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とっとこハム太郎

10月14日以降タイの反体制集会は激しさを増し、独裁国家への抵抗のシンボルである3本指を掲げて「プラユット(首相)出て行け!」と叫ぶシュプレヒコールが止まらない。
タイは国を割るようなデモが頻繁に起こる国だが、今回は過去のデモと違って要求の矛先が王室にも向いている。タイ憲法では王室批判はタブーだった。今度のデモは1年の大半をドイツで過ごすラーマ10世ワチラロンコン国王にも疑問を呈し、政治への不介入や王室予算の削減、不敬罪の廃止なども求めている異例のものだ。
デモの構造的深刻さとは裏腹に、日本のアニメキャラクター「とっとこハム太郎」が抗議デモを過激化させない重要な役割を負っていると世界から注目されている。
ハム太郎オープニング曲の「大好きなのはヒマワリのタネ」という部分を、「大好きなのは納税者の血税」と替え歌にして政府を批判し、議会の解散を求めている。ハム太郎のぬいぐるみを抱えたデモ参加者が「民主主義記念碑」の周囲をまるでハムスターのようにグルグル回り、微笑ましくもある。
「とっとこハム太郎」は2000年から2006年までテレビ東京系列で人気を博したTVアニメだ。小学5年生のロコちゃんの家に住む好奇心旺盛で元気いっぱいのハム太郎が、ちっちゃい体でロコちゃんのためにがんばるという筋書き。秘密の地下基地に集まる大勢のハムスターの仲間 “ハムちゃんず” の友情溢れる大冒険を描いた作品だ。
バンコクの反体制デモはこれとオーバーラップするらしく、ロイター通信やインデペンデントなど大手メディアがハム太郎現象を報じる事態になっている。
ロシア高等経済学院人文科学部教授で、政治学者、哲学者でもあるオレグ・マトヴェイチェフ氏も、「もしハム太郎が使われなければ、世界のメディアがこのデモを大きく取り上げることはなかっただろう。ハム太郎現象がメディアの好奇心をかき立てた」と分析している。
日本のアニメキャラクターが世界の若者をインスパイアし、権威主義的な政府に対する抗議のシンボルとなっているのは興味深い。戦後短期間で、世界で最も平等と言われる国家を築き上げた日本にとっても誇らしいことだ。
中国や韓国が日本の戦時体制下の侵略の贖罪が済んでいないと繰り返し批判する間に、タイの若者達は国境を越えていち早く現代日本のアニメキャラクターに共鳴し、平等社会の実現を成し遂げようと闘っている。
一方ワチラロンコン国王が超長期に渡り滞在するドイツの外務省は、ペルソナ・ノン・グラータを通告して不快感を表すことにしたようだ。

| 20.10.23

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