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ポリネーション

「もしも地球上からミツバチが消えたなら、人類は4年で滅亡するだろう」とアインシュタインが生前警鐘を鳴らしたという。真偽は別としても、ミツバチが担っている「ポリネーション(花粉媒介)」の役割については意外に知られていない。
近年、ミツバチなど昆虫・鳥類を含む自然界のポリネーター(送粉者)を取り巻く状況は急激に悪化しているようだ。ミツバチの世界的減少も懸念されている。日本の養蜂環境はネオニコチノイド系農薬の過剰利用で蜜源植物が減少するだけでなく、ミツバチが帰巣本能を失い、結果採蜜量が頭打ちになっているそうだ。ミツバチのポリネーション仕事量を人件費に換算すると、毎年110億~150億ドルに相当すると米農務省(USDA)が見積もっている。
ポリネーターがいなくなると受粉できなくなり農作物の収穫量は落ち込んでしまう。市場での野菜や果物の値段は大きく影響を受け消費者への負担となって跳ね返ってくる。農薬をはじめ人間本位で積み重ねてきたさまざまな農業近代化のツケがミツバチの減少となって回ってきているようだ。
こうした負の連鎖を知ろうと、『ミツバチサミット2023』 (実行委員長 筑波大学横井智之助教授)が、「ミツバチとその仲間たち、つなぐ、つながる、つないでいく」をテーマに、11月18日から21日の3日間つくば国際会議場で開催される。2017年から今年が4回目になる。
このサミットはミツバチを通して地球環境から食の未来までをも考えるもので、ポリネーターに関わる専門家や研究者、農家、企業に加え関心を持つ子どもから大人まで幅広い人々が集まるそうだ。
環境の異変に敏感なミツバチの消失はその生息地の生態系の崩壊を警告しているとも言われる。世界各地で発生しているポリネーターの消失現象は、より大きな自然界の異変の前触れかもしれない。
5年前から自治体に交付されている「森林環境整備の補助金」はその半分近くが現場で使われずに余っているというのに、来年4月には「森林環境税」が国民1人当たり1000円、住民税に上乗せされることが決まったそうだ。補助金は適正に使われず、無くなる「復興特別税」に代わって新税「森林環境税」が課せられる。
首相は花粉症らしいがこれでは増税メガネと呼ばれても仕方ないだろう。おまけに「今年の税収が予想よりいい」とはとんだオチである。

| 23.10.27

戦場のスターリンク

10月7日、パレスチナ暫定自治区ガザ地区を実効支配するハマスが2000発を超えるロケット弾でイスラエルへの攻撃を仕掛けた。ネタニヤフ首相は政治基盤が弱かったこともあり、ハマスの攻撃を察知していながら先に手を出させたとも言われている。ネタニヤフ首相はこの好機を逃さず、即時に挙国一致内閣設立を宣言した。そして大規模な空爆でガザ地区を瓦礫の山に変え、30万人以上の予備役を招集し地上戦の準備を整えた。双方の死者数は瞬時に3000人を超え、壮絶な殲滅合戦に至った。
ロケット弾攻撃と同時にハマスはガザからイスラエル側に侵入し、開催中の音楽フェスティバルを襲撃、若者を虐殺して150人を超える人質を連れ去った。逃げ惑う参加者に銃弾を撃ち込みレイプして殺害する。生々しい画像が“X” (旧Twitter)上に溢れかえった。そこにフェイク動画も入り乱れ、いつ撮影されたものなのか、合成動画なのか、判断できないまま拡散され世界は混乱した。 “X”はやりたい放題の倫理観のない情報の戦場と化している。
米国マサチューセッツ工科大学の研究チームは2018年には既に「フェイク情報は真実の情報に比べ6倍から20倍速く、しかもはるかに広範囲に拡散する」との研究結果を発表している。イーロン・マスクがTwitterを買収した際、コンテンツモデレーション部隊を即解雇したのは、こういうSNSの特性をよく理解していたからだろう。これにより「Xは大衆煽動の武器として膨大な価値を持った」とも言える。民主主義を逆手にとって世界の民意をコントロールするために買収したとしたら、5兆円は安い!?
一方ウクライナ軍は過度にインターネット網に依存していたことから、クリミアへのドローン攻撃はスターリンク(衛星ネット通信網)をマスクが遮断したことで遂行できなかった。まさに「戦場のスターリンク」効果だ。武器が大容量インターネットインフラを必要とすることを最も早く察知していたのもマスクだったと言える。
スペースXが運用している衛星インターネットアクセスサービス、“スターリンク”の実態は実は余り知られていない。現在地球の周回軌道上には8000基近くの通信衛星が存在するが、その内4500基超はマスク率いるスペースXが打ち上げた通信衛星だ。わずか5年の間に地球上をくまなくカバーし、高速大容量のインターネットへのアクセスを可能にしている。
テスラで巨万の富を手にし、“X”で大衆を扇動し、“スターリンク”で戦争をコントロールする。イスラエルとハマスのどちらが勝つにしても、それはマスク次第ということか?

| 23.10.20

大阪万博50年

日本は1968年にGDPで世界第2位に上り詰め、その勢いで1970年に「人類の進歩と調和」をテーマに国の総力を挙げて大阪万博を開催し大成功に導いた。そして想像だにしなかった6420万人以上を動員し、世界の万博史上初めて事業収益をあげている。
それから半世紀、コロナ禍をなんとか乗り切った大阪は、再び2025年の大阪・関西万博を目指している。日本経済がダウントレンドの中「いのち輝く未来世界のデザイン」という今回のテーマはインパクトが無く、博覧会協会の来場者数目標も2820万人と前回の半分である。この半世紀に世界人口が80億人と倍増していることを考えると、実質4分の1の動員に止まる。そこへ来て資材高騰に会場である夢洲の地理的「悪条件」も加わり、参加153カ国地域のパビリオンのほとんどが未だに未着工という異常事態を招いている。
1970年の大阪万博は、モダニズムの巨匠・建築家の丹下健三をプロデューサーに指名し「人類の進歩と調和」という時代を俯瞰したテーマを設定した。そこに岡本太郎の太陽の塔の提案が保守的な政府の姿勢を打ち破り、技術文明の進歩を示すだけでなく、進歩が同時に自然や人間性を損ない様々なひずみをもたらすことを示した。更にはこの問題をどう解決して「調和」のある「進歩」を実現するかが重要だと問いただして割り込んできたのだ。
残念ながら2025年の大阪・関西万博は、プロデューサーの問題意識の提起(=テーマ)とメッセージ性に欠け、発信力が足りない。世界博覧会の成否は開催国の政治・経済の状況にも左右されるが、全人類が直面する困難に対する洞察力と問題解決へのリーダーシップが問われているのだが・・・
未だにゼネコンを利用した金のばらまきを繰り返しているのでは、先進国の地位を失う可能性が高い。この10年間に一人当たりGDPで英独仏に抜かれ、つい最近はイタリアにも抜かれ、いまや日本はG7の最下位だ。その間にアメリカの一人当たりGDPは日本の2.1倍(8万9546ドル)になっているのだ。
アベノミクス・異次元金融緩和が何ももたらさなかったことがこれほどはっきりしていても、まだ同じことをやり続けるのだろうか?これでは万博はその使命を終えた「オワコン」同然だ。
世界に恥を晒す前に、隈研吾の「負ける建築」的なアンチテーゼでも下敷きに、ネット社会が進化して情報も技術も瞬時に共有できる世の中で、物理的建設工事のいらない「AR/VR万博」を提唱してみてはどうだろう。

| 23.10.13

フェアプレイ

第19回アジア大会が9月23日から中華人民共和国杭州市で開幕されている。2018年ジャカルタ大会以来久しぶりとなる朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)、通称「北朝鮮」単独での国際試合への参加とあって何かと話題になっている。
北朝鮮選手団は、前回は韓国と合同チーム「コリア」を組み揃いのジャケットを着て入場、金メダルも獲得した。こうした南北融和と北朝鮮の非核化への期待が高まり始めた時とは一変、現在朝鮮半島は尹大統領の金主席への強行スタンスによる分断が進み、南北チーム間の協力を模索する動きもなくなった。
そうした状況下でのサッカー男子準々決勝は、日本代表が北朝鮮代表と対戦し2-1で勝利した。しかし試合は北朝鮮選手によるラフプレーが頻発し、試合終了後には判定を不服として主審に激しく詰め寄る姿が見られるなど、「とても国際大会に出られるレベルにない」「スポーツをやる資格なし」といった厳しい意見が飛び交うこととなった。
「前代未聞の暴挙連発」と韓国など西側メディアが驚愕の声を上げる中、中国メディア「捜狐」は「北朝鮮チームの果敢に戦う姿勢には〝タフガイ・サッカー〟が反映されており、わが国の代表が見習うべきお手本である」と好意的に伝えた。低迷する中国サッカーには、北朝鮮のようなラフプレイもいとわない闘争心が必要であるという発言は、国と国との戦いにおける素直な気持ちでもあろう。
北朝鮮代表の態度は褒められたものではないが、国際大会での勝利が国力や選手個人の待遇に大きく影響する国が多いことを日本は理解しておくべきだろう。韓国ですらアジア大会で金メダルを獲得すると約2年間の兵役義務が免除される。代表選手の勝敗への執念の強さは、これらのメリットによっても大きく影響されている。脱北した元朝鮮労働党幹部は、北朝鮮では「国旗を掲げて争うのはスポーツと戦争の二つしかない」と常々言い合っていると語る。
憲法で建前上戦争放棄し、国際政治感覚に乏しい国になってしまった現在の日本では、単なる“スポーツマンシップ”とか“フェアプレイ”が重要視される。日本国民の論調は概ねそうした精神を持ち合わせなければ国際大会に参加する資格がないとでも言いたげだが、世界ではむしろ少数派かもしれない。
奇しくも今大会サッカーの決勝戦は、男子が対韓国、女子が対DPRK(北朝鮮)となった。韓国は北朝鮮にフェアプレイでお手本を示せるだろうか、北朝鮮のリベンジを受ける女子チームはさらに熾烈な戦いになるだろう。

| 23.10.06

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