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ウルトラブッダ

埼玉県所沢市「ところざわサクラタウン」に昨年11月にオープンした「角川武蔵野ミュージアム」は、隈研吾がデザインした“岩”のようなその外観で一躍話題を集めることになった。彼の代表作の一つになるであろう。内部の図書館・博物館・美術館・アニメミュージアムが融合した複合施設「エディットタウン」は、そのユニークさで世界に類を見ない。怒涛の書籍展示による知的創造空間は、館長で編集者の松岡正剛のジャンルにとらわれないキューレーションによるものだ。
中でも2階のエントランスに展示されている”米谷健+ジュリア 2010”の「ウルトラブッダ」のユニークさは最たるものだ。ヘッド部分がウルトラマンの仏像が黄金色に光り輝く。オープニングの展覧会では「ウルトラブッダ」が金色に輝き、原発の燃料と同じウランを使ったウランガラスのシャンデリアが怪しいエメラルドグリーンの光を放った。シャンデリアには核保有国の名前がつけられ、美しさの中に残虐性を連想させる印象的展示となった。
作者の米谷健によると、オーストラリアの富裕層が意味もなくインテリアグッズとして仏像を飾る習慣に出会い違和感を覚えたことが「ウルトラブッダ」制作のきっかけだったそうだ。ウランガラスには危険と美しさとが共存し、現代社会の不安定さを象徴するがゆえに素材として使ったとのこと。欲にまみれ疲弊した現代社会を「ウルトラブッダ」が救うという設定だそうだ。
M78星雲人のウルトラマンは、宇宙の墓場への護送中に逃亡した宇宙怪獣ベムラーを追って地球までやって来る。その時自分の不注意で科学特捜隊のハヤタを死なせたことに対する罪の意識から自分の命をハヤタに分け与え、ウルトラマンとして一心同体で地球の平和を守るのだ。
アジア各国では日本のアニメやマンガと共に特撮ヒーローも高い人気を誇っている。最近タイでは法衣の代わりにウルトラマンスーツを着用したブッダの絵が公共の場に展示され、作者が仏教界から非難を受けるという事件があった。作者は「ブッダを侮辱する意図はなく、人類を救い地球に平和をもたらすスーパーヒーローとしてその姿を描きたかった」と語っており、仏教界の反発の中、若い僧は擁護する姿勢を見せているという。
コロナ禍で世界に紛争と分断の不安が広がる中、国境を越えて人々を救うスーパーヒーローの登場が待ち望まれている。
「ウルトラブッダ」は地球人を守る使命のもと、“超仏陀”として創られた。表情が京都・広隆寺の「弥勒菩薩半跏思惟像」と瓜二つなのは、単なる偶然ではないだろう。

| 21.11.26

親ガチャ

9月の初め頃からGoogleで「親ガチャ」という単語の検索回数の急増が見られたそうだ。毎年恒例の「ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされ、若年層で広がりをみせている。
「親ガチャ」とは子どもは親を選ぶことができないという意味で、“運命”に似たニュアンスを持つ。運の要素が強いカプセル式自動販売機「ガチャガチャ」に例え、生まれる家庭環境は運頼みなのだと半ば努力を諦めた言葉だ。生まれによって人生がまるで違ってくるという思いも表している。
「親ガチャに失敗したんだ。だからどうせダメなんだ」と思う子が増えているとしたら、日本人の活力は人口の減少以上に劣化しているかもしれない。自分の境遇を運のせいにし、諦めることで納得しようとする。だとすると「親ガチャ」という言葉は、格差社会の悪影響が子どもたちに予想以上に及んでいることを示している。
中国にも人生は遺伝子と環境が重要という考え方から「原生家庭」という言葉がある。どんな家庭に生まれるかが子どもの一生を左右するという意味だそうだ。
家庭環境が「絶対的」とされる韓国ではもっと露骨な「スプーン階級論」がある。親が富裕だったり高位だったりする度合いで金、銀、銅、泥と序列をつけ、「収入」や「資産」によって色分けする。「親ガチャ」という概念の蔓延は世界的にも抗し難いものになっている。
国内で児童相談所が2020年度に「児童虐待」として対応した件数が20万5千29件に上ったことは、「親ガチャ」論争の中で無視できない社会現象だ。今年8月の厚生労働省の発表では、虐待は1990年度の統計開始以降30年連続で最多を更新し昨年は20万件を超えた。少子化の中でも「児童虐待」だけは着実に増えている。
子ども世界の「親ガチャ」意識の蔓延は、親による理想的人生の押しつけやネガティブバイアスの刷り込みなどに対する警告ではないだろうか。先天的なもので「親ガチャに失敗した」と子供に言わしめない社会環境づくりが必要なのかもしれない。
昨今活躍するスポーツ選手や芸能人に驚くほどハーフが増えている。日本人ほどハーフに寛容でそのルックスの良さを評価する国民も珍しい。2016年厚生労働省の人口動態統計によると、2015年の1年間に日本国内で生まれた赤ちゃんは約102万人。そのうちの3.27%にあたる33,393人(30人に1人)の親は少なくともどちらかが外国人だったそうだ。東京に限定すると20代の若者の10人に1人は、かなり外国人の血が濃いエキゾチックな風貌をしているように見える。
「親ガチャ」を逆手にとって、したたかにDNAレベルで人生を逆転しようとする日本社会の深層心理がそうさせているのかも知れない。

| 21.11.19

MONOS

韓国映画「パラサイト」が第92回米アカデミー賞国際長編映画賞を取った時、コロンビア代表作品として参加していた「MONOS」が、「MONOS 猿と呼ばれし者たち」として日本で10月30日から公開されている。「MONOS」はスペイン語で「猿たち」を、ギリシャ語では「孤独」を意味するそうだ。
監督はコロンビアの新鋭アレハンドロ・ランデスで、本作は50年以上続いたコロンビアの内戦を背景に、絶え間ない暴力の脅威にさらされる世界とそこに生きる少年少女の葛藤や焦燥、炙り出される人間の本質を大胆に描いたサバイバル・オデッセイだ。
最近内戦をテーマにした映画が注目されているのは、世界でそれだけ「分断」が進み常に何処かで内戦が起きている証拠だ。内戦自体が多くなったのか?小さな内戦でも最前線からSNSで情報が世界中に拡散できるようになったからなのか?多分両方だろう。
2001年に起きた911による米国の「テロとの戦い」宣言以降、21世紀は「分断」の時代に入った。米中ロの覇権争いを受けて、ウクライナ、チベット、ウイグル、シリア、イラン、アフガニスタン、香港、朝鮮半島、台湾海峡と紛争地域は拡大の一途だ。
「アジア最後の成長フロンティア」と呼ばれ日本を含め多くの企業が進出したミャンマーも、国連は先日内戦状態に陥ったとの認識を示した。国軍のクーデターに抵抗する民主派が、9月7日から「防衛戦」と名付けた武装闘争を開始している。「非国際武力紛争」が毎日YouTube で配信されてくる。
約20年間「地球上最後のフロンティア」と呼ばれた北東アフリカのエチオピアでも、内戦の激化で11月3日にアビー首相が全土に緊急事態宣言を発令、「最後の経済発展モデル」は脆くも崩れ去った。
そんな中発表された韓国映画「モガディシュ」は興味深い作品だ。1991年に内戦が激化したアフリカ東部のソマリアで、孤立した韓国と北朝鮮の大使館員らが協力し脱出を果たした知られざる事実が映画化されたものだ。同じ民族ながら「分断」された韓国と北朝鮮が、海外紛争地域で一つになった瞬間を描いたこの作品は、韓国国内で2021年最大のヒット作となった。
「分断」は、古代ローマ帝国が支配下に置いた都市を治めるために、都市間の連携を切り反対勢力の力を削ぐ手法として始めた。その後イギリスやフランスにより植民地統治の政治的手法として取り入れられる。統治したい国に多数の人種・民族・宗教が存在する場合、これらにあえて格差をつけて分断と不安を煽って統治するという手法だ。
最近開催されたCOP26も、温暖化を理由に「分断」を煽りながら実に巧みにグレタ・トゥーンベリを使っている点が気になる。

| 21.11.12

Japandi

アールヌーボー建築で有名なパリの老舗百貨店オ・プランタン本店、ガラス天井から自然光が差し込む最上階に今年9月、SDGsをテーマにした新しいコンセプトフロア「7eme Ciel(セッティエム・シエル=7階の空)」が誕生した。
ハイブランド&クリエイターズブランドのビンテージ物やセカンドハンドを販売、商品の買取りも行うというデパートとしては斬新な取り組みで、オリジナルの製品よりも次元・価値が高いものを生み出すアップサイクルサービスを提供して話題になっている。
注目されているのはそのフロアの一角にある「Japandi」というショップ。Japan(和)とScandinavia(北欧)の要素をミックスしたデザインショップで、日本の「和」に見られる「侘び・寂び」の素朴さと、北欧のデザインにある「機能性」を重視したモダンインテリアスタイルを提唱している。
伝統的な日本様式と北欧様式の共通項は、木製品や自然素材を多く使っていることだ。モダンスタイルの中に工芸品や職人の手による家具・インテリアを取り入れていることが「Japandi」スタイルづくりのカギになっている。華美な装飾は控え実用性を重視した素朴なもの、さらには長く使えることを前提に「土に還る」「できるだけ地球を汚さない」といった点も重視している。
「Japandi」 スタイルはSDGsな暮らしに沿ったアイテム選びに必要不可欠な要素となった。
日本でも最近障子を洋室に使う手法が人気を集めているが、「障子=和室」ではなく洋室に合わせて限られた空間を圧迫感がなく仕切るのにぴったりだ。布製のカーテンと比べて埃が付きにくいこともあって再評価されている。
ネット通販の拡大とコロナ禍でパリの百貨店もご多聞にもれず縮小の一途をたどっていたが、「体感」をリアルの強みとして打ち出し、2024年のオリンピックに向けてポストコロナの観光客増へとアピールを開始したようだ。そうした中でも「Japandi」は時代を先取りしたインテリアスタイルとして注目を集めている。
スカンジナビアデザインの中心はデンマーク王国。代官山のデンマーク大使館は建築家槇文彦の代表作品「代官山ヒルサイドテラス」の一部として1979年に建てられている。同時期のヒルサイドテラスD棟のガラス窓には、障子をガラスで挟んだアルミのサッシのものが多く用いられ、外からの強い光を優しい明かりへと変えている。槇文彦は40年も前から既に「Japandi」スタイルの実践者だったのだ。
デンマーク大使館が槇文彦を受け入れヒルサイドテラスの一部としてデザインされたのは、今考えると単なる偶然ではなかったのだろう。

| 21.11.05

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