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団地再考(最高)

60年代中頃から当時設立間もない日本住宅公団(現UR都市機構)が整備を進めた「滝山団地」を舞台にした小泉今日子×小林聡美W主演のNHKプレミアムドラマ「団地のふたり」が、昨年10月にギャラクシー賞月間賞を受賞し、今年暮れから一挙再放送されることが決定した。凄い人気ぶりだ。また同じロケ地で4月1日からスタートしている桜井ユキ主演のNHKドラマ10「しあわせは食べて寝て待て」も人気で、第一話が「NHKプラス」でNHKドラマ史上最高の視聴率を達成したそうだ(大河ドラマと朝ドラを除く)。どちらも派手な演出や複雑な考察などないドラマだが、「ささやかな幸せに憧れる」「なんかいい暮らし」と俄然再評価されている。

なぜ今「団地」なのだろうか。しかも数ある団地の中で公団初期のものだけが?

設立当初の日本住宅公団には多くの優秀な建築技師や理想に燃えた理論家が集まっていた。戦後の日本人の住まいを量的に供給するだけでなく、近隣住区思想や共有空間(コモン)、公園やプレイロットの有効的な設置など、住民同士の交流や子育て環境といった現代の住宅開発やマンション設計にも通ずる重要なテーマを議論し尽くしていた。建設省からは下河辺淳が、住宅公団の設計課長には本庄和彦や後に独立する杉浦進など建築界の新進気鋭の頭脳たちが集結し、緑あふれる「独立した新しい街づくり」を標榜して初期の滝山団地や旭が丘団地の開発に情熱を注いだ。結果、そのすぐれた全体計画やオープンスペースなどのコンセプトが理想的に反映された「団地」は庶民の憧れの的となったのだ。

しかしその後70-80年代には高島平団地のように次第に高層化され無機質に大型化し、90年代のバブル崩壊前後には入居率が下がって非人間的廃墟とまで言われるような凋落ぶりを呈した。

ドラマで初期の「団地」の代表作である滝山団地を舞台に描かれるスローライフは、図らずも日本人が失った30年の挙句に辿り着いた、理想の「身の丈にあった日本」を象徴する価値観を映し出すことに成功している。その、時を超えた価値観の見事なマッチングに日本の若者は共感を覚えるのだろう。

下河辺たちが活躍した時代から50年の時を経て今、URでは無印良品との協業による「MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト」が進んでいるが、これはあくまでもユニットデザインの現代化による再生を求めるだけのもので本質とは遠い。

人口減少と繰り返される自然災害の中、かつて日本住宅公団の叡智が議論を尽くして産み出した、世代を超えて共存できるライフスタイル「団地」を本質的に「再考」してみてはどうだろうか。

| 25.05.30 | Permalink

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