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脱薄利多売

2018年度版ものづくり白書によると、過去1年間で日本国内に生産拠点を戻した海外進出企業は、全体の14.3%にのぼるとのことだ。プラザ合意後の円高を背景にヒステリックに進んだ海外進出にも、Uターン現象が起こってきているようだ。2年前の調査と比較すると2.5ポイントの増加だ。
進出先の国の比重は、中国・香港が62.2%で突出し、続いてタイの10.8%、ベトナムの6.3%だ。
進出先の経済発展とともに急速に人件費が上がることは折り込み済みだ。しかし、ローカル富裕層の購買力も急速に上がり、高質なMade in Japan 製品を希望するマーケットが顕在化している要素は見逃せない。現地生産では富裕層マーケットが納得する高付加価値商品を作りきれないというのだ。
アジア地域の賃金が高騰しているといっても、絶対値ではまだ日本の方が高い。しかし生産性やクォリティ、嗜好性などを考慮すると、日本国内生産の相対的競争力が増してきている。ローカルマーケット向け“薄利多売モデル”には限界が見えて来たともいえる。
一方、アジアで超高付加価値にシフトして成功しているのが、ドイツと北欧各国だ。ドイツのGDPに占める輸出の割合はいまだに高く、なんと46.1%、スウェーデンも45.7%だ。日本の18.3%は大きく見劣りする。
ドイツや北欧は高付加価値製造のために国内に高質な雇用を保ち、設備投資にも注力している。国内製造を高付加価値輸出ビジネスに特化させ、現地生産による価格競争商品とはっきり差別化している。
ところで「OECD経済審査報告書2017年度版」に掲載されている「国別の相対的貧困率」によると、日本は主要7カ国(G7)で米国に次いで貧困率が高い。これは国内産業を軽視して海外進出した結果、国民が相対的に貧乏になってきたことを示している。
「日本には貧困層はあまりいない」と思っている人が多いようだが、21世紀の日本のものづくり産業が海外進出で薄利多売を続ける限り、日本の相対的貧困率は上がり続けることを肝に命じたい。
ホンダの2020年のF1レースは、久しぶりに良い成績を期待できそうだ。しかしF1勝利が販促になる高付加価値商品を、ホンダは今どれだけ持っているのだろうか?NSXは僅かしか売らない、日本国内販売はほとんどが軽自動車だ。
トヨタは人気のアルファードを現地生産せず、アジア・中国で2000万円を超える価格で輸出車として売ることを発表した。日本での値段の4倍以上だが、いい判断だと思う。
「高いけれど日本製は素晴らしい」という脱薄利多売ビジネスモデルが、21世紀のものづくり日本を救うだろう。

| 20.02.21

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