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終電シンドローム

コロナ禍による乗客の激減のため、JR各社は来春のダイヤ改正で終電を繰り上げると発表した。昨年オリパラ東京2020期間中の終電繰り下げを発表していただけに、これで世の中が一斉に弱気方向へ傾いてしまうのではと心配だ。
JR東日本では輸送人員が多い山手線の終電が最大19~20分早くなるほか、17路線でほぼ30分程度早まる見込みだ。山手線運行が前提の私鉄も終電繰上げの検討に入っているそうだ。東京の夜は短くなる。
コロナ禍によるリモートワークの増加が人の動きを大きく変えたのは事実だ。主な鉄道路線の乗客数は通勤時間で約30%減少し、深夜0時台の山手線に至っては平均で66%減少しているという。鉄道各社とも長引くコロナ禍による減収予測に怯えているが、乗車率が減って先進国並みの快適な状況に近づいたという巷の声があることも忘れてはならない。
かつてバブル経済最盛期の1991年頃は、栄養ドリンクのCMそのままに「24時間戦えますか?」がサラリーマンの標語だった。「鉄道だって24時間運行すべきだ」という意見が出て終電を繰り下げ、羽田空港を24時間化し、コンビニや食品スーパーも続々と24時間営業へ舵を切り始めた時代だ。
当時、国や東京都は夜を「長く」することで「眠らない街東京」を演出し国際競争力を高めようとしたが、相も変わらず東証は昼休みを取り、銀行は午後3時で窓口を閉め、役所も夕方5時には終わる、というさまで根本的な労働生産性にメスが入ることはなく、日本の生産性は下がり続けた。
今回の終電繰り上げはコロナ禍による労働者不足や深夜時間帯の利用者の減少を理由としているが、鉄道各社のコスト削減が第一の目的で労働生産性を上げる施策はまたも見受けられない。
真に「眠らない国際都市」の代表といえばニューヨークやロンドンであろう。日本では今こそコロナ禍を機にコンビニや銀行の無人店舗化を推し進め、あらゆるサービス業の無人化を推進するなど、根本的労働生産性を向上させて快適な都市生活を実現すべきではないのか。終電繰り上げだけで問題解決とはならないだろう。
例えば、終電繰り上げをタクシー業界最大の好機と捉えると面白い。深夜割増料金を廃止し大胆な割引料金を新設すると、深夜の実車率が上がり生産性は飛躍的に高まる。都心から横浜、大宮、千葉まで、今までの半額(7-8千円)で帰れるとなれば終電などは気にしない人の流れが繁華街に起き、東京の国際的競争力は一気に上がるだろう。
終電シンドロームが危惧される今ほど、構造的生産性の向上が交通機関に求められている時はないだろう。

| 20.10.30

とっとこハム太郎

10月14日以降タイの反体制集会は激しさを増し、独裁国家への抵抗のシンボルである3本指を掲げて「プラユット(首相)出て行け!」と叫ぶシュプレヒコールが止まらない。
タイは国を割るようなデモが頻繁に起こる国だが、今回は過去のデモと違って要求の矛先が王室にも向いている。タイ憲法では王室批判はタブーだった。今度のデモは1年の大半をドイツで過ごすラーマ10世ワチラロンコン国王にも疑問を呈し、政治への不介入や王室予算の削減、不敬罪の廃止なども求めている異例のものだ。
デモの構造的深刻さとは裏腹に、日本のアニメキャラクター「とっとこハム太郎」が抗議デモを過激化させない重要な役割を負っていると世界から注目されている。
ハム太郎オープニング曲の「大好きなのはヒマワリのタネ」という部分を、「大好きなのは納税者の血税」と替え歌にして政府を批判し、議会の解散を求めている。ハム太郎のぬいぐるみを抱えたデモ参加者が「民主主義記念碑」の周囲をまるでハムスターのようにグルグル回り、微笑ましくもある。
「とっとこハム太郎」は2000年から2006年までテレビ東京系列で人気を博したTVアニメだ。小学5年生のロコちゃんの家に住む好奇心旺盛で元気いっぱいのハム太郎が、ちっちゃい体でロコちゃんのためにがんばるという筋書き。秘密の地下基地に集まる大勢のハムスターの仲間 “ハムちゃんず” の友情溢れる大冒険を描いた作品だ。
バンコクの反体制デモはこれとオーバーラップするらしく、ロイター通信やインデペンデントなど大手メディアがハム太郎現象を報じる事態になっている。
ロシア高等経済学院人文科学部教授で、政治学者、哲学者でもあるオレグ・マトヴェイチェフ氏も、「もしハム太郎が使われなければ、世界のメディアがこのデモを大きく取り上げることはなかっただろう。ハム太郎現象がメディアの好奇心をかき立てた」と分析している。
日本のアニメキャラクターが世界の若者をインスパイアし、権威主義的な政府に対する抗議のシンボルとなっているのは興味深い。戦後短期間で、世界で最も平等と言われる国家を築き上げた日本にとっても誇らしいことだ。
中国や韓国が日本の戦時体制下の侵略の贖罪が済んでいないと繰り返し批判する間に、タイの若者達は国境を越えていち早く現代日本のアニメキャラクターに共鳴し、平等社会の実現を成し遂げようと闘っている。
一方ワチラロンコン国王が超長期に渡り滞在するドイツの外務省は、ペルソナ・ノン・グラータを通告して不快感を表すことにしたようだ。

| 20.10.23

フィジタル

21年春夏のパリコレの最中、10月4日にファッションデザイナーKENZO(高田賢三)の訃報が入ってきた。彼が創業した「KENZO」は、コシノジュンコらと70年代からパリコレに進出した最初の日本ブランドだった。
日本での成功の上に進出したのではなく、パリでゼロから叩き上げたKENZOは、日本国内と比較にならないほどパリでは有名だ。APF通信は日本のメディアよりはるかに早く、「KENZOは東西の文化を融合させ、ファッション界の新ページを開いた」とその才能を称えつつ死を悼んだ。
今回のパリコレはコロナ禍のため大きく変容した。9月28日から10月6日の期間中、通常より多い84ブランドが参加した。19ブランドのランウェイショー、20ブランドのプレゼンテーション、45ブランドのデジタル参加で構成された。
マシュー・ウィリアムズによる「ジバンシィ」初のコレクションはデジタル参加、「シャネル」と「ルイ・ヴィトン」は最終日10月6日にフィジカルなショーを開催している。フィジカルなショー、プレゼンテーション、そしてデジタル参加と、パリ・ファッションウィーク初の試みとなるハイブリッド「フィジタル」(フィジカルとデジタルの融合)開催となった。
日本のブランドからは「マメ クロゴウチ」をはじめ「アンリアレイジ」などがコレクションをデジタル配信する中、大御所「ヨウジヤマモト」は現地でランウェイショーを行った。
主催者の仏オートクチュール・プレタポルテ連合協会のデジタルプラットフォームは、YouTube、Google、Instagram、Facebookなどを駆使し全てのイベントを同時配信している。
今年はKENZOのパリ進出50年の節目の年だった。彼自身はCovid-19で入院中だったが、彼の手を離れた「KENZO」は敢えてフィジカルなショーを選んだ。
ソーシャルディスタンスをとって敢えてフィジカルショーを選択したいくつかの老舗ブランドは、間違いなく以前の状態に戻ることはなく、むしろそうならないブランドの未来を見据えているようだった。
清らかな空気に包まれたバラの庭園に、「KENZO」のフラワープリントのミニドレスやふわっとしたパーカー、養蜂家を蜂から保護するベールのように全身を優しくバリアするオーガンディの帽子を重ねた姿は、図らずも新型コロナウイルスから可愛らしく距離を取るようなデザインでとても印象的だった。
日本よりもパリで評価を受け続ける「KENZO」。コロナ禍で創業者の命と引き換えに、若きデザイナーが伝えたかったのは、デジタル時代の「フィジタルなライフ」だったのだろう。

| 20.10.16

フリガナ

9月17日の自民党麻生派の派閥会合で、麻生太郎副総理・財務相は約7年8カ月続いた安倍前政権の政策継承の必要性を訴え、「菅(すが)内閣」というべきところを「菅(かん)内閣」で引き続き役割を果たしていかなければならないと二度も述べて物議をかもした。
実際に民主党政権時代に「菅(かん)内閣」が存在しているだけに、自民党政権副総理の発言としては重大なミスだ。百歩譲って擁護するなら、「同じ漢字苗字の読み方が全く違うことがある」日本語の特殊性がそうさせたと言えるだろう。
麻生大臣は首相在任時の2008年にも、国会答弁で漢字を読み間違え野党からの批判を受けた前科?がある。それ以来答弁書には「フリガナ」がふられているらしい。ここに日本の行政のデジタル化を遅らせる最大の要因が潜んでいるように思える。
世界で「フリガナ」が必要な表記を今も使っている国は日本だけではないだろうか。海外から帰国時の関税申告書には漢字名に「フリガナ」を併記しなければならない。各国向けに用意された申告書と比べて、氏名を二通りに書くのは日本語版だけだ。
一方金融機関や医療機関はその印字表記を諦め、診察券、キャッシュカードへの漢字名表記はなくなりつつある。コンビニのスタッフの名札も30%はすでに漢字を使わない等、漢字の扱い方について実務は現実に即してきている。
ところで気になるマイナンバーカードは、希望者には「旧氏」や「ローマ字氏名の併記」、「生年月日の西暦表記」も可能にするよう進められているらしい。だが「加藤」はヘボン式では「Katou」だが「Kato」や「Katoo」もあり、好きな音表記を許すと表現に揺らぎが出てしまう。これはデジタル化の流れに逆行し事態の混乱に拍車をかけるだけだ。
日本はただでさえ名字(苗字)が約29万種と世界で最も多い国の一つだそうだ。漢字発祥の国中国ですら3000種を大きくは超えず、北宋時代の姓の経典「百家姓」にきちんと整理されている。そう考えると日本の名字の多様性は異様だ。
正確に読むことが至難の名字であろうと切り捨てずに「文化的要素」を重視する姿勢を守ってきたことは、良い意味で「フリガナ」文化を育んできたといえるが、同時に行政のデジタル化を困難にした最大の要因でもあろう。
この国のデジタル化を推進するとしたら、最初の仕事は「フリガナ」をつけなくてもよい方法での名前表記を公式なものとすることだろう。
せめて副総理が恥をかかないレベルに単純化しないといけない。

| 20.10.09

GEISHA(ゲイシャ)

秋鯖の美味しい季節になってきた。しかし庶民のサラメシの定番“サバ定食”のサバは殆どがノルウェーからの輸入品だそうだ。日本はサバの漁獲高を誇る国だが、獲ったサバはいったいどこへ行ってしまうのだろうか?
2016年度の日本のサバ漁獲量は約49万トンで、中国(約50万トン)に次ぐ世界第2位。このうち半分の約25万トン(2018年度)を海外に輸出している。一方輸入は約7万トン(2018年度)で、そのうちの9割がノルウェー産である。
日本のサバの輸出先第一位は、なんと西アフリカ最大の国ナイジェリアだそうだ。ナイジェリアのスーパーでうず高く積み上げて販売されている『GEISHA(ゲイシャ)』ブランドのサバ缶。
販売している川商フーズによると、アフリカでは60年以上にわたって販売されてきた人気商品で、特にナイジェリアでは国民食並みだそうだ。アフリカでは日本の『GEISHA』のイメージが、なんとサバ缶なのだ。
日本の太平洋岸で水揚げされるサバは秋が旬で、「秋サバ」と称される。太平洋沿岸を回遊するサバは伊豆半島沖で春頃に産卵し、餌を求めて北上する。八戸沖で水揚げされる「戻りサバ」は最良とされるが、九州沿岸で水揚げされるサバは冬が旬で、俗に「寒サバ」と称される。
ノルウェー産は大型で高価であるが脂が乗っておいしく、日本のスーパーで販売されるサバの7割(2018年度)を占める。片や日本で主に漁獲される小型のサバは更に2年間育てて獲れば、ノルゥエー産にひけをとらないのに、主に缶詰(サバ缶)に加工されるたり、「生餌」としてブリやマグロなど養殖魚のエサにも使われる。
川商フーズの『GEISHA』ブランドは、小さな魚まで根こそぎ獲ってしまう、海洋資源管理が進んでいない日本漁業の構造的産物と言えるかもしれない。
一方、原材料の70%がサバで、今年発売され超人気になっているスナック菓子「サバチ」にも同じ問題が潜んでいる。「サバチ」はタイで千年も前から親しまれてきたサバチップスがヒントになっているそうで、タイが原産国だ。
日本は近年かつてないサバブームだが、日本で獲れた小型のサバは国内で流通せず安価でアフリカやタイに輸出され、庶民のサラメシ用の大型のサバは殆どノルウェーから輸入される。何か矛盾を感じる。
資源保護の観点から、付加価値の高い、育てて獲る漁業を目指して根本から考え直す必要があるだろう。サバをほとんど食べないノルウェー漁業者のカモになるという愚行を、早く止めなければならない。
しかも、世界では日本が海洋資源を食い尽くす元凶だと思われているのだ。

| 20.10.02

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