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アイライン

今から100年前の1922年、イギリスの冒険家ハワード・カーターがエジプト王家の谷でツタンカーメンの墳墓を発見している。古代エジプトで唯一盗掘を免れたファラオの墓で、5000点もの装飾品と合わせて黄金のマスクが完全な状態で3200年の眠りから覚めたのだ。
ツタンカーメンの黄金のマスクの目には特徴的な太いアイラインが引かれている。これは古代エジプトの化粧法で「コール」と呼ばれる。鉛化合物による黒くて太い縁取りのアイメイクは、ナイル川流域で当時流行っていた眼病を予防するためのものだったとも言われている。
方鉛鉱から精製された香料入りの黒粉を目の縁につけたのが始まりで、太陽の強い日差しから目を守るためにも黒いアイラインは有効だったようだ。当時の化粧には「魔除け」の意味もあり、悪い視線が入らないようにと赤い顔料を顔や目の周りに塗り口紅としても使っていた。
原料の方鉛鉱は鉛化合物のため、これを施すことで体細胞内の一酸化窒素濃度が通常の240%に増加していたという記録も残っている。鉛は極めて有毒な物質である一方、少量ならば薬用として効果的なことを古代エジプト人は知っていたようだ。塩化鉛が皮膚に触れると体内の一酸化窒素の生成量が増え、免疫系を刺激して病原菌の撃退に役立つことを如何にして知ったのだろう。
古代エジプト文明は5000年以上前に非常に高度な文明として前触れなしに突如現れ、ピラミッドを始めとした巨大建築物が建造されている。そして隕鉄と言われる地球外鉄成分をピラミッドのヘッドストーンや剣に利用しているのだ。そうした科学技術を古代エジプト人は突然どうやって手に入れたのだろうか?
それに止まらずナイル川の氾濫を正確に予測する天文観測が既に行われ、氾濫後の農地を元通り配分するための測量術、幾何学、天文学なども発達していたと考えられる。こうした高度な知識を持ち合わせたミステリアスな文明に、異星人の来訪を示唆する研究者も少なくない。
2021年の米国火星探査機パーシビアランスとその直後の中国の祝融号の火星での観測により、火星における水の存在はほぼ確実になり、わずか40万年前までに大規模な洪水が起こっていた痕跡すら発見されている。火星に高度な文明があったことを感じさせると同時に、冷却が進み地磁気が失われ地表の気体が蒸発したことで、知的生命体が生存に適さなくなった火星を捨てて隣の地球に移ってきたという仮説すら現実味を帯びる?
ミステリアスなエジプトのファラオのアイラインに、あらためて異星人の来訪を想像するのは不自然ではないかもしれない。

| 23.06.23

燃やすしかない

徳島市役所は家庭ごみのうち「燃やすごみ」の名称を「分別頑張ったんやけど、燃やすしかない“ごみ”」に変更すると、5月15日に発表した。ユニークな名称変更がSNSなどで大きな反響を呼んでいる。
Twitterでは4万8000の「いいね」と1万5000のリツイートを集め、「何があったの?」「エイプリルフールかと思った」と戸惑う声もあったが、「こういうの嫌いじゃない」と概ね好評だったようだ。
「分別頑張ったんやけど」は、地元の人には馴染み深い話し言葉が取り入れられている。親しみがわきつつツッコミを誘う言い方が思惑通りネットで話題になり、多くの人に届くという結果につながっている。
現代日本人にとってそもそも“ごみ”とは何なのだろう?と自問自答し、問題提起しているようにも感じられる。ごみ箱が「護美箱」である限り、周囲にある「汚いものを見えなくする箱」即ち「汚いものを隠す箱」でしかなく、それなら「燃やしてしまおう」となってしまう。しかし最近はごみを「資源」と考えはじめ、ごみ箱は資源を一時貯める宝庫であると捉えられるようになってきた。
徳島市によると、2021年度に市が扱った「燃やすごみ」のうち約37%がリサイクル可能な「雑がみ」類だったという。市当局はこの「雑がみ」を分別して資源ごみにしたいと考えている。ただし“ごみ”の分別は予算化せず、住民の努力やパワーに頼りたいという本音も見え隠れしている。
「燃えるのにわざわざ資源として分別するのは面倒くさい。ちょっとくらいなら仕方ない」というのは市民の平均的考えだ。しかし、いらなくなったものを捨てる時に「資源化するのか?」「燃やすのか?」と一人ひとり聞きまわり、「資源化意識の醸成」をするという決断が必要であると考え、「燃える」ではなく主体的な行動を表す「燃やすしかない」に変更することで、市民の意識変革を目指している。
近年の“ごみゼロ”運動は、ごみをまったく出さないということではない。“ごみ”を「不要なものだから捨てる」から、「新たな価値を生み出すものなので収集する」へと変容させる発想だ。
全国の自治体では家庭ごみの収集を有料化する動きも広がっている。有料化を実施する多くの自治体は、指定した有料ごみ袋を購入させることで有料化を行っているが、これはごみを出す量に応じて処理費用を一部負担してもらう仕組みだ。住民が負担を軽減しようとすると、結果循環型社会に貢献することになると期待しているようだ。
日本では「護美(ごみ)箱」を「資源箱」と先ず書き換えることが必要だろう。

| 23.06.16

脳外科医竹田くん

未熟な手術センスで難手術に挑み患者は高確率で死亡、あるいは後遺症に苦しむ。そんな“あり得ない医師”を扱ったWEB漫画「脳神経外科医竹田くん」が今話題だ。架空の「赤池市民病院」を舞台にホラーな医療事故ストーリーが展開される。
現場医師のSNSでは、モデルの病院や医師探しで盛り上がっているらしい。立て続けに重大医療事故を起こすフリーの医師「竹田くん」と、適切に監督指導できない上級医や医療安全部門、そして事故を公表しない病院などが風刺的に描かれる。そのためか作者は明らかにされていない。
まともな外科医なら誰でも、手術の前には相応の時間をとって予想されるリスクと他の手段について複数の医師と検討するだろう。しかし竹田くんは自分が手術をしたいがために「必ず良くなる」と安易に成功を約束し、リスクの説明をおざなりにする。
「私、失敗しないので」の決めゼリフで一躍ブレークした米倉涼子主演の大人気ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」は、今でも医療ドラマ人気ランキングの一位に君臨している。当時は旧態依然とした大学のおじさん医師達を圧倒し、突出した手術の腕前で「旧組織をぶっ壊す新しい風」を印象付けた。
一時“医療ドラマ”はワンクールに6作もあるほど高視聴率がとれるテッパンジャンルだった。だがコロナ禍で日本の医療の実態が明るみに出た途端、スーパーヒーロードクターなどは絵空事だと視聴者は悟った。
そして最近は政治の世界にも“竹田くん”がいるようだ。マイナンバーカードを巡る人為的ミスや度を越した事故が連日報道される。デジタル担当大臣は何を急いだか、各種個人情報以外に給付金振込口座まで紐づけしようとしている。しかも多発する問題を伏せたまま、2日の参議院本会議で改正法を可決・成立させてしまった。
K大臣の「デジタル化することで世の中を便利にしていく」との発言は、ここにきてリスク説明無く「手術は成功する」と説く竹田くんと完全に被っている。
背景にある日本独自の問題を解析せず「誤入力ではない」と繰り返す答弁は、「何をそんなに急いで?」と思わせる。日本は世界で唯一名前に“ふりがな”が必要な厄介な国だ。世宗大帝の時に漢字を捨てハングル化したことで、偶然にもデジタル化に大きなアドバンテージをもたらした韓国とは違う。
揺らぎ理論でAI入力に頼る前に、日本のデジタル担当大臣には日本文化と日本語の歴史への深い理解が必要だ。起こり得るリスクを事前に説明できる資質がないと務まらない。

| 23.06.09

君の椅子

北海道東川町は、地場産業の旭川家具職人が有名デザイナーによる椅子を生まれてくる赤ちゃんひとりひとりに製作してプレゼントする「君の椅子」プロジェクトで有名だ。2006年にこのプロジェクトをスタートさせた松岡市郎町長が今年引退した。
椅子は出生届が出されてから製作に取りかかり、毎年デザインが変わる。ひとつひとつに番号、名前、生年月日がシリアルナンバーとして刻印され「世界でたった一つの椅子」としてプレゼントされるのだ。「ようこそ。君の居場所はここにあるよ」というわけだ。
「君の椅子」には、赤ちゃんをひとりの人間として人格、人権を尊重したいという思いと、東川の手作りの椅子を通じて子どもの成長を温かく見守りたいという願いの両方が込められている。このプロジェクトに賛同し参加する自治体は今では11までに増えているそうだ。
椅子を贈られた子供たちがこれから生きていく年月よりもずっと長い時間をかけて成長して来た木々の生命の循環を世代を超えて引き継ぐために、植栽事業「君の椅子の森」も2012年からスタートしている。
人口減で存続が危ぶまれる集落が続出する中、小さな北海道東川町は頑張っている。1994年以来移住者の人数が自然減を上回り、結果総人口が増え続けているのだ。2022年で年間40人ほどだが、それでも増加数は全道一だ。出生数が死亡数を下回る「自然減」は毎年続くが、旭川市や札幌市ほか首都圏や関西圏からも子育て世代が転入して人口増になっているという。
岸田内閣の「異次元の少子化対策」は、経済を支える労働人口を補うための産めよ増やせよ的なやり方が見え隠れし、ひとりひとりの子供の誕生を喜ぶ大事な部分が見えない。何が異次元だか分からない上に、財源に福祉関係費を当てることに反対意見が相次いでいる。
東川町の人口増年間約40人というのは、もうひとつ“適疎”という考え方から来る数字でもあるようだ。過疎でも過密でもない「適当に疎がある」という造語で、ゆとりある空間を重視し、「未来に向かって均衡ある“適疎”な町づくりを目指す」という松岡前町長の提唱した基本方針だ。子供の誕生の喜びを地域で分かち合う「君の椅子」も、そうした方針に基づいてスタートしたそうだ。
「3つの間(仲間・空間・時間)」をうまく確保することで人口減に対応すると町長はいう。いくら異次元でも、個人へのリスペクト無しに数だけを追った少子化対策は成功しない。

| 23.06.02

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