、北京当局がWHOに報告したのは発症から数ヵ月後だった。 2014年に流行したエボラ出血熱は、最初の症例が発見されてからその病気が認識されるまでに2ヵ月半以上かかった。2015~16年にかけて流行したジカ熱は、周知までに37日かかったと言われている。
今回の新型コロナウイルス(Covid-19)は、昨年の12月8日に湖北省の武漢で「原因不明の肺炎」症例が初めて確認されてから1ヶ月後には報じられた。前回のSARSの失敗を踏まえて中国メディアとしては早めに報じたようだが、それでも決して早いとは言えない。
感染症の流行の初期段階では、特効薬不足だけが理由ではなく、そこには決まって社会的・政治的な現象が発生している。早急な情報開示が求められるのにもかかわらず、政府は必ず隠そうとする傾向があるのだ。
「文明は感染症の揺りかご」ということばの通り、 “進歩”や“快適さ”の追求を止められない人類の「業」は、時として地球の真の支配者の存在を忘れる。
カナダの健康モニタリングプラットフォーム「BlueDot」は、WHOの公表よりも米国の疾病管理予防センター(CDC)よりもさらに早い12月31日に、今回のアウトブレイク(集団感染)を伝えていた。
「BlueDot」は人工知能(AI)によるアルゴリズムを利用したシュミレーションシステムで、全世界の報道から動植物の病気に関してどんな小さな記事も拾い上げるネットワークだ。そして公式発表を精査した結果を基に、アウトブレイクが発生しそうな“危険地帯”を回避するようクライアントに事前に警告するサービスを行っている。
「BlueDot」の創業者兼CEOであるカムラン・カーンは、「政府はタイミングよく情報を提供しないことがある」と自分達の存在意義を語る。
地球の真の支配者が誰かを未だ理解できていない日本に、危機予測ネットワークが有効であることは永遠に認識できないかもしれない。

| 20.02.28

脱薄利多売

2018年度版ものづくり白書によると、過去1年間で日本国内に生産拠点を戻した海外進出企業は、全体の14.3%にのぼるとのことだ。プラザ合意後の円高を背景にヒステリックに進んだ海外進出にも、Uターン現象が起こってきているようだ。2年前の調査と比較すると2.5ポイントの増加だ。
進出先の国の比重は、中国・香港が62.2%で突出し、続いてタイの10.8%、ベトナムの6.3%だ。
進出先の経済発展とともに急速に人件費が上がることは折り込み済みだ。しかし、ローカル富裕層の購買力も急速に上がり、高質なMade in Japan 製品を希望するマーケットが顕在化している要素は見逃せない。現地生産では富裕層マーケットが納得する高付加価値商品を作りきれないというのだ。
アジア地域の賃金が高騰しているといっても、絶対値ではまだ日本の方が高い。しかし生産性やクォリティ、嗜好性などを考慮すると、日本国内生産の相対的競争力が増してきている。ローカルマーケット向け“薄利多売モデル”には限界が見えて来たともいえる。
一方、アジアで超高付加価値にシフトして成功しているのが、ドイツと北欧各国だ。ドイツのGDPに占める輸出の割合はいまだに高く、なんと46.1%、スウェーデンも45.7%だ。日本の18.3%は大きく見劣りする。
ドイツや北欧は高付加価値製造のために国内に高質な雇用を保ち、設備投資にも注力している。国内製造を高付加価値輸出ビジネスに特化させ、現地生産による価格競争商品とはっきり差別化している。
ところで「OECD経済審査報告書2017年度版」に掲載されている「国別の相対的貧困率」によると、日本は主要7カ国(G7)で米国に次いで貧困率が高い。これは国内産業を軽視して海外進出した結果、国民が相対的に貧乏になってきたことを示している。
「日本には貧困層はあまりいない」と思っている人が多いようだが、21世紀の日本のものづくり産業が海外進出で薄利多売を続ける限り、日本の相対的貧困率は上がり続けることを肝に命じたい。
ホンダの2020年のF1レースは、久しぶりに良い成績を期待できそうだ。しかしF1勝利が販促になる高付加価値商品を、ホンダは今どれだけ持っているのだろうか?NSXは僅かしか売らない、日本国内販売はほとんどが軽自動車だ。
トヨタは人気のアルファードを現地生産せず、アジア・中国で2000万円を超える価格で輸出車として売ることを発表した。日本での値段の4倍以上だが、いい判断だと思う。
「高いけれど日本製は素晴らしい」という脱薄利多売ビジネスモデルが、21世紀のものづくり日本を救うだろう。

| 20.02.21

スナ女

昭和生まれの日本人にとって懐かしい「スナック」だが、もはや親父のたまり場ではないそうだ。最近のスナックの常連客は主に女性、しかも20~30代とのこと。夜な夜なママと雑談しカラオケを楽しむ、新現象「スナ女」とはいったい何なのか?
「スナック」の定義は「深夜酒類提供飲食店営業届」のもと営業する業態、“対面”が原則でお客の横に座って接客することはできない。バーと同じカテゴリーでクラブとは一線を画す。
カウンターの中にいるママやマスターが客と交流しながら飲食を楽しめる環境を提供し、そこに同じモチベーションを持つお客が集まる。常連客メインの或る種閉鎖空間だ。
「スナックdeカラオケnavi」という便利なクーポン付きのサイトなどが、掲載店への初来店に限り3000円で飲み放題となる仕組みを提供、事前に店の雰囲気を伝えてスナック初心者の女性の不安を減らしてくれる。
雑誌Hanakoから生まれた、東京を生きるウェブメディア「Hanako.tokyo」でも、人生の大先輩「街場の大聖母マドンナ(スナックママ)」から金言を聞こう、というようなスナック特集が人気だそうだ。女性の都会一人暮らしの指南役がスナックのママで、そこに教えを乞いに集まるのが「スナ女」という構図だ。
「スナ女」には副業や1日ママなどで自らスナックを開業したい人も多い。SNSでのコミュニケーションに懲り、“リアルの世界で自分が好きな人だけを集めて自分の部屋みたいなお店を作りたい”という思いが根底にあるようだ。
美しい等身大の仕草ロボットの開発を進めるスピーシーズは、昨年11月に開催された「組込み総合技術展&IoT総合技術展」で、等身大アイドルロボット「高坂ここな」と人工知能(AI)を組み合わせてデモを行った。
しかしパーソナル人工知能を開発しているオルツの米倉代表によると、「スナックのママを作ってくれ」という依頼は多いが、話を聞いている人の反応や空気を読んで適切なトピックを返すという技は、未だAIには難しいそうだ。
ソフトバンクGの孫代表も、スナックのママのような「人付き合い」で顧客を作っていくことは、AIにはまだまだ難しい仕事だと指摘する。
上場企業の社長、役員がAIにとって代わられてしまうことはあっても、スナックやクラブのママ業は私たちが人間であり続ける限り、AIに置換できない仕事と言えるのかもしれない。
「スナ女」の登場は、マニュアル化され自分でものを考えなくなってきているサラリーマン社会への危機感を現す裏返し現象でもあるようだ。

| 20.02.14

プレッパー

自然災害や経済破綻、放射能汚染や核攻撃など “いつ起きるか分からない危機” に備えて、過剰で過激な対策を講じる人々を「プレッパー(Prepper)」と呼ぶそうだ。その数は全米だけでも300万人とも400万人ともいわれている。
「文明社会が崩壊しても生きていく」という強い意志の下、その準備は信じがたいほど過激だ。食料危機に備えて大量の水や食糧を貯め込む人、農園を作って自給自足を目指す人、地下に核シェルターを作り、破綻後の略奪に備え武器を蓄え射撃訓練に励み、戦闘技術を磨いて自衛を志す人までいる。
ナショナルジオグラフィックチャンネルがこうした過激な「プレッパー」を紹介する「DOOMSDAY PREPPERS」という番組を制作し放送したほどだ。
究極は富裕層「プレッパー」を対象に、アメリカ・カンザス州ウィチタ北部のトウモロコシ畑の丘の下に、豪華15階建て“地下タワーマンション”が開発されたことだ。軍用フェンスで周りを囲い、警備員はアサルトライフルを装備し迷彩服姿。まるで軍事施設のようなこの住宅は「サバイバル・コンドミニアム」と呼ばれている。
長崎に投下された原爆の100倍強力な核弾頭ミサイルに耐える、冷戦期に造られた地下ミサイル格納庫を2000万ドル以上かけて改装したそうだ。
1ユニット85㎡から170㎡、価格は150万ドルからで、既に55人以上が購入。いずれもハルマゲドンが近々来て、世界中の選ばれし1%だけが生き延びると信じている人だという。
因みにこのコンドミニアムへの入居は、ハルマゲドンが発生した時、オーナーがコンドミニアムから半径640km以内に居さえすれば、SWAT部隊がピックアップしてくれる特別なプログラム付きだそうだ。
地下シェルターの建設は日本では馴染みがないが、世界では多くの国が政府主導で作り続けている。中でもイスラエルが熱心だ。最近、首都エルサレムの地下に国家作戦本部を建設し、議会はすべてそこで開かれているそうだ。一方イギリス政府もEU離脱後の混乱に備え、2019年のはじめに国防省の地下核シェルターに防衛部隊を配置している。
北京では2015年時点で、冷戦期に造られた長大な地下トンネルや地下シェルターに100万人が暮らせると報告されている。シンガポールも、「地下都市計画」の一環として重要施設の一部を敢えて地下に埋めはじめた。
日本はどうするのか?ハルマゲドンを「諸行無常」とやり過ごすのか?未だに原発の「汚染水」すら処理できない日本に、「プレッパー」意識はいつ現れるのか?
コロナウィルスはいい試練だ。

| 20.02.07

CATEGORY

  • BOOM
  • FOOD&RESTAURANT
  • LIVING&INTERIOR
  • SCIENCE&TECH
  • TRAVEL
  • TREND SPACE

ARCHIVES


1990年9月~2006年7月までの
TRENDS EYEの閲覧をご希望の方は
こちらへお問い合わせください。
ART BOX CORP.