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チャレンジング

今週、今年最後の日銀政策委員会が開かれ植田総裁の会見があった。別段驚く内容ではなかったが「粘り強く緩和政策を継続していく」と従来と同じ意見だった。理由は2%の物価目標がまだ達成されたとは確認できないというものだった。途中、前回の「チャレンジング」発言の意味を聞かれ、一瞬薄笑いを浮かべたのが不気味だった。その真の意味を理解した記者はいただろうか。直後にドル円相場は円安に振り戻した。しかし米国FRBが来年は利下げ方向へ市場を牽引していくとハッキリ示唆しているので、日銀総裁が何を言おうと日米金利差は縮小し、為替は穏やか(劇的?)に円高に推移していくと思われる。
先月、総務省はマイナンバーカード交付率を発表した。現在76.8%だそうだ。9月に申請を締め切った普及策「マイナポイント」事業には、対象者の81%(7556万人)が参加申請したらしい。付与される“飴”に使われる国費は1兆円を越えるそうだが、肝心のマイナ保険証や公金受取口座の登録は見送った人が多かったようだ。この普及策の背後にある銀行口座との紐付けを多くの国民は警戒している。自民党が、透明性を重んじる政治資金規正法を警戒して現金を重視するのと同じ心理だろう。
日本の大企業は過去30年間、生産基地の海外移転でGDPに反映されない膨大な海外資産を形成してきた。それを後押ししたのは長期にわたる日銀のマイナス金利政策だ。国を挙げて低金利の円キャリー投資をして来たようなもので、円安ドル高で海外からの配当は円建てで膨大な額になっている。一般国民の購買力は世界から貧しいと言われるほどに落ちたが、「家畜小屋国家日本」の企業は丸々と太っている。
コロナ後日本に殺到する外国人観光客は、30年近く変わっていない低物価に驚き急激に進む円安に狂喜乱舞?し買いに走っている。今や上場企業の株価もドル建てではバーゲンプライスだ。その日本株の価値を効率よく取り出すには、株価の上昇を見極め円高の到来で売り抜くというオーソドックスな手法が有効だ。これはバブル崩壊前夜の既視感のある光景と同じだ。
そう考えると日銀総裁の会見は実は意味深である。「物価目標が未だ達成されていない」とは裏を返せば「まだ刈り取るのは早い」とも読み取れる。そして30年前と今回の最大の違いは、日銀は今や日本株の最大の投資家であることだ。外国ファンドがそれに続く。彼らは最大利益を得られる売りのタイミングを狙っていることを忘れてはいけない。
2024年はバブル崩壊を乗り越えて丸々と太った日本企業が、再度解体されていく不気味な「チャレンジング」の年になるのだろうか。

| 23.12.22

7億ドル

米国プロ野球メジャーリーグ(MLB)で大谷翔平選手がドジャースと10年7億ドルの移籍契約をしたというニュースに、日本では野球ファンならずとも大いに盛り上がっている。連日の報道を見ているとアメリカでも日本同様に盛り上がっているように感じるが実際はどうなのだろうか?
アメリカで使用されている、ブランド・有名人・企業またはエンターテインメント製品の親しみやすさと魅力を測定し数値化する「Q Score」によると、2022年調査では、二刀流大谷の6歳以上のアメリカ人を対象にしたFamiliarity(認知度)はたったの13%だったそうだ。
確かに大谷翔平は米国野球界で前人未到の偉業を成し遂げたが、世界人口80億人時代に全世界のスポーツ地図において野球がどのような位置づけにあるかを知っておいて損はないだろう。
米国で今、最も人気があるスポーツは実は野球ではなくアメリカン・フットボールだ。米国世論調査会社ギャラップのデータによると、米国民が「一番見たいスポーツ」は2017年調査でアメリカン・フットボール37%、野球9%と4倍以上の差がついていた。バスケットボールですら11%と野球より多いのだ。米国4大プロスポーツと言えば、アメリカン・フットボール(NFL)、バスケットボール(NBA)、ベースボール(MLB)、アイスホッケー(NHL)の順と言われる所以だ。
NFLのチーフスと10シーズン総額5億300万ドルで契約を結んだクォーターバックのマホームズが、「米国史上初の5億ドル超え」と騒がれていたが、日本人は誰も知らない。日本の選手が海外で活躍するのを見るのは喜ばしいことだが、自己満足に陥ってはいけない。
世界的な人気スポーツの傾向を見ても、野球はヨーロッパでは間違いなくマイナー、アフリカ・中東や極東を除くアジアでの存在感は無いに等しい。それに引き換えサッカーは全世界をカバーして競技人口も圧倒的多数だ。大谷の契約金は総額では世界トップに見えるが、メッシがバルセロナ(スペイン)時代の2017年に結んだ4 年5億5,500万ユーロは年俸ベースでは大谷の約2倍になる。
それにしてもNHK(国営放送?)がBS朝のゴールデンタイムにMLBの試合を毎日中継放送するのは異様だ。日本におけるMLBの放映権をほぼ独占し、大谷選手の活躍をLIVEで見たければ受信料を払え!と言うことなのか?
受信設備を設置した全世帯に支払い義務があるNHKの莫大受信料を使ったMLB放映権の獲得と、それを認可する総務省の共同作戦を民業圧迫と言わずして何と言いうのだろうか。

| 23.12.15

睡眠旅行

良質な睡眠のために旅をする「睡眠旅行(スリープ・ツーリズム)」が世界で注目度上昇中だ。
旅行は普段行けない場所を訪れたり、知らないものを食べたり、非日常の体験を楽しむことが醍醐味だが、そうした体験を追い求めるために睡眠の時間を削ってしまうこともある。そして旅行から帰ってくる度に「本当に休暇を取ることができたのだろか?」と自問してしまう。
2022年パークハイアット・ニューヨークは、睡眠を促進するアメニティで満たされたスイートルーム『Bryte Restorative Sleep Suite』をオープンさせた。人工知能(AI)を搭載したマットレスを使ったベッドを売りにしている。
英国のベルモンド・ホテルでは「眠りのコンシェルジュ」が横向きや仰向けの希望に応じて枕の相談を受け、就寝時に適したお茶のサービスなどもあるという。またロンドンには初の睡眠重視型ホテル『Zedwell Piccadilly Circus』が、ポルトガルには『Hastens Sleep Spa Hotel』が相次いでオープンしている。
中でもローズウッド ホテルズ&リゾーツは、「休息の促進 」を目的とした『Alchemy of Sleep』コレクションを2022年に立ち上げて注目される。健康における睡眠の重要性を認識し、運動、マインドフルネス、栄養、静寂をセットに入念に組み立てられたプログラムで、ホリスティックな逃避行を可能にする20軒の物件がスタートしているのだ。
ゲストは1泊の「ドリームスケープ」、または2~5泊に延泊してさらに深い眠りを求める「スリープ トランスフォーメーション」を選択できる。プログラムの補完として、ブレンドされたエッセンシャルオイルやお茶、リネン用アロマミスト、シルク製アイマスクなどで「キュレーションされた睡眠ボックス」が各部屋に備わっているそうだ。
かつてリトリートプログラムが充実したスパリゾートが人気を集めたが、朝から晩まで様々なリラックスメニューが組まれ、それらは時間で管理されたものだった。
ヒルトンホテルのウェブCMで「食事時間から入浴時間、チェックアウトの時間まで、立て板に水のごとく説明する日本旅館にドン引きしたゲストがヒルトンの高級ブランドホテル「CONRAD」へ瞬間移動するというものがあった。
今年のヒルトンのキャッチフレーズは「とまるところで、旅は変わる。」だ。世界最大級のホテルチェーンも従来の旅の形とは真逆な「睡眠の質」に気づきはじめた。
良い休暇とは、「良い睡眠」あってのことなのだ。

| 23.12.08

紅旗N701

中国の習近平国家主席は、米国のバイデン大統領との首脳会談およびAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議に出席するため、11月14日からサンフランシスコを訪れていたが、今回主席専用車「紅旗N701」の持ち込みが話題を呼んだ。
「紅旗」は中国最初の国産自動車メーカー第一汽車が生産する、要人専用リムジンの高級車ブランドだ。1958年に毛沢東のために最初のモデル「紅旗CA72」が生産されて以来、長年にわたって中国の要人たちを乗せてきた。現在はCA72の流れを汲む保守的な丸目の「Lシリーズ」、そして伝統を受け継ぎながらも一昨年日本でも販売が開始された、よりモダンな「Hシリーズ」を展開している。「N701」は「Lシリーズ」をベースにした装甲車両だ。
今回サンフランシスコに持ち込まれた紅旗「N701」は、ロールスロイスでファントムなどを手がけたチーフデザイナー、ジャイルズ・テーラー氏を2018年に引き抜き、紅旗の設計責任者(第一汽車副社長も兼務)に抜擢して作り出したものだ。伝統的な紅旗のフォルムを保ちつつ、よりモダンな外観となっている。一見ロールスロイスかと見紛う出来の良さで、首脳会談後に専用車に乗り込む習主席を、車好きのバイデン大統領は「美しい!」と褒めて見送ったそうだ。
一方バイデン大統領が乗る「走るホワイトハウス“ビースト”」は、米国製キャデラック「XT6」セダンをカスタマイズ、トランプ大統領時代の2018年にデビューしたものだ。窓ガラスの厚さ13cm、自重8tの超防弾仕様で、「戦車のフレームに乗ったキャデラック」とも称される。
米中のトップが外交現場にそれぞれの専用車を持ち込んだ時点から、密かに国力を誇示する戦いが始まっていた。日本の岸田首相は国家主席ではないため米国政府当てがい扶持の車で移動していたが、6年ぶりのアメリカ訪問となる習主席に対する超厳戒態勢の影響を受けて、日韓首脳会談に向った車は渋滞でスタックしてしまった。
咄嗟の判断で首相は車を降りて歩いたそうだが、G7の首脳が車を降りて丸腰で歩くとは、段取りの悪さを通り越して日本政府のリスク管理意識が問われる。首相自身のセキュリティを考えると「歩く」という選択肢は普通無いだろう。しかも相手が韓国尹大統領であればいつでも会える相手ではないか。
岸田首相には日本国トップとしての自覚がなく、国民に向けて只々自分も世界の要人と会って“外交”をして来たという“写真(絵)”が欲しかっただけなのだろうか。

| 23.12.01

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