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典具貼紙

ほとんど透明なほどに薄い、世界でたった一社しか作ることのできない紙が、ルーブル美術館や大英博物館など世界的な文化財の修復現場から求められている。この世界一薄い紙は、「典具帖紙(てんぐじょうし)」と呼ばれる。
この紙は、高知県の「ひだか和紙有限会社」という小さな会社でつくられている。1平方メートル当たり僅か1.6グラムと軽く、“カゲロウの羽”と称されるほどだ。
ひだか和紙は1949年の創業当時から薄い紙を漉くことで有名だったが、この手漉きの技を機械化し、限りなく薄い和紙づくりに挑戦して来た。そして遂に世界一薄いといわれる「典具帖紙」を実現させ、世界の文化財修復技術を飛躍的に向上させた。
植物由来の天然繊維だけを原料に修復対象物に合わせた色で原料段階から染めることで、「典具帖紙」は世界で唯一無二の超高精度な和紙となり、デジタル化が加速するペーパレス社会にあって、現物の紙でなければ用をなさない究極の分野が厳然としてあることを世に知らしめている。当然高価である。
国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、世界全体の紙・板紙生産量は、オフィスのペーパレス化で印刷・情報用紙と新聞用紙の生産量がこの5年間で14%減少する一方、巨大通販の成長で段ボール包装材が13%増え、生産量は横ばいだが当然その単価は下がり続けている。
IMD(International Institute for Management Development)が作成する最新の「世界競争力年鑑(World Competitiveness Yearbook)」で、日本がその順位を更に落とし34位になったことを憂慮する記事が散見されるが、ものは考えようだ。
グローバル化は投資による合法的富の搾取であり、競争力のある国は多くの搾取を受けているとも言える。競争力ランキングが落ちるということは、逆に搾取のための投資マネーが寄ってこないということだ。
紙は紀元前2世紀ごろ中国で発明されたと言われているが、飛鳥時代に日本に伝わるとその品質は和紙として飛躍的に向上する。そして7-9世紀に遣唐使によって中国に逆輸出され、唐から世界に広がって高く評価された。
「典具帖紙」のような究極の製品は、グローバル化する世界のトレンドに真っ向から挑戦する商品だ。広く普及するわけではないので投資効率は悪い。
元来日本文化の中には「道」を極める美学がある。いたずらにグローバル化に頼ることなく究極の追求を繰り返し、世界で誰も真似ができない”異端”の技術が完成していく。
「典具帖紙」の事例は、グローバル化の魔の手から日本を守る道標となるのではないだろうか。

| 20.06.19

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