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脳外科医竹田くん

未熟な手術センスで難手術に挑み患者は高確率で死亡、あるいは後遺症に苦しむ。そんな“あり得ない医師”を扱ったWEB漫画「脳神経外科医竹田くん」が今話題だ。架空の「赤池市民病院」を舞台にホラーな医療事故ストーリーが展開される。
現場医師のSNSでは、モデルの病院や医師探しで盛り上がっているらしい。立て続けに重大医療事故を起こすフリーの医師「竹田くん」と、適切に監督指導できない上級医や医療安全部門、そして事故を公表しない病院などが風刺的に描かれる。そのためか作者は明らかにされていない。
まともな外科医なら誰でも、手術の前には相応の時間をとって予想されるリスクと他の手段について複数の医師と検討するだろう。しかし竹田くんは自分が手術をしたいがために「必ず良くなる」と安易に成功を約束し、リスクの説明をおざなりにする。
「私、失敗しないので」の決めゼリフで一躍ブレークした米倉涼子主演の大人気ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」は、今でも医療ドラマ人気ランキングの一位に君臨している。当時は旧態依然とした大学のおじさん医師達を圧倒し、突出した手術の腕前で「旧組織をぶっ壊す新しい風」を印象付けた。
一時“医療ドラマ”はワンクールに6作もあるほど高視聴率がとれるテッパンジャンルだった。だがコロナ禍で日本の医療の実態が明るみに出た途端、スーパーヒーロードクターなどは絵空事だと視聴者は悟った。
そして最近は政治の世界にも“竹田くん”がいるようだ。マイナンバーカードを巡る人為的ミスや度を越した事故が連日報道される。デジタル担当大臣は何を急いだか、各種個人情報以外に給付金振込口座まで紐づけしようとしている。しかも多発する問題を伏せたまま、2日の参議院本会議で改正法を可決・成立させてしまった。
K大臣の「デジタル化することで世の中を便利にしていく」との発言は、ここにきてリスク説明無く「手術は成功する」と説く竹田くんと完全に被っている。
背景にある日本独自の問題を解析せず「誤入力ではない」と繰り返す答弁は、「何をそんなに急いで?」と思わせる。日本は世界で唯一名前に“ふりがな”が必要な厄介な国だ。世宗大帝の時に漢字を捨てハングル化したことで、偶然にもデジタル化に大きなアドバンテージをもたらした韓国とは違う。
揺らぎ理論でAI入力に頼る前に、日本のデジタル担当大臣には日本文化と日本語の歴史への深い理解が必要だ。起こり得るリスクを事前に説明できる資質がないと務まらない。

| 23.06.09

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