ラグジュアリー・シェイム
世界の消費マーケットでは「ラグジュアリー・シェイム」という言葉が存在感を持ってきた。コンサルタント大手のベイン・アンド・カンパニーは米フォーチュン誌で「米国の富裕層は高級品を買っても、それを他人に見せびらかしたくないという感情を抱くようになっている」と分析する。富の偏りによって産み出される分断された世界で、成功者たちは明らかに「富裕層」に見られないように努めている。
2008年のリーマン・ショックでは多くの人々が仕事や家を失った。その渦中で富を誇示することは余りにも無神経であることから、密かに贅沢を楽しむ行動パターンを「ラグジュアリー・シェイム(贅沢への恥)」と呼び、高級品や贅沢なライフスタイルを人に見せびらかすことなく味わうことが米国社会のトレンドになっていた。このライフスタイルは昨今、中国や日本にも伝播している。
その象徴が自身の名前が付いたエルメスのバッグを愛用したジェーン・バーキンではないだろうか。最近、彼女が実際に使っていたオリジナルの「バーキン」が、サザビーズのオークションでなんと15億円でしかも日本人によって落札されている。ラフなジーンズとサンダル姿でエルメス最高のバッグをスーパーのトートバッグのように使い倒し、そのあっけらかんと気取らないライフスタイルを演出したバーキン。15億円はバッグそのものの値段ではなく、彼女の持つ「ラグジュアリー・シェイム」へのオマージュなのだろう。
このような富裕層の消費行動の変化は、特に若い世代で顕著なようだ。彼らはより控えめで社会的配慮がされた消費を重視する。大都市のど真ん中を異様な排気音を立てて走り去る派手な色のランボルギーニやフェラーリの時代はもう過ぎ去りつつある。教養と上品さを重視する消費行動の変化は、欧米の高級ブランドにとっては一時的にダメージだ。成長の鈍化とともに売り上げにも陰りが出ている。
今輝いているのはイタリアの「ブルネロクチネリ」のように「ラグジュアリー・シェイム」を体現しているブランドではないだろうか。世界最高水準のカシミア製品だが、職人には高い給料を支払い、光が差し込む美しい労働環境を用意するなど制作現場も美しい。働く人の尊厳を大切にすることで職人が責任感を抱き、ブランドとしても発展する。また人口500人ほどの小さなソロメオ村に本社を置くことで付加価値をも上げている。
こうした現実を見ると、皮肉なことに世界は「ラグジュアリー・シェイム」によって更に“真の分断”に向かっているようだ。
| 25.07.25