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モンスター配信

6月7日にさいたまスーパーアリーナで行われたプロボクシングバンタム級世界3団体統一王座決定戦は、WBA・IBF王者の井上尚弥がWBC王者ノニト・ドネア(フィリピン)を2回1分24秒TKOで下し、日本選手初の3団体統一王者となった。文字通りモンスター井上尚弥の圧勝劇で、世界中から大きな反響を呼んだ。
今回の井上・ドネア戦は地上波テレビではなく、会員制ネット動画配信サービス「アマゾンプライムビデオ」のみで生配信された。アマゾンジャパンによると、視聴数は日本でサービスを開始した15年9月以降最高をマーク、プライム会員の新規登録数も予想を遥かに上回ったそうだ。
ネット配信を通じたモンスター井上尚弥のインパクトがどれほどのものであったかは、試合後ボクシング界で最も権威ある米国の老舗専門誌「ザ・リング」が、全階級を通じて選定する最強王者ランキング「パウンド・フォー・パウンド(PFP)」に井上を日本人選手として初めて1 位に選んだことでも明らか。ボクサーとして世界最強であり、商品価値もまた世界最高だと認められたのだ。過去にはマイク・タイソン(米国)やマニー・パッキャオ(フィリピン)が選ばれている。
井上の試合が2戦連続地上波テレビで放送されなかったことに既存のテレビ局はやきもきしているが、関口宏は自身がMCを務める番組で、2回TKO勝ちで終わった試合に、「だけどね、テレビ局は困っちゃうんですよ。早く終わっちゃうんで」とコメント。テレビ制作側から地上波放送が既に蚊帳の外である実態を露呈した形だ。
広告収入に支えられる「無料放送」の場合、高視聴率が予想されスポンサーがつく確証がないと、破格のファイトマネーや高騰した放映権料を払いきれない。その結果、海外のスポーツ中継では有料映像配信サービスDAZN(ダゾーン)などによる視聴が定着し、日本でもプロ野球の一部やサッカーJリーグなどが既にネット配信に移行している。
一方で英国のように、国民の関心が高い大会や試合を有料放送で独占中継することを禁じている国もある。スポーツに「公共財」としての価値を認め、五輪やサッカーのワールドカップ、テニスのウィンブルドン選手権決勝など「Crown Jewel」と呼ばれる注目イベントは、BBC放送などテレビ地上波で生中継される。これも見識である。
有料か無料か?ネット配信か地上波テレビか?モンスター配信が日本の映像配信の未来を決める分岐点になったようだ。

| 22.06.17

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