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植物工場

コンビニや機内食、外食チェーンなど規格化した食材が大量に必要な現場で、「植物工場」産の野菜が幅広く浸透してきた。農業は自然相手の産業ではなくなりつつあるようだ。
「植物工場」は光源にLEDを使い土に代わって水耕培養液を採用し、温度や湿度、日照に養分まですべてAIで管理し、季節を問わずに野菜を安定生産することができる。
「工場野菜の利用実態」について2017年に日本政策金融公庫が行なった意識調査によると、2009年には「購入したことがある」9.2%が2017年には21.4%に上昇、さらに広がっているようだ。
国内で5つの「植物工場」を展開するレスターホールディングスをはじめ、昨年参入した三菱ガス化学は、医薬品業界との関係を越え、レタスなどの葉野菜の生産能力でも日本最大級になると予想されている。
最近では培養液の成分調整で、ビタミンやミネラルなどの有用成分を高めた機能性野菜の安定供給も可能になってきているという。もはや「植物工場」は農業というより工業だ。
またここに来て、新型コロナウイルスによる感染症パンデミックを巡るワクチン開発で各国の激しい主導権争いが起こり、日本チームも植物由来で参戦。さらに「植物工場」が期待される事態となった。
抗ウイルス作用のあるインターフェロンは従来微生物由来で作られていたが、米国では既に完全密閉型植物工場で安定的に製造されるようになっており、遺伝子組み換えイチゴから抽出されるインターフェロンでペット用の歯肉炎軽減剤を作ることに成功。タバコの葉からはインフルエンザ、エボラ出血熱等のワクチン生成にも成功しているのだ。
原料を植物由来にすることで従来よりも設備・生産コストを削減し、事業としても完成度が上がってきている。
ワクチン開発にはこれら製薬会社に加え、米ジョンソン・エンド・ジョンソン等も参入する中で、完全に生産管理された「植物工場」は期待の星だ。
日本では田辺三菱製薬が、3月にカナダの子会社メディカゴでコロナウイルスと同形状の植物由来 タンパク質(VLP)の作製に成功したと発表した。これを用いたワクチンの検証も既に行われており、「順調に進めば、ヒトでの臨床試験を今年8月までに開始する」という。
一方、野菜に含まれる免疫誘導物質は腸管粘膜に直接届くため、現行の注射型ワクチンではできなかった粘膜免疫を誘導することが期待されており、近い将来“食べるワクチン”も現実になるかもしれない。
ウイルス感染症が地球上から無くなることはないが、正に「植物工場」が人類とウイルスとの共生を実現させることになるだろう。

| 20.05.15

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