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TSMC

現代文明は半導体によって支えられているといっても過言ではないだろう。半導体無しでは最新のiPhoneも車も生成AIも実現できない。そして7nm以下の最先端半導体の92%を製造している台湾積体電路製造(TSMC)は、今や世界で極めて重要な存在である。
先月2月24日TSMCの熊本工場が遂に完成し、その投資額が1兆円(日本政府の補助金4760億円)を超えて世間を騒がせた。しかしこれはまだ序章に過ぎないようだ。TSMCは当初台湾以外に半導体受託製造(ファウンドリー)施設を建設する気はさらさらなかったようだが、一転して米日独の3か国に進出することを決めた。米国が厳しすぎる対中輸出規制「2022・10・7」を発表し米中の半導体摩擦が究極まで高まったため、米国の安全保障上早めに西側同盟国(米日独)に設備分散させる判断となったわけだ。
現在米国ナスダック市場を牽引している半導体大手エヌビディア(NVIDIA)は、GPU(グラフィックスプロセッサユニット)を企画開発するファブレス企業だ。1993年の創立以来一貫してGPUを手掛け、今や生成AI開発やデジタルツインといった分野で全米トップの企業だが、半導体製造はTSMCの技術に完全依存している。
1980年代まで日本の電気メーカーは「日の丸半導体」で世界を席巻し、ジャパン アズ ナンバーワンと持ち上げられていた。しかし設計から生産まで一貫して手掛ける垂直統合型だったことが災いし、半導体調達リスクもを回避できず凋落を招いてしまった。一方TSMCの創業者張忠謀は、ファブレス企業が設計した半導体の受託製造だけを担う「ファウンドリー」というビジネスモデルに集中した。こうした水平統合型への発想が半導体製造でのパラダイム転換を可能にしたのだ。
台湾は九州ほどの面積に約2400万人が住む小さな島だが、今や文明の未来にとって超重要な国になりつつある。そのためかあらゆる有事に備える姿勢が髄所に見られる。シェルター(防空壕)を全土に10万カ所以上完備、電線の地中化率も98%(東京7%、大阪5%)に達している。
台湾にとっての有事は対中国だけを言うのではない。「産業の米」と言われる半導体産業をあらゆる災難から守るという覚悟だ。災害が起こるたびに「想定外」を繰り返す日本とは大違いだ。
TSMCの日本進出の価値は半導体ファウンドリー技術獲得にあるのではなく、自立した国家として「産業の米」を守る“責任感”を学ぶことにある。

| 24.03.22

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