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FOR YOU

5月3日、山下達郎のアルバム「FOR YOU」が1982年の初版のまま、実に41年の時を経て当時と同じアナログLPレコードとカセットで発売された。しかも発売されるやいなや5月15日付「オリコン週間アルバムランキング」において堂々第4位(初週売上2万枚)にランクインしている。LPレコードとカセットでのセールスでこの記録は業界人ならずとも驚きだ。
「FOR YOU」を皮切りに6月7日に「RIDE ON TIME」、7月5日に「MOONGLOW」と「GO AHEAD!」、8月2日には「SPACY」「CIRCUS TOWN」と続く。更に9月6日には「IT’S A POPPIN’ TIME」「GREATEST HITS OF TATSURO YAMASHITA」と5か月連続で新(旧?)譜発売予定とのこと。
最新のデジタルリマスターとヴァイナルカッティングにより82年当時のアナログメディアの音像をかなり精密に再現できる、そのクオリティの高さも人気の大きな要因だそうだ。すでにネットでも店頭でも売り切れ続出で、欲しくても手に入らない状態だという。
アナログで山下達郎を購入する向きがあるのは当時を懐かしがる世代と思いきや、完全に若者中心となっていることにも驚かされる。今や日本の70年代80年代の山下達郎等シティポップの人気は世界的だそうだ。文句なしにアジアポップスの代表格なのだ。そして山下達郎のLPレコードは最近さらに値上がりし、10年前と比べ10倍近くの値がつくタイトルも出てきているとか。
彼はサブスクでの配信を「おそらく死ぬまでやらない」と公言している。「テレビに出ない」「日本武道館でライブはやらない」「本を書かない」の三無い主義だ。音楽のクオリティを徹底追求し、量を追わない職人的ニッチ路線を貫いている。
そのコンテンツには隠れたある法則がある。曲が変わろうがコード進行のパターンを崩さないことだ。リスナーの琴線に触れることをAIで研究し尽くしたかのように追求している。聴き手は騙されていると思いながらも聴いてしまい、心地よい音楽を探しているうちに山下達郎に遭遇してしまう。そしてダイナミックレンジが広いアナログ音源に自然に到達してしまうという次第だ。気づくと蟻が蜂蜜の瓶に群がるように引き寄せられる感覚だ。
頭で考えスタイルで選択するのではなく、感性に身を任せた結果、アナログの山下達郎を選んでしまう。
正に「FOR YOU」だ!

| 23.05.26

くうき

2023年の初めに日本ペンクラブ副会長山田健太著「『くうき』が僕らを呑みこむ前に 脱サイレント・マジョリティー」(理論社)と題した児童書が出版された。「空気を読んでばかりいないで自分で考えよう」と子どもたちに呼びかけて民主主義の理念を伝える、日本の将来に対してとても示唆に富んだ本だ。
民主主義や言論・表現の自由の大切さを、挿絵に登場する雲の形をした架空の生き物『くうき』を通して易しく解説する。場の雰囲気によって物事が決まりがちな社会で、子どものうちから自分で考え行動する力を身につけてほしいという願いが込められている。
特にコロナ禍の3年間は『くうき』によって世の中が動いてきた。マスクやワクチン、政府の方針も、一定の科学的根拠はあっても最終的には社会の雰囲気で決まることが多かった。それに慣れてしまうと、多くの人がリスクを避けるようになって同調圧力がかかってくる。反対意見には大きなエネルギーが必要となってしまうのだ。
立教大学経営学部の中原淳教授によると、ここ10年ほど学生たちは「論破」を恐れ、意見や反論を言うことも言われることも嫌がる傾向があるそうだ。教授はそうした若者たちを「いいねいいね世代」と名付けている。Instagramでユーザーの投稿に「いいね!」と反応し承認することに慣れてしまった世代だ。
しかしここに来て、フォロワー数や「いいね!」の数が気になって疲れてしまう人が増えている。SNSが広く普及して「他人からの反応」がすぐに得られる世の中になったことで、「反応しまくる生活」が、実は思っていることが言えない状態を作り出していると教授は忠告する。
日常生活において例えば遊びの行き先も、LINEでの友人の提案にとりあえず「いいね!」と反応し、本当は別の場所に行きたくても意見が割れることの方が嫌だと感じてしまうのが「いいねいいね世代」の特徴だ。
2007年頃「KY」という流行語があった、「空気(K)が読めない(Y)」の略語だ。一部の子ども・若者を中心とした流行語がメディアに取り上げられて全国的に認知度が高まり、2007年ユーキャン新語・流行語大賞にもノミネートされた。
日本では小さいころから「空気を読む」よう躾けられる。長らく封建社会の「上意下達」に慣らされて思考停止した日本人の悲しき性なのだろうか?
「いいねいいね世代」の撒き散らす『くうき』が、日本人がマスクを外せない最大の原因を作っているのかも知れない。

| 23.05.19

ジェンダーレストイレ

4月14日に新宿ミラノ座跡地に超高層複合施設「東急歌舞伎町タワー」がオープンした。これで、2015年に新宿コマ劇場跡地の「東宝ビル&ホテルグレイスリー新宿」に続き、新宿歌舞伎町の2大再開発事業が完成したことになる。今回は特に「ジェンダーレストイレ」が新時代への挑戦として話題を呼んでいる。
1階から5階はエンターテイメント&レストラン、6階から8階はシアターホール、9階から10階は映画館「109シネマズプレミアム新宿」、17階から47階は日本初上陸の2つのブランドホテル「BELLUSTAR TOKYO」と「HOTEL GROOVE SHINJUKU」だ。タワー内には深夜や早朝営業しているエリアもあることから、“夜通し遊んでそのまま泊まれる”ということか?話題のトイレは2階にある。
男性用/女性用という既存のトイレの概念を捨て、(男性用)小便器と(男性用)個室、(女性用)個室、(ジェンダーレス用)個室、(多目的用)個室が1つの空間に並ぶ。背後にLGBTQのメッカ新宿2丁目が控える場所で、時代に先駆けた試みかと思いきや、「女性トイレが無い!」と女性からのブーイングが相次いでいるそうだ。
ちなみに2階は全国のソウルフードが提供されるエンターテインメントフードホール「新宿カブキhall~歌舞伎横丁」で、早朝まで営業する。深夜から早朝にかけての時間帯だけは流石にトイレに電子錠でロックがかかり、飲食店利用者だけに配布されるカードキーが必要だが、隙間のない完全な個室が並ぶのは異様だ。
国連の持続可能な開発目標(SDGs)の理念を掲げても、警備員による巡回や防犯カメラの運用が不充分なら安全面に不安を感じるだろう。渋谷区でも3月に「THE TOKYO TOILET」運動の一環で、「女性専用トイレから共用トイレへ!」をテーマにして物議を醸している。肝心の“安全な”女性用トイレが無いと感じさせるのだ。
「LGBTQ」を受け入れるとなった時、常識があると思われていた自治体や大企業がなぜこんなにも極端な行為に走るのだろうか?「LGBTQ+」コミュニティへのサポートが先進的なニューヨーク市では、施設を細分化するのではなく「家庭と同じように皆が自然に同じトイレを使う」という状況を増やそうと努力している。
オープン間もなく「東急歌舞伎町タワー」の「ジェンダーレストイレ」の表記がただの「トイレ」に変更されたと聞く。
日本人の状況俯瞰能力のなさがここにも表れてしまったようだ。

| 23.05.12

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