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令和の非常識

宮藤官九郎脚本の異色作、意識低い系タイムスリップコメディードラマ「不適切にもほどがある!」(TBS系)が今話題だ。1986年(昭和61年)と2024年(令和6年)の時をかける、昭和のスパルタ体育教師・小川市郎が、コンプライアンスでがんじがらめになった令和の人々に“当たり前” と “不適切” を考えるきっかけを与えるというものだ。
「この作品には不適切な台詞や喫煙シーンが・・・」というお断りテロップを盾に、コンプラ的に完全アウトな台詞や放送禁止ギリギリなシーンが毎回登場する。昭和の “なんでもあり” 感がこれでもかというほどに詰め込まれる映像にニヤリとする視聴者が続出、SNS上では毎週喝采が送られていると言うのだ。
ドラマでは戦後生まれアラフォー以上の人にとって「昭和はそういえばこんな時代だったなあ~」と、そんなに前でもないのに懐かしい場面が続く。反面、昭和を知らない人にとっては新鮮な景色だ。特に物心ついた時から“コンプラ時代”を生きている若年層にしてみれば、自由な明るい昭和の話はファンタジーか。
世にいうバブル経済が席巻したのは1986年から1991年頃だが、昭和の高度成長を締めくくる「最後にして最強の浮かれた時代」がこのドラマの時代設定だから面白懐かしい。バブルに上り詰める前、庶民は花金枠の「11PM」で大橋巨泉と松岡きっこの発禁スレスレの生放送を楽しみ、巷に登場するノーパン喫茶に高揚し、渋谷駅前ではオウム真理教が変なお面を被って踊り狂う。ジュリアナ東京がバブルの終焉を予感させる頃にはこんなにも自由で浮かれていたのかと、今更ながらゾーッとさせられる時代だ。
自民党の裏金問題も、要はそんな自由な昭和が“常識”だった世代の議員達が、そのまま何の罪の意識もなく現金で票を買うことを常態化させ、令和になって突然“非常識”と言われてもピンとこなかったわけだ。政治家の派閥と裏金問題、芸能界の性加害問題、有名歌劇団の陰湿パワハラ問題など、全て同根の「昭和の常識、令和の非常識」だろう。
今年は昭和99年だそうだ。昭和100年を前に、バブル期につけた日経平均株価の史上最高値の更新が迫って来た。当時の円相場147円も現在のドル円相場とほぼ同じだ。違うのはバブル後の惨状を知る令和の日本人は浮かれることもなく高騰する日経平均を見つめることだ。
日本は今、中国の富裕層が最も移住したい国だそうだ。狂乱バブルの爪痕が残る習近平体制下で息苦しさを感じる富裕中国人は、令和の日本に安心感を求めるのだろう。

| 24.02.23

ローソン

2月6日、KDDIはTOBをかけてローソンの株式を入手し、現大株主の三菱商事と50%ずつ保有する「共同経営」体制へ移行すると発表した。KDDIにとって過去最大規模のM&Aであるが、高橋誠社長が言う投資理由「時代の変革期なので、思い切った投資を決断した」だけでは説得力に乏しく、翌日KDDIの株価は大きく値を下げた。
それまで2%の株主だったKDDIが突如5000億円を投じて50%の株主になる理由は何か?その背景は明快に示されず、単に利益剰余金が約5.4兆円にまで積み上っていたからではないかと揶揄する声もあった。ローソンの23年度純利益は500億円で、コンビニ事業への純投資なのかと疑う向きも・・・競合の通信キャリアからも「驚いている」(ソフトバンク宮川潤一社長)との声が上がっている。
ローソンは当時の親会社ダイエーが、米国ローソンミルク社のFCで1975年に大阪府豊中市に開店した「桜塚店」が1号店だ。日本のコンビニは1970年代初頭に、大手小売業のドミナント戦略で地域に密着する形で出店を競い合い発展してきた。しかし業界の規模が5兆円を超える頃から激しいエリア競合による疲弊から統合の時代に入り、「セブンイレブン」「ファミリーマート」「ローソン」の3社に集約されて来た経緯がある。
売上利益で他の2社を大きく引き離す最大手セブンイレブンだが、日本国内の店舗数は2020年2月の約22,500店をピークに伸び悩んでいる。一方海外店舗数は若い成長市場に支えられて国内の約2倍の50,000店に達した。ファミリーマートは2021年1月に国内16,658店 海外8,316店、ローソンは国内14,524店 海外3,586店で、2社は純利益でセブンイレブンに4倍以上もの大差をつけられているのだ。
人口減少に入った日本は小売業としてのコンビニ事業に将来性があるとは言えない。片や通信業としてのKDDIはau携帯のシェアが現在27%である。ローソンを訪れる顧客の4人に1人はauユーザーだとも言える。auユーザーのエリア動向というビッグデータを近隣ローソンに提供し、auペイでポイント5%還元を実現できれば、顧客の囲い込みでKDDIにもメリットがある。DXによるau経済圏の構築には未知なる可能性が広がるだろう。
丸の内に本社を構える三菱商事と大手町のKDDI。その2社が派遣する役員に、泥くさく地を這いつくばるドミナント戦略で勝ち抜ける人材は残念ながら期待できない。「AI決済機能」に優れる第3のパートナーが必要だ。いずれにしても漁夫の利を得たのは三菱商事だろう。

| 24.02.16

革命魂

フランス全土から首都パリへ続く道、空港への道、ランジス(世界最大とも言われる生鮮市場)への道は、怒りに満ちたフランス農民のトラクターの車列で2週間以上にもわたって封鎖された。この大規模な抗議デモは直接的には政府のウクライナ支援のしわ寄せにも起因する。フランス国内で使用禁止の農薬を使った大量のウクライナ産農作物が安く輸入されることへの怒りである。更には2030年以降のディーゼルエンジンの廃止と増税、加えてEUが2023年から始めた共通農業政策「持続可能な農業と環境保全のためにすべての農家が農地の4%を休耕地とする義務」への不満等が重なっている。
この直接行動の背景には1789年のフランス革命が共和国を創ったというフランス国民の自信と誇り、ある種の「革命魂」があるのではないだろうか。ルーブル美術館にはフランス人の魂の原点として愛されるドラクロワの「民衆を導く自由の女神」という絵がある。これは1830年の「七月革命」をモチーフに描かれた作品だ。
日本でも世界で最も成功した革命と言われる「明治維新」が、封建制度から脱却する新しい日本を産み落としたかに見えた時代があった。しかし不幸にもアジアに進出する欧米列強に追従する植民地政策に明け暮れ、最終的に原爆投下を受けて大日本帝国を精算させられている。この革命?の過程に民意は乏しく、詰まるところお上が入れ替わっただけだった。
戦後は一転、米国への必要以上の盲従と忖度を産み、歴代政権は米国の傀儡政権と揶揄されつつ日米安全保障条約と日米地位協定を国体の礎とした。60-70年代の激しい安保闘争は一時期日本人の民意と反骨精神を大いに見せつけたが、染みついたお上を崇める体質は「革命魂」を民に植え付けるには至らなかった。日本人はいつから反骨精神を失ったのだろうか。
岸田首相は施政方針演説で2月7日の「北方領土の日」に触れ、ロシアとの平和友好条約締結に努力すると発言したが、メドベージェフ元大統領は岸田首相の空念仏のような気持ちのこもっていない発言を見逃さず、「原爆と本土空爆で200万人の国民を殺戮されても無条件に米国に追従する日本に、クリル諸島の領有権を交渉する権利は無い」と即座に皮肉られている。これこそ日本人が失った「革命魂」への強烈なカウンターパンチであろう。
史上最低の支持率のまま4月に米国の国賓待遇の招待を受けるのだろうか?もはやその姿に日本人の尊厳や反骨精神はない。70年安保闘争最後のテロリストも50年間逃げ切った後、本名で死んだ。
日本はフランスの「革命魂」に学ぶこと多し。

| 24.02.09

ミス日本

一般社団法人「ミス日本協会(Miss Japan Association)」主催で毎年開催される「ミス日本(Miss Nippon)コンテスト」は、現存する日本のミスコンで最も長い歴史を持つ。1950年に始まり、途中中断を経て1967年に美容研究団体の和田研究所によって復活している。「日本らしい美しさ」を掲げて「将来日本に活力をもたらすような人物が輩出されることを願い、選抜や育成を行う」としている。
1月22日の「第56回ミス日本コンテスト」で、両親がウクライナ人の椎野カロリーナさんがグランプリに選ばれた。在日20年を超えるものの、2年前に帰化したばかりでグランプリに輝いたことがマスコミを賑わすことになる。「日本の美を象徴するのは今やウクライナ生まれのモデルなのか」と、コンテスト審査員らの判断に対し、日本人の文化的アイデンティティを巡って議論を巻き起こしているのだ。
(社)ミス日本協会の公式サイトでは「ミス日本の美しさとは見た目の容姿だけでなく、心の持ちようや社交性など幅広い人間性が問われる」と記され、日本国内において完結するものとして世界4大ミスコンの日本代表選出とは一線を画している。
コロナ禍直前の2019年、在留外国人は293万人(法務省出入国管理庁)、訪日外国人は3188万人(日本政府観光局)を記録している。コロナ禍で訪日外国人数は激減したが、2021年6月時点の在留外国人は約282万人とわずか4%の減少に止まった。そして日本人出生数が減少する中、2020年の外国人出生数は過去最高の1万8797人を記録している。英語圏や中国語圏、更には韓国、ベトナム、ネパール、インドネシアなど多国籍化し多言語化している。OECD調べでは、今や日本は世界第4位の移民大国なのだ。
大半の人が思う日本人像とはいつ作られたものなのだろうか。17世紀の初めから1854年の日米和親条約締結までの約210年間の鎖国時代に熟成した江戸の町民文化はその一つだろう。今回のミス日本グランプリに違和感を持った人は、江戸時代に醸成された古い日本人のイメージに拘り、世界第4位の移民大国となった現在の日本を直視していない。2018年に米調査機関ピュー・リサーチ・センターが実施した調査では、実際に移民が国を強くするとの見方を示した日本人は回答者の59%にも上っていたそうだ。
椎野カロリーナ問題は日本人の意識を短期間に国際化する好機である。その意味で今回(社)ミス日本協会は日本人の将来を拓く素晴らしい仕事をしたと言えよう。

| 24.02.02

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