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インクルーシブ・ウェルス

昨年、日本の一人当たりGDPは韓国にも抜かれ、もはや先進国ではないと多くの国民が嘆くが果たしてそうなのだろうか?年間に生み出した富の総量だけを示すGDP(国内総生産)をもって国や国民の豊かさを測ることは難しいとは誰もが思うことだ。

2024年のGDPランキングは1位アメリカ、2位中国、3位ドイツである。円安の影響で日本は4位に下がり、25年には急激に経済成長するインドの後塵を拝して5位になると予想される。一方一人当たりGDPではルクセンブルクやアイルランド、スイス、シンガポールといった人口の少ない租税回避国が上位にランクされる。製造業を中心とする大国アメリカは7位、ドイツ17位、韓国36位、日本は38位で、人口が多い中国は74位、インドに至っては144位である。

2008年2月にサルコジ仏大統領の諮問によって「経済パフォーマンスと社会の進歩の測定に関する委員会(CMEPSP)」が設立された。これは、GDP一辺倒で国富を計る方法への疑問から、ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・スティグリッツ教授(コロンビア大学)を委員長に、アマルティア・セン教授(ハーバード大学)をアドバイザーに設立され、「インクルーシブ・ウェルス・インデックス」(inclusive Wealth Index)、略して「IWI」という概念が提唱された。GDPに依存しすぎない「包括的豊かさ」を示す指標として国連環境計画も2012年より「Inclusive Wealth Report」を毎年発表している。

「IWI」は人間・社会・環境への包摂的アプローチで国家の真の豊かさを評価する指標であるところがポイントだ。具体的には、道路、建物、機械、インフラなどの「人工資本」、教育、健康、公共モラルなどの「人的資本」、資源、食糧生産、気候風土などの「自然資本」の3つの資本のストック量とそれぞれのシャドウプライス(潜在価格)を掛け合わせて算出されている。

これまでのように経済の発展だけに重きを置くGDPが社会の価値体系の中心であり続けると、行き過ぎた経済発展だけを追い、同時に進む自然破壊や次世代の暮らしを脅かす諸問題を見落とすことになる。「インクルーシブ・ウェルス」はその国の発展の持続可能性をも表し、将来世代の豊かさの基盤となる国富(資本)を担保できているかもチェックする。

日本は戦後80年間、国の発展の指標としてGDPにこだわってきたが、自国の「IWI」がアメリカ、ドイツと並び世界トップレベルあることをもっと自覚していいのではないだろうか。

| 25.09.26

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