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シンビオシス

英国の哲学者ティモシー・モートンが、最近パブリックセクターやアーティスト、メディア、思想家などをつなぎ対話を促す「STRP festival 2020 (online)」というプラットフォームに寄稿したエッセー、「”共生”をもたらすウイルスに感謝(Thank Virus for “Symbiosis”)」が、やや挑発的ともとれるそのタイトルから話題になっている。
「人間中心主義」を見直し「人間、動物、モノ」の境界線を新たに問いなおすモートンの思索は、「Dark Ecology (2016)」に示されるが、篠原雅武訳『自然なきエコロジー』(2018以文社)でも読むことができる。
生物学では異種の生物が相互に関係を及ぼしながら生活することを「共生」と呼ぶ。世間では「敵」と見なされているウイルスに、あろうことか「感謝」を述べるモートンに対し読者はさっそく面食らうことになる。
奇しくも新型コロナウイルスの拡大が全世界の企業活動を停滞させ、数十億人を自宅にこもらせた結果、中国の湖北省からイタリア北部の工業地帯まで世界各地の大気汚染レベルが急激に低下し、晴天の日々をもたらしている。
特に世界最悪レベルの大気汚染に悩むインドの変化は著しく、大気汚染は瞬時に改善され、インド北部から数十年ぶりにヒマラヤ眺望が可能になったという。
WHOによれば、大気汚染に起因する肺がんや肺炎などの呼吸器疾患で、世界で年間700万人以上が死亡しているのが現実だという。
新型コロナウイルスは3ヶ月で21万人以上の犠牲者を出しているが、大気汚染による呼吸器疾患を持った人々が集中的に犠牲になっている。この事実は、パンデミック緩和後、世界の大気汚染に対する環境対策をより一層強化していく必要があることを示唆するものだ。
”Thank Virus for Symbiosis”においてモートンは、人類とウイルスという異種の生物が相互的に関係を及ぼし合う「共生」の世界観の認識がいかに大切かを説いたとも言える。
共生するウイルスに弱みを見せれば、即座に人類は生存を脅かされる。無知な政治家たちが「友敵」のレトリックを用いて描く世界観を遥かに超えるものだ。
実際には新型コロナウイルス(Covid-19)は、フランス大統領マクロンがそう呼んだように単純に「敵」として人間と対立しているわけではない。それは他の存在者と絡み合いながら「生態系」の一部を構成しているのだ。
ヒステリックに治療に消毒薬を注射しろと叫ぶ大統領や、出所不明の小さなマスクを配って事態を解決しようとする首相には、「ウイルスとの共生」という概念は永遠に理解できないかも知れない。

| 20.05.01

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