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地震税

2月6日にトルコ・シリア国境でM7.8の大地震が発生、さらにその約9時間後には北北東側でM7.5と2度の大地震に見舞われた。
トルコ南部の被災地を視察した国連のマーティン・グリフィス事務次長(人道問題担当)は11日、死者数は5万人近くに達するとの見方を示した。トルコはアナトリア、ユーラシア、アフリカ、アラビアと4つのプレートが接する地震多発地帯だ。1999年にもマグニチュード7.6のトルコ北西部地震が起き、死者数は1万7000人あまり、およそ60万人が家を失っている。
旧約聖書の出エジプト記に「モーゼが杖を振り上げると紅海が二つに割れ、イスラエル人が海の底を渡った後モーゼが再び杖を振り下ろすと海は元に戻り、追ってきたエジプト兵は戦車もろとも海に沈んだ」という記述がある。シリアからイスラエルを南下して紅海に至る死海断層エリアだ。ここで起きた大地震がモーゼの奇跡として宗教的に利用されたのだろう。
トルコでは1999年の大地震を教訓に建築物の耐震基準を見直し、災害予防を目的にした「地震税」が導入されていた。しかし20年以上に亘り納められた880億リラ(約6127億円)以上の税金の使途を、トルコ政府は一度も公表していない。
今回倒壊した建物には新しい耐震基準をクリアした住宅が多く含まれることも驚きだ。安全基準に違反する建物でも一定の罰金を支払えば建物を “容認する” 、別名「恩赦政策」という悪法があるという。因みにエルドアン政権の支持基盤は建設業界だそうだ。地震後の会見でエルドアン大統領は「このような大規模な地震は誰も予想できなかった」と言い放ったが、当然「地震税」の流用疑惑や業界との癒着による「恩赦政策」スキャンダルの発生は時間の問題だろう。
日本でも今後2035年±5年に高い確率で南海トラフ地震が起きると言われて久しい。被害総額は東日本大震災の10倍と言われ、首都圏直下型地震を誘発して日本の人口のおよそ半分6000万人が被災するという予測もある。まさに他人事ではない。阪神・淡路大震災教訓資料の詳述にも「目的地に行くまでに倒壊した家屋に遮られ迂回する。道路は電柱が倒れて通れず高圧線も垂れ下がり…、幅3から5mの道路はことごとく遮断され緊急車両の通行が不能となった」とある。
あれから30年近く経つが日本の電線地中化は遅々として進まず、アジアの大都市で最低レベルのままだ。トルコは「地震税」、日本は「復興税」、どちらも時の政権の都合で流用されて終わるのか。
政治家と役人の“未必の故意”だけが不気味に膨らんでいく。

| 23.02.24

ザ・MAKANAI

Netflixのドラマ『THE MAKANAI: COOKING FOR THE MAIKO HOUSE (舞妓さんちのまかないさん)』が、1月12日に全世界で配信され高評価を得ている。原作は週刊少年サンデーで連載中の小山愛子による同名の人気コミック「舞妓さんちのまかないさん」で、海外でも知名度が高い是枝裕和監督の脚本・演出で実写化された。
舞台は京都の花街で、主人公のキヨは親友と共に舞妓を目指して青森から京都にやってきたものの、あるきっかけで舞妓が共同生活を送る置屋で食事を作る「まかないさん」になるという話だ。花街の日常や食を通じた友情がキヨを通して描かれる。海外での人気の理由だが、花街の風習や決まり事、実在する京都の街角の八百屋や豆腐屋が登場するなど、日本人にとってもハードルが高い花街の実態に迫っている点だそうだ。英紙ガーディアンのレビューでは「見逃すには惜しいかなり素敵な作品」と絶賛され、「現代のおとぎ話、空腹では絶対見てはいけない楽しい日本の食べ物と友情ドラマ」と見出しがついている。
この作品、実はアニメ化されて2021年2月からは「NHKワールド JAPAN」で、2022年4月からはEテレでも放送されていたようだが、なんと言っても今回は実写のインパクトが強かったということだろう。
舞妓と言えば日本の「伝統文化」とされているが、昨年6月、京都先斗町の元舞妓がTwitterで自身が受けたセクハラや未成年飲酒といった問題を告発し物議を醸した。それ以来きれいごとばかりではない裏があることも有名になった。“舞妓の早食い” という言葉があるように、現実には接待の合間をみて一気に食事をかき込むことなどは日常茶飯事なのだ。置屋ごとに舞妓の境遇は異なるが、 2005年に全世界公開されたハリウッド映画「SAYURI」で作られた日本の花街への負のイメージに関しては、この「舞妓さんちのまかないさん」でかなり払拭されたのではないだろうか。
是枝監督はドラマの中で、原作にはない主人公キヨの親友の父親を登場させている。娘を心配して娘が暮らす置屋にやって来るシーンには、「花街を治外法権的ファンタジックなユートピアとしては描かない」という監督の強い意志も垣間見えた。
「伝統文化」だからこそ、花街で働く人たちは法律で保護されるべきだろう。一方、ドラマの中で美味しい食事を通して舞妓さんを守る主人公のキヨは、まさに法律を超える「守り神」に見える。

| 23.02.17

彌生コラボ

表参道のルイ・ヴィトンに先日、その意外性ゆえに日本人として世界で最も尊敬されるアーティスト草間彌生がヒューマノイドロボットで登場、異様なコラボレーションが時代を牽引するブランドのイメージに強烈なインパクトを加えた。パリのヴァンドーム、ニューヨークの5番街、ロンドンのハロッズとニューボンドストリートに続く5店舗目のパフォーマンスだ。
同時に発表されたモエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)の2022年の決算は、売上高が前期比23.3%増の791億8400万ユーロ(約11兆857億円)、営業利益は22.4%増の210億100万(約2兆9401億円)ユーロ、税引後の純利益は17.0%増の140億8400万ユーロ(約1兆9717億円)、と過去最高を叩き出した。
中でも「ルイ・ヴィトン」は単独売上で初めて200億ユーロ(約2兆8000億円)を突破し、力強い成長を見せた。フランス市場が前年比47.6%増、フランスを除く欧州は28.9%増、米国29.8%増、日本24.0%増と、いずれも大幅な2ケタ成長だ。ユニクロの売上は前年比7.9%増の2兆7000億円であるから、ラグジュアリーブランドが成長率と売上げでユニクロを上回ることになり、異常とも言える事態だ。
ベルナール・アルノー会長兼最高経営責任者(CEO)は投資家向けの電話会議で、コロナ禍や地政学的状況の厳しい困難な時期にありながら、LVMH は2019年以来シェアを拡大していると語り、自社製品の「品質と価値」を強調した。現在73歳の彼自身もフォーブスのリアルタイム世界長者番付でトップの座に君臨している。ラグジュアリーブランドのオーナーが並いるIT長者を差し置いて世界一のビリオネアだというのが現実だ。
ルイ・ヴィトンが草間彌生とコラボするのは10年ぶりだという。今回のコラボは、ルイ・ヴィトンの高品質なアイテムが、ペイントやシルバーの球体によって表現された草間作品の“水玉”と共鳴し、さらなる高みへと導いている。そもそもルイ・ヴィトンとアートの関係は100年前から続いている。特に1988年以降はソル・ルウィット、村上 隆、ジェフ・クーンズなど著名な現代アーティストを招き、斬新なコラボレーションに取り組んで来た。
このコラボは現代アートがどれだけ凄い力を持つものかを示すと同時に、クレディ・スイスのウェルスレポートが示すように、世界の分断と貧富の差がコロナ禍で更に拡大し、今やトップ1%の富裕層が人類の富の5割以上を握る現実が固定化したことを改めて知らしめたと言える。

| 23.02.10

無免許時代

今年7月1日の道路交通法改正によって、電動キックボードが免許不要となる。16歳以上なら利用可能でヘルメット着用も努力義務とのこと。頭の硬い日本の警察がよくここまで譲歩したとビックリした人も多いだろう。
電動キックボードは現在導入試験中で、原付バイク(原動機付き自転車)と同じく運転免許証、ヘルメット着用、自賠責保険加入、ナンバープレート装着が義務付けられているが、この改正で「特定小型原動機付き自転車(特定小型原付)」という区分に入り、免許が要らなくなる。
ただし最高時速は20km以下に制限され車道・自転車レーン・路側帯走行が義務付けられる。自賠責保険への加入、ナンバープレートの取得は現在と変わらず必須だが、最高速度を6kmにすると、識別灯火を条件に歩道通行も可能になるとのこと。クルマ運転者と歩行者にとっては恐怖だが、電動キックボードの利用者にとっては“めちゃくちゃ自由で便利”な法規だ。加えてこの4月から「レベル4」自動運転車の公道走行が可能になる。乗客が行き先を指定すれば、道路交通法に基づく免許証保持者が乗っていなくても、車載のAI自動運転システムがクルマを運転して目的地に届けてくれる。思ったよりも早くAI自動運転タクシーの時代が来るようだ。
自転車は道路交通法では「軽車両」と規定され、速度制限はないがクルマと同様に道路標識を守る義務がある。日本では電動アシスト付き自転車(速度制限24kmまで)も同じ「軽車両」で、これが足漕ぎ自転車感覚で全ての道を縦横無尽に走っている。一部歩道は制限されているが歩行者と同じ感覚で歩道車道お構いなし、一方通行逆走や子供を前後に乗せての歩道爆走も日常茶飯事だ。
今回の道路交通法改正は、世界に先駆けて「無免許時代の到来」を告げる快挙なのか暴挙なのか?クルマ運転車と歩行者にとって日本の道路が世界一危険な交通環境になったことは確かだ。世界一高度なAI自動運転プログラムが必要とされる。
先日、トヨタ自動車の社長が突然辞任した。退任の弁は「自分はクルマ屋だ。これからのモビリティはもっと若い人の感性で車を超えていかなければいけない」、とAI自動運転技術が支配する「無免許時代」の到来を示唆するものだった。
豊田章男社長は「運転の楽しさを失いつつあるモビリティ社会は、もはやクルマ屋が作るべき世界ではない」と言いたかったのだろうか。

| 23.02.03

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