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世界アニメ共栄圏

Netflixからスタジオジブリの21作品が、日本、アメリカを除く世界191ヵ国で今年2月から順次翻訳配信されている。既に別ルートで配信されているアメリカを加えると、ほぼ全世界の人がジブリ作品に自国語で接することが可能なのだ。これは日本発コンテンツとしては画期的なことだ。
日本のマンガ出版は、全世界で4億7000万部の「ワンピース」を筆頭に億を超えるタイトルがいくつも存在し、今や一千万部越えも100タイトルを下らないという。
日本の子供たちは生まれた時からアニメに取り囲まれて育つ。「となりのトトロ」を子守歌で聞き、「崖の上のポニョ」を楽しげに鼻歌で口ずさみながら大きくなる。戦後世代がビートルズを聴いて育ったように?
「千と千尋の神隠し」や「魔女の宅急便」で少女の旅立ちと自立する姿に共感する。「紅の豚」ではカッコいいことにこだわる男のロマンを学び、「風の谷のナウシカ」や「もののけ姫」で世界の環境問題を学び、「ハウルの動く城」や「風立ちぬ」で戦争の無意味さを考える。
義務教育は国の礎であるが、歴史教科書が戦争責任などの記述を巡って迷走する中、マンガやアニメはテレビや映画、ゲームに自由にリメイクされて拡大し、NintendoやソニーPlayStationを通じて世界に浸透していく。現代日本人の思考スタイルや社会への共感は、ソフトパワーとして世界の同世代人に瞬時に共有されている。
かつて手塚治虫は「自分はマンガを描くのではなく、マンガという言葉で世界に語りかけているのではないかと思う」と語ったが、日本の戦後世代は教科書よりもマンガで世界情勢や未来を学んだと言っても過言ではないだろう。
中国人は「三国志」に詳しい日本人が多いことに驚くという。日本人は教科書からではなくアニメの『三国志』を見て、さらにあらゆる三国志ゲームをプレイし尽くすことで、中国人も知らない魏蜀呉の時代を熟知するに至る。
江戸時代、寺子屋教育の充実によって平均値で庶民の粒が揃ったことが強みになり150年間発展した。衰退したとはいえ日本はまだ経済大国だ。ところがその蓄えも使い果たしつつある。台湾や朝鮮半島の割譲を受けた時、日本人の識字率は圧倒的だったが、ITリテラシーに関しては今や彼の地に逆転されているようだ。
しかし、日本国政府が教科書検定で日本の姿を描き切れないうちに、日本のマンガやアニメは国境を越えて世界中でその価値観が共有され、学校教育を遥かに超えるスピードで日本発の文化共栄圏を創りつつある。
マンガを愛読していると自慢するロートル政治家がいたが、早くその座をアニメ世代に渡した方がいいだろう。次世代の日本人は、想像する以上に国際的だ。

| 20.09.04

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