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ととのう

新型コロナウイルス禍の中、サウナへの注目が集まっている。昭和30年代後半、平成初期に続き、今は第3次ブームの真っただ中だそうだ。コロナの感染拡大を背景に個室型やテント型まで登場している。2021年の「新語・流行語大賞」にサウナ愛好者が使う「ととのう」という言葉がノミネートされたほどだ。
サウナ→水風呂→休憩を3回ほどくりかえすことで訪れる一種のトランス状態のことを「ととのう」というらしい。マラソンでも苦しい時期を乗り越えると突然ふっと身体が軽くなり、「今ならどこまででも走れそう」という「ランナーズハイ」が訪れる瞬間がある。さしずめサウナ版「ランナーズハイ」が「ととのう」という状態のようだ。
サウナと水風呂交互の温冷刺激によって、脳内で「β-エンドルフィン」「オキシトシン」「セロトニン」という3つの物質が分泌されることが分かっている。「β-エンドルフィン」はモルヒネと同じような物質で、鎮痛効果や気分の高揚・幸福感が得られる“脳内麻薬”だ。「オキシトシン」はストレス緩和、「セロトニン」はうつ症状の改善や精神安定の効果がある。これらの分泌が「ととのう」という状態を作り出すのだろう。
ところで「サウナ」は世界中で最も有名なフィンランド語だとも言われている。それだけフィンランドの文化には蒸気浴が深く根付いている。
フィンランドのサウナでは、テレビやスマートフォンなど人を追い立てるようなデジタル機器から離れて、「無」になる時間を仲間と共有する。質素な狭い部屋の中で日々の緊張から解き放たれ、心をととのえて黙々と汗を流す。これは狭い茶室で心をととのえ、自然や精神の変化を楽しむ日本の茶道にも通じる!?日本の「ととのう」という感覚と、フィンランドのサウナで心が解放される状態は、狭い部屋の中で隣人と空気を共有して生まれるという共通項はある。
フィンランドでは今、1300kmにわたるロシアとの国境が穏やかではない。そしてNATOへ加盟しようとしている。この流れはスウェーデンをはじめ他の北欧諸国に伝播しつつある。これまで東西の政治的緩衝帯として中立を保ってきたフィンランドの役目が失われる。
日本の茶室は刀を使えないように意図的に狭く設えられているが、フィンランドのサウナ空間も裸で付き合う狭い空間だ。
フィンランドはNATOという「刀」を選択した。これで世界は「ととのう」機会を失うのか?「フィンランディア」を作曲したシベリウスが泣いている。

| 22.05.20

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