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女性の幸福度

日本マクドナルドホールディングスは3月19日、サラ・カサノバ代表取締役会長が「家族との時間を大切にしたい」との理由で26日の株主総会で退任すると発表した。カサノバ女史は2013年に日本マクドナルドのトップ就任以来、困難を乗り越えて手腕を発揮し昨年度は史上最高益をあげるまでに業績を回復させた。いま最も成功した女性経営者の1人だ。同社の8日付の株主総会招集通知にはカサノバ氏の再任案が提案されているので、この10日の間に会長職も退任しカナダに帰ることを決意したようだ。「女性の幸福度」とは何なのだろうか?
3月8日の「国際女性デー」を前に、英誌エコノミストは経済協力開発機構(OECD)に加盟する38カ国のうち29カ国を対象に「女性の働きやすさ」を比較し、日本を2023年27位にランク付けした。またスイスのジュネーブに本部をおく世界経済フォーラム(World Economic Forum)から毎年6月に発表される「世界のジェンダーギャップ指数ランキング 」23年版では、対象の146カ国中日本は過去最低の125位に後退している。
一方国連開発計画 (UNDP)が作成するジェンダー不平等指数(GII; Gender Inequality Index)23年度版では、日本は162か国中24位と悪くない結果だ。更には3月20日「国際幸福デー」に発表された国連「世界幸福度ランキング」でも143か国中51位とまあ幸福な方らしい。ちなみに7年連続で1位となっているのはフィンランドだ。ランキング結果は構成する指標によっても大きく変わる。どうやらG7は日本の「女性の幸福度」はまだまだだと言いたいようだが、正直な印象をカサノバ女史に聞いてみたいものだ。
日本で“主婦(夫)”とは家庭を仕事より重んじる人か。圧倒的に主婦が多いが、彼女たちからは主婦が不幸だという声をあまり聞かない。それどころか「財布の紐を握り、外では亭主を泳がせ、内で支配する」日本流“主婦業”の真骨頂を発揮している。そうなると実際の日本女性の幸福度は「世界幸福度ランキング」に紐づけられないだろう。その証拠に、世界の社会科学者によって現在行われている国際プロジェクトの「世界価値観調査」(World Values Survey)によると、ジェンダーギャップがこれだけある男性優位の国で「女性の幸福度」が常に男性を上回るというのは、西洋的価値観では不思議なことらしい。
カサノバ氏はジェンダーギャップのある国で男性と対等に戦って疲れ果てたのか?日本特有の「女性の幸福」の秘密を知ってしまったのか?

| 24.03.29

TSMC

現代文明は半導体によって支えられているといっても過言ではないだろう。半導体無しでは最新のiPhoneも車も生成AIも実現できない。そして7nm以下の最先端半導体の92%を製造している台湾積体電路製造(TSMC)は、今や世界で極めて重要な存在である。
先月2月24日TSMCの熊本工場が遂に完成し、その投資額が1兆円(日本政府の補助金4760億円)を超えて世間を騒がせた。しかしこれはまだ序章に過ぎないようだ。TSMCは当初台湾以外に半導体受託製造(ファウンドリー)施設を建設する気はさらさらなかったようだが、一転して米日独の3か国に進出することを決めた。米国が厳しすぎる対中輸出規制「2022・10・7」を発表し米中の半導体摩擦が究極まで高まったため、米国の安全保障上早めに西側同盟国(米日独)に設備分散させる判断となったわけだ。
現在米国ナスダック市場を牽引している半導体大手エヌビディア(NVIDIA)は、GPU(グラフィックスプロセッサユニット)を企画開発するファブレス企業だ。1993年の創立以来一貫してGPUを手掛け、今や生成AI開発やデジタルツインといった分野で全米トップの企業だが、半導体製造はTSMCの技術に完全依存している。
1980年代まで日本の電気メーカーは「日の丸半導体」で世界を席巻し、ジャパン アズ ナンバーワンと持ち上げられていた。しかし設計から生産まで一貫して手掛ける垂直統合型だったことが災いし、半導体調達リスクもを回避できず凋落を招いてしまった。一方TSMCの創業者張忠謀は、ファブレス企業が設計した半導体の受託製造だけを担う「ファウンドリー」というビジネスモデルに集中した。こうした水平統合型への発想が半導体製造でのパラダイム転換を可能にしたのだ。
台湾は九州ほどの面積に約2400万人が住む小さな島だが、今や文明の未来にとって超重要な国になりつつある。そのためかあらゆる有事に備える姿勢が髄所に見られる。シェルター(防空壕)を全土に10万カ所以上完備、電線の地中化率も98%(東京7%、大阪5%)に達している。
台湾にとっての有事は対中国だけを言うのではない。「産業の米」と言われる半導体産業をあらゆる災難から守るという覚悟だ。災害が起こるたびに「想定外」を繰り返す日本とは大違いだ。
TSMCの日本進出の価値は半導体ファウンドリー技術獲得にあるのではなく、自立した国家として「産業の米」を守る“責任感”を学ぶことにある。

| 24.03.22

ファストパス

東京ディズニーリゾートでは、人気アトラクションの待ち時間を少なくするサービス「ディズニー・ファストパス」が昨年まで無料で導入されていて好評だった。しかしコロナ禍を経てそのサービスに替えて、追加料金を払うことで長蛇の列に並ばず入場できる特別なパス「ディズニー・プレミアアクセス」(一人1回1500~2500円)がスタートしている。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでも同様のサービス「ユニバーサル・エクスプレス・パス」が有料で始まった。
これらは限られた時間内にアトラクションを有効に体験したい人向けに、追加料金で便宜を図ろうというものだ。実質的には外国人旅行者の購買力に合わせた苦肉の策で、二重価格での値上げの実施である。それでも海外からの来園者には特別感もあって人気だという。
コロナ禍を経て回復傾向にあるインバウンド観光客の多くは、本国でのインフレと日本の円安の恩恵で、購買力が飛躍的に上がっている。そこで「コスパ」よりも限られた時間を有効に使う「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視する傾向が強くなってきている。これにより実質料金が需給を反映して時として2倍にもなることも珍しくないようだ。
「タイパ」重視のサービスは、最近飲食業界でも登場している。これまで何時間も並ばなくてはならなかった有名行列店が、追加の手数料を支払うことで並ばずに確実に入店できるようになってきた。世界中のレストランの顧客インターフェースを開発しているTableCheck社が、今年2月から始めた「TableCheck FastPass」というサービスだ。先ずは人気の6つのラーメン店からスタートし、年内には300店舗への導入を目指しているそうだ。因みにサービス料金は390円から500円だとか。
日本はバブル崩壊以降、実質賃金の低下が長期にわたって続くデフレに陥っていた。外国人観光客のこの購買力を利用した「タイパ」への対応は、サービスと価格のバランスを取り戻すきっかけになりつつある。日本経済は、限られた時間内にどれだけ多くの効果や満足を得られるか?という「タイパ」の価値観を、今まで値下げ要素だけに使い、価格に転嫁する知恵を絞ってこなかった。しかし遂に購買力に応じた二重価格が成立する環境が整ってきたということなのだろう。
ところでディズニーデートにおいて、「待つ」ということは別の意味で相手を見極めるファクターだという考えが根強く残っているのも日本だ。「ファストパス」を買いながら、一方で「待ち時間は恋人たちの“踏み絵”」と言うとは面白い。

| 24.03.15

オセアニア

2月19日、パリ・オリンピック出場をかけたサッカー女子のオセアニア予選決勝はニュージーランドがソロモン諸島代表と対戦、ニュージーランドが11-1で圧勝して本大会出場を決めた。オーストラリアと戦わずにオセアニア代表とは若干腑に落ちない。
地理的に「オセアニア」は太平洋諸国の大半を含みその範囲は広大である。しかし総陸地面積は900万平方キロメートルに足りず、その90%以上はオーストラリア大陸とニュージーランドが占めている。残りは諸島部と言われる小さな島々から構成されているのだが、オリンピックでは女子サッカー代表全12枠の内1枠が割り振られる重要な地域でもある。
2月28日、アジア2枠の最終予選が行われ、FIFA女子ランキングでアジア最高の8位につける“なでしこジャパン”が9位と肉薄する北朝鮮と対戦し、辛うじて代表の座を獲得した。もう1枠は12位のオーストラリアが47位のウズベキスタンと戦い、ホームで衝撃の10-0というスコアを記録して3大会連続5回目の出場権を勝ちとっている。
中東から中央アジア、インド、中国を経てアセアン諸国から極東の日本まで、世界の半分以上を占めるエリアと人口を持つAFC(アジアサッカー連盟)に割り振られた枠は2つだけだ。OFC(オセアニアサッカー連盟)の1枠とのアンバランスが目立つ。しかも2006年以降オーストラリアがアジア枠に移動してきたことで、2枠あるとはいえAFCは“死の組”となっている。逆にニュージーランドはFIFA30位だが、2006年以降は天敵オーストラリアがいなくなりオリンピック5回連続出場を楽々と果たしている。
オーストラリアは2006年にオセアニアからアジアに転籍した。表向きはアジアの方が出場枠が多く、強豪と対戦する機会が増え強化につながるという理由だった。因みにオーストラリアがアジアに属しているのは団体競技のサッカーとバレーボールだ。陸上、水泳、トライアスロン、カヌー、ボブスレー、バドミントンなどの個人競技では相変わらずオセアニアに残っている。メダルの可能性を計算した英連邦の狙いが透けて見える。
広大なアジアエリアから極東の日本とオーストラリアを代表に送り出す西アジアや中東、中央アジアの国々は、この状況に何を思うのだろう?サッカーが英国発の競技とはいえ、そろそろ英連邦の横暴を終わらせてもいいだろう。

| 24.03.08

スピーク・ナウ

約5年ぶりとなるテイラー・スウィフトのコンサートが東京ドームで、2月7日から10日まで4日連続で行われた。翌11日のラスベガスでのスーパーボウル観戦を望む彼女の気持ちを知った在米日本大使館は、公式のX(旧ツイッター)に英語とスペイン語で「コンサートの夜に東京を発てばスーパーボウルに間に合うと自信を持って『スピーク・ナウ(曲名)』します」と粋な投稿をして反響を呼んだ。普段はお堅い大使館の異例の声明に関心が集まり、米メディアが「日本大使館はファンの不安を和らげようとしている」(CNN)と紹介、“いいね”が4万件を超えたそうだ。
今回のコンサートは昨年3月からの世界ツアー「The Eras Tour」の一環だ。今年の米グラミー賞で女性アーティストとして史上初4回目の最優秀アルバム賞に輝いた彼女の、受賞後初のコンサートが東京だったのだ。受賞作「ミッドナイツ」の収録曲や、人気曲「私たちは絶対にヨリを戻したりしない」など計45曲を歌い観客を沸かせた。
テイラー・スウィフトは1989年12月13日ペンシルベニア生まれの34歳。グラミー賞で最も栄誉ある「年間最優秀アルバム賞」を最年少(当時20歳)で受賞し、アルバム総売上枚数は1億4千万枚超え。タイム誌の「パーソン・オブ・ザ・イヤー 2023」にもバービーや英チャールズ国王を抑えて選ばれている。「現在地球上で、彼女以上に人々を感動させる人物はいない」というのが選出理由だ。
同誌は、外交にも影響を与える米国の「ソフトパワー」の権化とまで讃えている。インスタグラムのフォロワー数は2億8,000万人を超え、あのドナルド・トランプも自身のSNSで「バイデンを支持しないで」とメッセージを送ったほどだ。女性の権利を擁護して白人至上主義に反対し、またLGBTQコミュニティの権利擁護も掲げている。歌手であって、政治に関心が薄い浮動票への最も強いインフルエンサーなのだ。
彼女の音楽のルーツは意外にもカントリー・ミュージック。米国の西部開拓時代から続く草の根のアメリカ開拓魂を揺さぶり、今はその枠を飛び出してさまざまな音楽ジャンルのエッセンスを取り入れた楽曲を発表している。原盤権をめぐる著作権の戦いを曲名にするなど、変化を恐れず私生活をもさらけ出す、現代のアメリカを代表するアーティストだと言える。
日本は政治を諦めている有権者が5割を超える浮動票の国だ。テイラー・スウィフトの日本での人気は「スピーク・ナウ」する日本人アーティストが見当たらないからかも知れない。

| 24.03.01

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