不本意な孤独
近年「おひとり様」向けビジネスが急伸している。外食産業では「一人客」専用の席や独自のプランが設けられ、アウトドア業界でも「ソロキャンプ」がブームだ。あたかも「おひとり様」は自由で快適な生き方をしているかのようだが、イメージとは裏腹に人間関係の希薄化によって生じる「不本意な孤独」が潜んでいるようだ。英誌エコノミストが2018年に日米英3カ国を対象に行った「孤独」に関する意識調査で、日本人の44%が「孤独は(不本意ながらも)自己責任」と考えていたのだ。これはアメリカ人の23%、イギリス人の11%と比べて突出して高い。果たして「日本人の孤独」は本当に自己責任なのだろうか。
中央大学文学部の高瀬堅吉教授らによる「日本人の孤独感」のレポートに示唆に富んだ記述がある。1978年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校で発案され現代の孤独研究の普遍的基準とされている「UCLA孤独感尺度」を用いて、1983年から2023年の約40年間に実施された内外5万人が参加した調査の結果、日本人の青年期(中学生~大学生)の孤独感はこの間に著しく上昇し、成人期や老年期(65歳以上)を遥かに上回るそうだ。また男性の方が女性より孤独感が高いという結果も出ている。
この時期はバブル経済崩壊後の「失われた30年」と呼ばれる期間と一致している。更に「独身研究家」の荒川和久氏は、20年後には女性の4割、男性の5割が生涯子どもを持たない「無子化社会」が到来するという衝撃的予測を発表している。
現在の日本政府の少子化対策は第二子・第三子の子育て支援に重点が置かれていて、「日本人の孤独感」問題の本質が現在働き盛りの世代に「第一子が生まれていない」ことにあるという事実に真剣に向き合っていないと感じさせてしまう。
バブル崩壊後の日本経済の収縮期に長時間労働を強いられ、その後の在宅勤務化で出会いの機会が減った世代は将来への不安を持っている。SNSが過度に発達し、いくらAIが相談相手となって寄り添ってくれてもAIとの間に子供はできない。
この「不本意な孤独」に満ちた社会が生まれた背景に、高度成長期に日本の社会保障制度の設計を担った官僚が、結果自分たちの世代だけが食い逃げするような制度を敢行したことに一因があるのは明らかだ。彼らは今、現役世代の過度に高い社会保障費や富裕層の資産フライトを招く社会の分断化を優雅な天下り先からどう見ているのだろうか。
もし当時の官僚の読みの浅さに起因して日本人が「孤独は自己責任」と感じているとしたら、それはあまりにも悲しい。
| 26.05.29