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カムカム英語

NHKの連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」は、4月8日の放送が最終話だった。直後からSNSでは「カムカムロス」を訴える声が上がり、久々に“ロス感”を感じるドラマだったようだ。
「カムカムエヴリバディ」は3人のヒロインが、NHKの同名のラジオ英語講座で3世代に渡って英語を習得していく、言ってみれば「カムカム英語」がテーマのファミリーヒストリーだ。ルイ・アームストロングの「On the Sunny Side of the Street」が劇中で何度も流れるなど、朝ドラでジャズがすっかりお馴染みになった。
ドラマでは、日本が敗戦国として戦後米国の文化、特に英語とどのように対峙してきたのかが垣間見える。またドラマの主人公のように、本当にラジオ英語講座だけで英語が話せるようになるのか?という葛藤も残る。
戦後の英語教育は一般的には失敗と言われ、NHKが背負っている一種の負い目?にもなっている。戦後80年近くたっても残るトラウマかもしれない。米国が何故か被支配国日本に英語を公用語として押し付けなかった故でもある。
世界的には旧宗主国の言語を強制することが、従属国を収めるのに大いに役に立っていたケースが多い。それに対し米国は日本語の高い文化性をリスペクトし、英語を使わずとも復興を成し遂げると踏んだのかもしれない。言い換えれば日本人が英語の必要性をあまり感じない戦後だったのだ。
ところが最近の中国の経済発展から、中国人や最近帰化した“新日本人” 特に中華系移民である中国人とのコミュニケーションはそうではない。国際語がいかに重要か、ビジネス分野ではヒシヒシと伝わってくる。そのような中で最近、中華学校の人気がすごいことになっているようだ。
中華学校はグローバル社会に目を向け、「日本にいながら国際人を育成する」という明快な教育方針で、中国語と日本語だけでなく英語にも力を入れたトリリンガル教育を実践している。その方針への評価は非常に高い。
日本は、歴史的には中国の政治経済文化の傘下にあり、言葉も漢字を当て字にして読み書きをしてきた国だ。途中朝鮮半島を経て仏教や儒教の影響を受けるが、文化流入のルーツは常に中国にあった。華僑文化を通じて“国際語” に関心を持つのは自然の流れだろう。日常生活で不要なことを習うのは退屈だが、必要となれば別だ。
これからの80年、日本人の国際語習得率はどうなっていくのだろうか?「中華学校を出ると英語も身につく!」という皮肉なことになりそうだ。

| 22.04.22

元服

改正民法が4月1日に施行され、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられた。同日までに20歳に達した人に加え、約200万人に上るとみられる18歳19歳も一斉に成人となった。
成年年齢を下げることにより社会の活性化を後押しするというのが改正民法の大義名分だが、実際には新成人に選挙権が与えられることが最も大きな変化であろう。飲酒と喫煙が許されるのは今まで通り20歳からだから、経済波及効果は限定的だ。
成年年齢を20歳と定めたのは明治政府だが、江戸時代までの日本では15歳ぐらいで大人になる「元服の儀式」が行われていた。「元」は首(=頭)、「服」は着用を表し、「頭に冠をつける」という意味で「加冠」とも「初冠(ういこうぶり)とも言われる。
男子の場合は、それまで頭頂をあらわにしていた男児に成年を象徴する冠をつけさせた。髪形や服装を改めることで、社会的に一人前になったことを示すのだ。「元服」には社会に養われている立場から社会を支える側に回る、と言う意味もあったようだ。女性成人にも「裳着(もぎ)」という儀式があり、結婚できる大人になったことを意味していた。
ちなみにOECD(経済協力開発機構)が2016年に行った加盟国の成人年齢調査によると、35の加盟国のうち32の国が成人年齢を18歳と定めている。イギリスではヨーロッパ諸国の中でも早い1960年代に、それまで21歳だった成人年齢を18歳に引き下げた。1974年にドイツとフランス、1975年にはイタリアなどが18歳に引き下げている。アメリカでもベトナム戦争がきっかけとなり、1972年のカリフォルニア州とミシガン州を皮切りに、徴兵年齢に合わせて順次成人年齢が18歳に引き下げられた。同時に選挙権年齢も18歳に引き下げられるなど、これには政治事情が深く関係していると言えそうだ。
今回の改正民法がこの夏の参議院選挙にどう影響するのか興味津々だ。日本では投票率がドイツのように60%を超えると、浮動票=民意の反映で政権与党が崩壊するとも言われている。その結果を恐れてなのか日本の政治家は2世議員と芸能人崩れが多い。政権与党がおニャン子クラブからの立候補者をもっともらしく記者会見で発表するとは情けない。
若者の政治参加を利用して有名人で議席増を狙うとは本末転倒、寂しい限りだ。戦後80年近く経ってもアメリカから真の自立を獲得できない、大人になりきれない国。
「元服」が本当に必要なのは国としての“日本”なのではないだろうか。

| 22.04.15

野営

国内のキャンピングカー市場が10年以上拡大し続け、販売台数を伸ばしている。日本RV協会発行『キャンピングカー白書2021』によると、2020年のキャンピングカー販売総額(新車・輸入車・中古車を含む)は、過去最高の約582億円となった。新車出荷台数は約8100台、保有台数は過去最高の12万7400台だ。2005年の販売台数約3500台、保有台数約5万台と比べると、15年で市場が3倍に迫る成長を遂げたことになる。
キャンピングカーは2008年に起きたリーマンショック時でも売り上げを落としておらず、最近ではキャンプと言えば「野営」、と大人の秘密基地や家族のふれあいの場として不況知らずだ。新型コロナ禍でキャンピングカーの使い道もさらに広がった。遊びに使うだけでなくリモートワークにも使え、災害のときの避難場所にもなり、更には新型コロナ隔離部屋という新しい利用法も想定に入ってきた。
リモートワークとデジタルデトックス、そのミックスユースの自由さが現代のライフスタイルにフィットしているのだろう。都心で“野営感覚“を味わう「キャンピングオフィス」も今人気だという。野外やオフィス内にキャンプ用テントを設置し、そこで会議やプレゼンテーションを行う。一人当たり1時間100円、サウナ付き、瞑想ルーム付きシェアオフィスやコワーキングスペースが広がりをみせる中、キャンプ用品大手のスノーピークグループがサービスを開始すると、3年足らずで全国400社以上に広まったそうだ。
渋谷のビル街ど真ん中にテントが張られ「野営」する。明治通り沿いの複合施設「渋谷キャスト」の広場でも法人向けオフィスとして時間貸ししている。いつもとは違った環境でブレインストーミングや社員同士の関係性を向上させる、などの目的で使われているそうだ。解放的でリラックスでき新しい発想が生まれるメリットがあるとのこと。
2年間のコロナ禍で “野営感覚”が身につくと、これまで当たり前だった「通勤」という概念も完全に崩壊していきそうだ。
「社員と社員」「社員と会社」の関係に新しい”自立“という距離が生まれている。ダメ押しはウクライナ問題だろう。たった1ヶ月で、近代都市だったキーウやマリウポリが廃墟と化すのを世界は目の当たりにした。NATOも米国も国連も武器は売っても日々の生活を守ってはくれない!ことがハッキリしたのだ。
仕事も家庭も“野営”を備える時代が来たということなのだろうか。これからはビデオ会議の裏で子供が走り回り、家にいてもキャンピングカーで生活し、いつでもどこでも“生き延びる”という備えが日常になっていくだろう。

| 22.04.08

バイオホーム

建築技術における次の開拓領域は「建物を自然の一部にする」ことだと言われている。気候変動の危機に直面している中で、根本的な解決策として自ら自然環境を構築し、その中で暮らす「バイオホーム」を研究しているチームがある。
例えば、コロラド大学ボルダー校のエンジニアチームだ。彼らが開発した生きた微生物を使った建築材料「バイオマテリアル」は、3世代約100年にわたって増殖し、新陳代謝を繰り返しながら建築物を支えて行くことができるそうだ。
砂とゼラチンを混ぜたものにバクテリアのコロニーを加えると、生きて呼吸をする新たな建築材料「バイオマテリアル」が誕生する。これは“生物”なのでゆっくりと繁殖する。現代建築におけるブロックや石などの接着に用いると、しなやか且つ強固な建築材料となることが分かっている。その他、菌糸を使った「成長し続ける家」、バクテリアの力で「自己修復する壁」など、バイオ技術を駆使した「バイオホーム」が続々と研究対象になっている。
一方IT技術を駆使した「スマートホーム」も今大きな注目を浴びている分野だ。こちらは一足先に実用化されているが、スマートスピーカーにAI音声アシスタントが搭載され、家電製品からキッチン、窓、バスルーム、そして鍵などセキュリティに関わる全てを一元的に管理する家だ。話しかけるだけで家のあらゆるものがコントロールでき、別名「コネクテッド・ハウス」とも呼ばれる。IT業界、家電業界、不動産業界が入り乱れる先進的戦略事業分野だ。
ロボット掃除機、iRobotルンバも「コネクテッド・ハウス」の一部だ。部屋を隅々まで掃除しているように見えて、実は部屋の間取りからユーザーの生活情報全てを収集し、スマートスピーカーに送信しているのだ。便利だけれど、ユーザーは生活行動をすっかり把握され、コントロールされる!?IT産業は皮肉なことに大規模な管理社会を作り出しているともいえる。
先日政府が発した“電力需給ひっ迫警報”は、IT化された「スマートホーム」が安定した「ベースロード電源」あっての物種だということを印象付けた。スマート化された「バイオホーム」は、自然エネルギーによって「ベースロード電源」を確保するので確実だ。日本でも「負ける建築」を著した建築家隈研吾が、高知県梼原町などで実験している。
江戸時代の伝統的木造建築が生きているかの如く”漆喰“によって守られたように、現代における「バイオホーム」も、成長し、呼吸し、さらには繁殖する。
「バイオホーム」の原型は、意外にも既に江戸時代の日本にあったのかもしれない。

| 22.04.01

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